理屈じゃないとはよく言ったものだ

恋というものは基本的に男女間でなりたつものなのだと思っていた。
しかし、その考えはあっさりと覆された。ある一人の男によって


「…、寿」
「ん?どうした、柳」
「すまないが教科書を見せてはもらえないだろうか」
「あの柳が忘れ物?いいぜ!」

珍しいこともあるんだな、と笑いながら机をくっつけてくる隣の席の男、寿陽和。
俺の片思いの相手だ

初めて会ったのは進級したとき。貼り出されたクラス編成に従って新しいクラスへと向かうと、最初に声をかけてきたのが寿だった
そのときはまだ普通のクラスメイトとしか感じていなかったが、いつの間にか明るくて人の輪の中心に居るような寿を意識して、目で追うようになっていた

ああ、これが恋なのかと気付いたのはそれから少し経った頃。席替えで寿の隣の席になった
柄にもなく緊張して、あいつが笑う度に心臓が速く脈を打つ
それを表面には出さずに寿と接してきたが気持ちは膨らんでいく一方だった

ただの仲の良いクラスメイト。
そんな寿の俺に対する感情を変えてみたかった、そして俺自身が、寿との関係を一歩先へ進ませたかった


「寿」
「何?」

すぐ真横に居る寿に小声で話しかける

「…好きだ」
「……!?」

耳元でそう囁けば、言葉も出せない様子の寿は顔を真っ赤にしながら俺を見つめてきた

「返事はいつでもいい」

そう呟いて前を向くと、少しして制服を引っ張られる感覚。何かと思い顔を向ければ

「…お、れも……すき」

先程よりも顔を真っ赤にした寿が居た。
驚いて、本当かと尋ねれば、何回も言わせるなとそっぽを向いてしまった。
その行動すら愛しくて、俺は周りの人に気付かれないよう、そっと陽和の手を掴み軽く口付けた。

「愛している、陽和」
「〜〜っ! …俺もだよ、バカ」



眠そうな顔も、真面目な顔も、照れた顔も。
どんな君も愛しい