遠くても繋がれている心の絆。

ホグワーツでの学生生活にも慣れてきた頃、私は夜にダンブルドア先生の部屋に来るようにと言われた。(ばれないようにやってきたふくろうが持ってきた手紙に書かれていた)
同室の皆が寝たのを見計らって、私はそっと音を立てずに部屋を出て、校長室まで行く。校長室の前にはミネルバが立っていて、私を待ってくれていた。

「こんばんは、リン」
「こんばんは、ミネルバ」

優しく抱きしめられ、私も同じように彼女の背中に腕を回す。

「学校生活はどうですか?」
「楽しいよ。寮の子も皆優しいし」
「それは良かった」

ミネルバはにこりと笑いながら、私の目を見つめる。私もその笑みに、自分の笑顔で返して、前にそびえ立つ大きい扉を見上げた。ゴイルにレモンキャンディー(おそらく合言葉)とミネルバが囁くと、螺旋階段が上は続いていき、そして扉が開かれて、中にきらびやかなローブを着たダンブルドア先生がいた。

「よぅ来たのぅリンよ」
「お久しぶりです、ダンブルドア先生」

髭の奥底でもわかるほど、優しい笑顔を浮かべながら私を抱きしめた先生にそう返す。椅子に座れと促され、私は彼の座る席の前に静かに座った。(ミネルバは私の隣に立ったままだ)

「それで...何かあったのですか?」

今回呼ばれた理由は何なのだろうか。出されたココアを両手で包みながら、私は尋ねる。ダンブルドア先生は懐から一枚の封筒を取り出し、私にそれを差し出した。
机の上に置かれた封筒をちらりと見て、もう一度彼の顔を見上げる。
彼は眉を少し上げて頷きながら、その封筒を開けてみろと促した。

手をゆっくり伸ばして封筒を見る。
アルバス・ダンブルドア様、と、綺麗な英字でかかれたその封筒を裏返せば、小さく右下に私のよく知る人の名前が書かれていた。

「これ…!!」

弾かれるように顔を上げた私を、とても優しい顔で見つめながら頷く先生。封筒と、先生を繰り返し見比べる。
隣で立っているミネルバも、私のことを見つめていた。

「そなた宛じゃ。君の名前で出すことは不可能じゃから、儂の名前で出したのであろう…」

震える手でゆっくりと封を切る。中には手紙が一枚入っていた。深呼吸を何度かして、そしてその手紙を取り出して中を確認する。

私の母国である日本語が、毎日見ていた大好きな人の筆跡で書かれていた。

『リン、元気かしら?貴方のいない毎日はとてもつまらないです。だけど、貴方が遠い国で生きていて、きっと幸せに過ごしてるって信じているから、私も頑張れています。

ホグワーツでの生活はどう?楽しい?お友達はできた?きっと貴方の事だもの、優しい性格で、明るい笑顔で、色んな人に囲まれている事でしょう。

お姉ちゃんも、貴方の無実を主張しながらお仕事を頑張っています。きっとまた貴方に会えるって、信じています。きっとまた貴方を、抱きしめて上げられるって、信じています。

風邪をひかないようにね。イギリスは日本より寒いから。もし、大丈夫なら。貴方の近況も知りたいです』

ぽつりぽつりと、音を立てて落ちる涙。慌てて袖を引っ張って目元をゴシゴシと拭く。犯罪者となった私のことを今でも妹のように思ってくれてるお姉ちゃんからの手紙だった。
身体の心配、急な環境の変化の心配。お姉ちゃんはどこまでもお姉ちゃんで。

「……儂の名前で、そなたの姉へ送ってあげよう。手紙が書けたら、また来なさい」

優しい声が降り注ぐ。その言葉に、声も出せずに何度も首を縦に振った。こんなに嬉しい事があるだろうか。もう二度と、連絡もできないと思っていた姉とこうやって繋がる事ができるなんて。

「…ありがとう…ございます…!ありがとうございます…!!」

何度も頭を下げてお礼を言う。お礼なんてものだけじゃ、足りない。だけど今の私にできることはこれだけだ。
涙をこぼしながら、嗚咽をこぼしながら、何度もダンブルドア先生に感謝の気持ちを伝えた。


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