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快晴の空。白い雲。輝く太陽。あーあ、こんなに清々しい日に授業出てもなぁ、なんていう内なる悪い自分がこんにちはをする日だって少なくない。そんな時、俺はとてもとても素直にそんな自分の欲のままに行動を開始する。



要はサボる。



「……はぁーだり」

ケイトじゃないけど、だるい。しんどい。毎日毎日授業。そりゃあんだけ頭のいいレオナだって授業サボるわ。元々王子でしょ?90分も椅子に拘束されるんじゃだるいよね。私服もいつもゆるゆるだしきつくされるの嫌いそう。

なんてクソどうでもいい事考えながら、俺は煙を空に向けて吐いた。早く昼休みなんないかなぁ。隣の席のケイトは今頃怒ってるだろうな。サボる時は俺も誘って、って言ってるし。でも今日は誘う気にはならなかった。俺だって一人になりたい時もある。一人になれば大抵は、こうやって中庭の近くの木の下でしゃがみながらタバコを吸うんだけど。

そんな時、足音が聞こえた。カツカツと芝生だっていうのに革靴のヒールがなる音。音鳴らせる魔法でも使ってんのかと思うぐらい草の上でも良く鳴るそれに、俺は少しだけ眉を顰めた。
今隠したってもう匂いや煙でバレるだろ、めんどいめんどい。いいや。

「クルーウェル先生こんにちは〜ご機嫌麗しゅう?」
「…バッドボーイ、隠す素振りぐらいはしたらどうだ」

いつものふわふわのコートは着ていない、サロペットをつけた姿でクルーウェル先生が現れた。隠すこともなくタバコをふかしてる俺を、いつものように眉をしかめて見下ろしている。

俺はそれを見上げながら、舌を出して笑ってもう一度それを口につけた。

「隠したって匂いでわかるしょ。あとで怒られてあげるんで今はこれ吸い切らせてくださーい」

悪びれるそぶりを見せずに俺は最後の最後まで吸い切って、吸殻を携帯していた灰皿に捨てた。
さて、怒られるための課題でもやりますかと立ち上がろうとすれば、先生は掌を俺に見せて座れと言った。

「ステイ」

言われた通りにもう一度しゃがみ込む。なんだ?と思っていれば、先生が俺の隣に座った。

「火を貸せ」
「お〜、意外に先生も吸うんだ?」

タバコを胸ポケットから取り出して一つ咥えた先生の口元にライターを寄せる。火をつければ、そのまま先生はふぅと息を吐いた。

「多目に見てやる」
「さっすが先生〜恩にきります」

意外も意外。先生は結構タバコを吸うらしい。そのくせ全然タバコの匂いをつけてないから流石と言うか何というか。

「お前からよくタバコの匂いはしていた、が…こうも堂々と吸われると、説教する気力さえなくなる」
「俺の出身国は11からタバコ吸えるんで」
「しれっと嘘をつくな、極東は20からだ」

よくご存知で、そう呟いて俺もまた一本取り出して火をつけた。ふぅーと二人で同時に吐いた紫煙が空に向かって消えていく。
俺はしゃがんでいた足を伸ばして、木にもたれかかった。ゆっくりと目を何度か瞬かせてもう一度タバコを口につけた。

「そーいや先生授業は?」
「今は空きだ。みょうじ、お前こそ授業はどうした」
「空きです」
「お前はいつも…」

はぁ、とため息をついた先生が頭を手で覆った。
サボりたい時だってあるものだ。学年一位だって息抜きは必要でしょ?そんな事を言ってみれば、クルーウェル先生が俺の頭をパシリとひっ叩いた。

「肯定するな、バッドボーイ」
「え〜でもちゃんと成績優秀ですよ〜?」
「キングスカラーはもっと上手にサボるぞ」
「あいつ授業中寝てるし俺と変わんないじゃん」

あの人がタバコ吸ってるのかは知らないけど。ダブってるし歳も上だし別に吸ってても良さそうなもんだけどね。ダメだっていうんなら、制服着てんのがダメなんじゃねーか。

「タバコを吸い終わったら、大人しく授業にでろ」
「あー、だるいです」

だるいもんはだるい。今日はもう午後からしか出ないって決めてる。出席日数だって足りてるしレオナみたいに落とすなんて馬鹿な真似はしない。だからこればっかりは、大好きなクルーウェル先生の頼みでも聞き入れられないなぁ、なんて言ってみれば、先生はまたため息をついた。

「幸せ逃げますよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「へへ、俺のせい?」

首を傾げて聞いてみる。風がひとつ靡いて、俺の髪が揺れた。今日の毛先は白色。クルーウェル先生とお揃いなのだ。
俺は吸殻を携帯灰皿に入れて、それを先生にも差し出した。先生も吸殻をその中に入れるのを見届けたら、パタリとそれを閉じる。

「ねえ先生、先生の課外授業だったら俺、受けてもいーよ」

お揃いの毛先を指先にくるりと絡めながらわざとらしく上目遣いで聞いてみる。どうよ、綺麗な顔立ちの俺のあざとさ攻撃、効くでしょ?なんて思っていれば、先生は俺のおでこに指先をパチンっと弾いた。

「いてっ」
「お前がもっとお利口な犬になったら考えてやる」

そう、妖艶な笑みを浮かべて言った先生に、少しだけ胸がときめいた。やっぱり先生には敵わねぇな。俺は大人しく立ち上がり、お尻についた葉っぱを両手で払う。

「授業出てきまーす」
「そうしておけ、駄犬」
「これでも学年一位なんだけどな〜」

座ったままの先生を見下ろす。太陽に反射した髪の毛が眩しくて、つい目を細めてしまったけど、あいも変わらず端正な顔つきで、惚れ惚れとしてしまう。
仕方ない、クルーウェル先生が授業出ろって言うんだし、出てやるか。ため息を一つこぼして歩き出せば、後ろの方から「ため息をつくのは俺の方だ」と先生に言われてしまった。



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