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「バンドをやりたい!」
いつものように軽音部で、各々が自由にしていた時だった。カリムが机をバン!と大きく叩いて立ち上がった。一緒にスマホを見て、ダンスの動画見て盛り上がってたはずなのにまじで突然すぎて俺は思わず肩を震わせた。
「…え、急すぎ…」
「なになに、カリム君どうしたの?」
「バンドをやりたい!」
小さい声で言った俺の言葉はスルー。リリーがギターを壁に立てかけて優雅な所作で立ち上がった。そしてカリムの隣に立つと、これまた同じように叫んだのだ。
「バンドをやりたい!!」
「おぉ!リリアも思うか!?」
え、何この展開謎すぎる。
「さっきまで動画見てたじゃんこの動画のどこにバンド要素あったよ」
「俺達四人が踊ってる所を想像したんだけど、バンドやってるのもまた良いなぁと思ったんだよ」
「え、怖い急すぎる…」
一人で恐怖していれば、ケイトが笑いながらスマホをポケットにしまった。そして俺の肩をポンっと叩き、良いじゃんなんておもしろそうにいう。
「俺達軽音部だしね〜!バンドやろやろ!」
俺以外の3人がめっちゃくちゃに意気投合してる。机に頬杖をつきながらそんな3人を眺めていれば、リリーが「ほれなまえ、いい加減腹を決めんか」なんて言ってくるから仕方なくため息をついた。
「いいけど…曲は?」
「「「あ」」」
この3人ただのバカだと思うんだよね、俺。
「ってわけではい、3曲作ってきた」
オリジナル曲なんてものはない。それにせっかくやるならコピーじゃなくて俺たちの曲をやりたかったし。俺はあの後寮の自室に戻り、早速音楽作成機能を作って曲を3曲ほど仕上げてきた。どれもザ・正統派のバンドって感じの曲だ。
俺の国はこういう曲が流行ってたからってのもあるんだけど。
俺は目の前に座る3人に聞こえるようにパソコンの画面を向けて、一曲ずつ流していく。あのカリムでさえ黙りながら聞き込んでくれるから、ちょっとだけ照れてしまった。
3曲流れた後、部室に静音が立ち込める。誰も何も言わなかった後、カリムが椅子を転がしながら立ち上がった。激しい。
「良い!!!!!」
たったの一言、それでも拳を握って目をキラキラさせながら前のめりでそう言ってきたカリムを押しやるように、次はケイトが「これやばくない!?」なんて言ってくる。
「ワシにこのリードギター弾かせてくれんかの、なまえや」
「うん、リリーが弾くのを想定して作った」
そう言えば、リリーはまるでほぅっと妖艶なため息をついて目をうるうるさせた。なんで?何に興奮したの?この3人怖いんだけど。
「誰歌う?」
「「「俺!/ワシ!」」」
「うん、オーディションしようね」
3人同時に自分のことを指さして、そして同時に顔を見合わせた。俺が作ってきたんだから俺に歌わせる気概はないのかこいつら、とか思ってる時点で俺も結構乗り気なわけで。
「カラオケアプリで採点しよ」
そうと決まればボーカルの選定だ。皆が知ってる有名な曲を一人一回ずつ歌い、採点をする。採点が一番高かったやつがボーカルだ。
まずはカリムが意気揚々と歌い出した。
ここはステージか?と言わんばかりの輝かしい歌声を披露したあと、次にケイト。合コンなの?と思うぐらい明るい声で歌い上げて、そして何故か俺にウインクを一つした。俺は審査員かよ。
次にリリーにマイクが回った。リリーは可愛らしい見た目とは相反して、とても色気のある声で歌っている。この曲にはとても合うけど、俺の作ってきた曲に合うだろうか。
「最後はなまえくんね、はい!」
リリーの持っていたマイクをケイトが取り、俺に渡される。仕方ない、俺の作ってきた曲を俺が歌うためだ。俺は立ち上がり、マイクを握る手に力を込めて息を吸った。
「「「………」」」
歌い上げた後。3人の方を見れば、3人が3人とも全く同じ顔をして俺を見上げていた。机の前にお利口に座りながら、口をぽかんと開けている。
「…え、何…」
「なまえくんだね」
「なまえだな!」
「なまえじゃな」
俺の歌声に当てられたのか、とわざとらしくそういえば、ケイトがガバリと俺に覆い被さるように抱きついてくる。「歌うま過ぎ!欠点ないの!?」なんて騒いでる。
「大丈夫、俺だけが歌うわけじゃなくて全員に割り振り考えてるから」
ケイトの背中を撫でながらそう言えば、リリーとカリムまでもが俺の名前を叫びながら抱きついてきた。俺は親か?
そんな事もあった日を思い出して、俺たちは今ステージ裏に来ている。式典服を着て、4人ともフードを被って顔を見合わせていた。
バンドやると言ってもどこでやるか全く決めてなかった俺達。どこでその噂を聞きつけたのか、学園長がまさかの総合文化祭の余興で弾けと言ってきた時はビビった。カリムはVDCにも出るし忙しそうだったけど、全くできなかったドラムも叩けるようになったし。ケイトもベース弾きながら歌うの上手くなったし、リリーに至ってはさらにギターの技術が磨かれていた。
俺は研究発表の練習の合間にギターと歌の練習をこなした。やるからには本気出してやんねーとな。
裏からちらりと観客席を見れば、NRCだけでなく他の生徒もいっぱいにいた。
「うっわ〜…人いっぱいいるよ」
「こわ」
「楽しみだなぁ〜!」
「くふふ、カリム坊はメンタルが高いのぉ」
この中で一人だけ楽しそうにしてるカリムと、一人だけ余裕な顔をしてるリリー。俺とケイトは二人で顔を合わせて肩をすくませた。
「仕方ないかぁ〜やるって言っちゃったもんね」
「むしろ俺達が主役ぐらいの勢いでやろーぜ」
「なまえの言う通りだな!あー!楽しみだ!ジャミルにも早く見せてー!」
「くふふ、楽しみじゃ。マレウスは来ておるのかのう〜」
自由気ままな四人のバンド。軽音部の癖にいつも踊ってたりだべってるだけの俺たちも本気を出せばここまでできるんだぞ、と気合いを見せるいい場だ。いつもは気楽な3人が今じゃ最強の味方に見えてくる。俺は肩の力を抜いて、ふぅと息をついて笑った。
「頑張るか」
「だね!」
「おお!がんばろー!」
「よいのぅ、青春じゃ」
4人バラバラの拳が、上を向いた。