星もつかめない透けた手で

「一度あけたら戻れないんだね」
「え?」

彼女は瓶から口を離して言った。両手で抱えるその姿はいつもより幼く見えた。

「ラムネ。栓をしてたビー玉は取れないから、もう蓋は出来ないよね」

お前は炭酸を一度に飲み切れないような可愛い子供ではなかったろ、と思いつつ。
次の瞬間にはその感傷的な表情をぱつんと切り離したように、ねえラムネのビー玉ってどうやって取るのかなあ、小さい時からずっと欲しかったんだけど、といつものように笑う彼女を見ていた。
その瓶を上から取り上げる。

「……あ」
「な?普通の蓋と逆の向き…閉める時と同じ方向に回すと開くんだよ」

傾けるとからんと涼しい音を立てて球体が転がった。手のひらに落ちるそれは甘い水に塗れて、少しだけベタついていた。
取れたビー玉を彼女に渡す。夏祭りの露店を見るように目を輝かせた。

「ええっ⁉すごーい、私いくら振ったり回したりしても全然気付かなかったのに!どうしてこんなこと知ってんの?」
「さあな」

それは俺も同じようにラムネの瓶のビー玉が欲しい子供だったからで、ある時ふと思い立って蓋を逆の方向に回したら開いたのだ。

「こうして手に取れても、やっぱりああいう風に栓は出来ないね」
「工場で機械がやってるんだろうから、そうだろうな」

たかがガラス玉なのに、まるで大切な宝石をそっと摘まむようにして、陽に透かしている。
さっき聞き間違えた言葉は、もっと核心的なことかと思った。
『一度打ち明けたら戻れないんだね』
だから俺はつかえたまんまのこれに勝手に苦しんだまま、ただ温くなった自分のラムネを口に含むだけ。