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ケイト先輩達がバンドやるって言ったことには驚いた。軽音部だから驚くことでもないんだけどさ。
俺たちは、VDC前の余興として現れる先輩達のバンドを見るためにステージに集まっていた。俺以外にも監督生にデュース、ジャック、エペルもいる。

遠くでは「リリア様ー!」とアイドルのオタクかというぐらいにセベクが叫んでいる。その隣では、腕を組みながらマレウス先輩を護衛してるシルバー先輩。大丈夫、あそこだけ人が全然いないからそんな警戒しなくて良いと俺は思う。

「ステージはここですか」
「チョウ先輩がバンドやるとかウケる〜」
「どうやらボーカルをやるらしいですよ」

聞こえた声に、げっと顔を顰めて後ろを見ればオクタヴィネルの3人がモストロラウンジ用の服を着てそこに立っていた。
あの3人もくるんだね、と俺の隣で監督生が小さい声でそう言った。ジロジロ見るもんでもないから俺も頷いて前を向いた。

「先輩達知り合い多いんだなー」
「レオナもいるんだゾ!」

グリムの声に視線の先を見れば、確かに気だるそうに壁に寄りかかっているレオナ先輩がいた。隣にはラギー先輩もいる。それをチラリと見た後にジャックが「あぁ」と何かを思い出した。

「わざわざ寮まで来てチラシ配ってたな、なまえさん」
「仲良いの?」
「さぁ…知らねえけど、レオナさんは嫌そうな顔しながらそのチラシ受け取ってた。お前めんどくさいって言ってたな…」

ジャックのその言葉にわかる〜と言ってしまった。多分レオナ先輩も心読まれたんだろうな。断ったら何されるかわかんない人間No.1だしね、あの人。

そうやって周りの人達を見ていれば会場の電気が消えて、あたり一面暗くなる。ステージだけがライトで照らされると、式典服をきた4人が楽器を持って現れた。本格的だなぁと見ていれば、各々の寮の生徒達が先輩達の名前を叫ぶから、俺たちもケイト先輩の名前を叫んでみた。

「なまえ氏ーーー!!」
「なまえ先輩!!!!」

俺達の声よりも明らかに大きい声なのが、実はイグニハイドの人達だった。なまえさん人気高いな。イデア先輩、ここはアイドルのステージじゃねーぞ。

4人は俺たちの黄色い声に笑うと、なまえ先輩がマイクの前に立ち、ギターを一音鳴らす。
顔を合わせて、なまえ先輩がカリム先輩に合図した後、カリム先輩がドラムのスティックを鳴らしてカウントを取り、そして曲が始まった。

「どーもー!ナイトレイヴンカレッジから来ましたNRCです!結局同じ意味だけどどうやってもバンド名が思いつかなかったのでこの名前で失礼しまーす!」

マイク越しになまえ先輩が叫ぶ。会場にいた人たちも、これ結構なライブなんじゃねーかと思ったのかどんどん人の集団が前へと向かっていく。

「俺達全員別の寮出身!学年もバラバラ!それでも想いはただ一つ!楽しけりゃそれでいいんで!」
「「「「よろしくー!」」」」

イントロ部分で早口でそう言うなまえ先輩に、周りが爆笑した。普通にかっこいいし。周りが腕を上げて盛り上がってる中一人呆然た立ち尽くすのもアレなので、俺も腕を振り上げた。隣ではグリムが俺の顔付近まで飛んでジャンプしている。

「ドラム〜!カリム!」
「うええーい!!」
「ベース、ケイトー!」
「よろしく〜!」
「リードギター!リリア!」
「頼もう!!」
「そしてー!ボーカル!!」

一人一人の紹介をした後、イントロが終わりAメロが始まる一瞬の無音の時間。なまえ先輩にのみライトが当たり、そして先輩が親指を自分の胸に突き刺してスタンドマイクを握った。

「俺!!!!」

一気に会場のボルテージが上がる。

「いや今のカッコよすぎでしょなまえ先輩」
「様になってるな…」

ギターを弾きながら歌い出すなまえ先輩の歌声にも惚れ惚れする。すげぇかっこよくて、俺達はどんどん前へと進み、男らしい声を上げながら会場を盛り上げた。

途中リリア先輩が歯でギターを弾いて会場にダイブした時なんてやばかったね。全員がリリア先輩に触れようと動かし、遠くにいるはずのセベクが「リリア様ーー!!」って泣き叫んでるのがきこえてた。カリム先輩とか華麗なドラムスティック捌きでスカラビアの連中泣かせてたしなぁ。

全部なまえ先輩が作ったらしいオリジナル曲3曲。全てかっこいい曲だったし、途中でケイト先輩と一つのマイクで歌った時なんてあれこそマジスタ映えじゃん、なんて思った。

「あーあ、この後VDCかよ超こえーわ」
「あ、あぁ……すごかったな」
「なまえのやつ、清々しい程楽しそうだったんだゾ」

グリムの言葉に確かに、と頷く。いつもめんどくさそうな感じで飄々としてるなまえ先輩だけど、軽音部の人達といる時は結構普通の笑い方してたなぁ、なんて。

あの人も年相応なんだ、と俺は一人で思った。





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