♪人間
THE BACK HORN
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人間、懺悔
「被告人を死刑に処する」

裁判長がそう告げた瞬間、雷に撃たれたような衝撃が走り耳元で裁きの鐘が鳴り響いた気がしました。



私は、大罪を犯した人間でした。

どうしてだか、どのように、どんな罪を犯したのか覚えていません。ただ、心に染み付く一抹の不安と、私の周りに無数の死体が転がり、足下一面が赤に塗れていたことだけが、記憶にはっきりと残っています。
そしてふと見渡すと、何時の間にか沢山の人に囲まれ、私は裁かれていました。

気付けば、私の側にはいつも看守がいて、手には鉄の輪が付けられ、規則正しい生活をしていました。
そして、誰もが私に優しかったのです。以前の環境では、全く、考えもしないことでした。
同情のような、とってつけた優しさに、私は気味悪さも通り越し、心地よささえ感じていたのです。

世界が終わるまであと五日という日に、私の愛する人がやってきました。
前より窶れた顔で、彼女は警官と一緒に部屋へ入ってきました。
まず「人殺しめ」という罵詈が出てくるのかと思えば、彼女の第一声は意外なものでした。

「元気にしてた?体は大丈夫なの?」

あと一週間も満たないうちに処刑される人間に、彼女はそんな言葉をかけたのです。私は、驚きのあまり、声が出ませんでした。
大丈夫だと私が呟くと、彼女は安堵の表情を見せました。私の一言で、陰が消えたように顔付きが明るくなったのです。
私も、彼女につられて笑いました。何か月ぶりかの笑顔だったと思います。



それから、たわいもない話をしました。
昨日食べた煮付けが甘かっただとか、雨で洗濯物が乾かないだとか、罪人だと忘れさせるような平凡な話でした。

面会時間が残り十分というところで、彼女が涙を零したのです。私は吃驚した反面、安心しました。私の愛は一方通行ではなかった、憐れみの涙であれど、彼女は私を思ってくれている。
彼女は、無言で涙を流していました。私は、涙を拭ってやることも出来ず、ただ見ていました。

「君は、私といて楽しかったかい」

私が呟くと、彼女は俯いたままで頷きました。

「こんな人間を、愛してくれていたかい」

また、彼女は頷きました。

「なら良いんだ。君はこれから、私を忘れるなり記憶から抹殺するなり、好きにしてくれ。もし君に、大切な人が出来たとしたら、私と同じくらいの愛を与えてくれ。それで私は救われる」

私の心は届いたようで、彼女は顔を歪めながらも頷いてくれました。それと同時に、警官の濁声が面会終了を告げました。
彼女は去り際に、此方を振り返りました。その顔は、微笑んでいたのです。

「愛してる。今までも、これからも」

数秒、呼吸が止まった気がしました。彼女の背中が消えていくのを、ただ立ち尽くし見ていました。

「彼女をこれ以上悲しませたくないなら、真っ当な人間に生まれ変わることだ。生まれ変わって、もう一度彼女の隣に戻るんだ」

警官が言い終えた瞬間、私の目から涙が零れ落ちました。


私は、救いようのない人間でした。

陰鬱で寡黙で、人付き合いも悪い臆病者。そんな私にも、人生は長く、続きがありました。
けれど、一抹の不安には勝てなかったのです。ふと頭を掠める不安。渦を巻きながら近付いてくる絶望。それらには勝てなかったのです。

救いようのない人間。穢れた人間。罪を犯した人間。哀れな人間。
それでも、そんな私にも愛を与えてくれる、人間がいたのです。世界の終末に立った今それに気付き、どうして罪を犯したのかと、今、それを悔やみました。

裁きの鐘が鳴り響いた時には全てが遅すぎたのです。


階段を登った先には、輪になった縄と終焉がぶら下がっていました。不思議と、悲しみや恐怖はなく、終わる虚無感の端に、清々しささえありました。
崩壊した私の全てを清算するためならば、縄に首を掛けることなど、何の抵抗もなかったのです。

裁きの鐘が、再び打ち鳴らされました。
そっと目を閉じると、彼女の顔や愛おしい思い出が一気に溢れ出しました。
流れる涙もそのままに、縄に首を掛け、て、