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超捏造


NRCに入るまで、皆がどうやって生きてきたのかとか、はっきり言ってどうでもいい。触れただけで分かってしまうこのクソなユニーク魔法のせいで、ここにいる全生徒の過去を覗いた気がする。

ある奴は王になれない苦悩にもがいてる過去。ある奴は母親からのクソモラハラに耐えてる過去。ある奴は芸能人のプレッシャーに潰されそうになってて、ある奴は明るい外面とは裏腹に、心に闇を抱えてた。

皆、人それぞれの人生だなと思ったんだ。NRCに通うまではあまり魔法士に会うこともなかったし。あぁ、大変そう。辛そう。苦しいよな。誰にも言えないその悩み、俺が勝手に覗いてる。ごめんなって。

でも、はっきり言ってだから?って感じ。

王になれないからって王子じゃん。第二王子最強じゃん。裕福な家で自由な生活。羨ましい。
モラハラくそな母親でも、親がいるんじゃん、家もあってご飯も食べさせてもらえる。最高じゃん。
自分の望んでる芸能活動じゃなくても、認められてるその才能でトップにまで駆け上がってる。何が不満?自分のやりたいことと求められてることが一緒とは限らないだろ。

外面が明るいくせに心の奥底で考えてることが暗い闇。

あぁ、俺と一緒。安心する。お前だけは、俺と同じ。他の奴らの人生とかどうでもよくて、こんな一期一会みたいな関係も、はっきり言ってクソ喰らえ。4年間だけの関係だと割り切ってる。

それで良いんだよ。この四年が終われば離れ離れ。俺もお前もお前らも、全員それぞれの人生生きていくんだろ。生きていけよ、俺も干渉しねーから、お前らも干渉すんな。


放っておいてくれ…!


「いいよなぁ!!人生イージーモード、何かに悩んで悔やんでも、生きる場所と食べ物もあって…!家族だっている、守る物があって失いたくないから頑張れる希望もあってさぁ…!」


どうせお前ら、人に気づかれずに生きていく辛さを知らねーんだろ。

どうせお前ら、希望のきの字もなく震えて生きてく人間のことなんて、知らねーんだろ。


良いよな、羨ましいよ。俺だってこんなくそみたいな魔法がなかったら。


心の底から溢れてくるよくわからない感情。うざったくて仕方ない。悔しいのか、辛いのか、涙が出るのか、よく分からない。何かを全部吐き出したいのに、何かを全部飲み込みたいような、頭がぐるぐるして仕方ない。

ああ、もうわけわかんない。今この言葉を発してるのは俺か?それとも別の人格か?

頭が痛い。目も痛い。手が焼けるほどに暑い。黒い魔力が全身を覆って、胸が苦しい。

「なまえ君…!」
「なまえ、落ち着け…!」

ケイトとトレイの声が聞こえる。他の奴らの声も聞こえる。あーうるさいうるさいうるさいうるさい。

どいつもこいつも、うるさい!黙ってろ!

「読めねーんだよお前らの心!わからねーんだよ…!教えろよ…っ!」


小さい頃から、この魔法を使って大人達に使われていた。魔法士なんて数少ない極東で、やけに便利なユニーク魔法を持ってる俺が、あんな小さい島国で自由に生きていけるわけもない。

「どうせお前ら平和な国で生きてきたんだろ?極東のことなんて知らねーよなぁ…!魔法士の数も少ない、人口も少ない、そんな中で俺みたいに稀少な人間が生まれたらどうなると思う…あぁそうだよ、国に使われるんだよ!!!」

吐き出して、吐き出して。
溜まってる鬱憤もブロットも全部吐き出して。

前髪を掴みながら顔を覆う。ああもう嫌だ、全部全部嫌だ。全員死ねば良い、潰れればいい。俺を心配そうにみてるその顔も、本当は裏では嘲笑ってるんだろ。俺のことを下に見てる、罵ってる。

読ませろよ、お前の心も全部読ませろ。

「どうせお前らも…!俺を化け物だと思ってんだろ…!!!」

ブワッと広がる魔力の輪。抑えられない魔法。魔力が多いって嫌だよな。こんなに苦しくて暑くてもう全部どうでも良いって思ってんのに、消費されないとこの苦しみから逃れられない。

早く早く全部出し切れ。出し切って、お前らがどうなろうと知ったこっちゃない。

どうせ、どうせ、どうせ。お前らだって俺を。心の読める俺を、心の奥底では、本当は。


「そんなこと思ってるわけないだろ!!!」


助走をつけて俺に飛び込んできたのはケイトだった。魔法士だろ、そこは魔法でやれよ。なんでそこだけ物理攻撃。

抱きしめられたまま、そのまま背中から床に倒れ込む。馬鹿かよ、俺の魔力は抑えられてない、まだまだ出続けてる暴走してる。他の奴らに攻撃だってしてる。そこら中に、火やら水やら風の魔法だって。

なのになんで、お前は無傷で俺に抱きつけられるんだよ、ケイト。

「君のことをそんなふうに思ってるわけないだろ…っ」

なんで、泣いてんだよ。涙が頬に落ちてくる。冷たい。暑い体が、少しずつ少しずつ収まっていく。だけど魔法は消えない。暴走してる魔力だって。

「…なんで…」

なんで、俺のために泣いてくれるんだよ。俺の名前を連呼して、戻ってこいって言ってくれるんだよ。読めないんだよ、お前の心が。もう読めなくなってるんだ。

それなのに、なんでこんなに安心する。ケイトに手を握られたら、なんで安心する。読めないのに。

でも、お前のその顔が近くにあるだけで、全部安心するんだよ。

なんでなんだよ、教えてくれよ…っ。



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