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梅雨も本番を迎えて毎日のように雨の日々だ。
今日も傘をさして愛美と話しながらゆっくりと学校へ向かう。
「それにしてもこの前のビッチ先生はすごかったよね〜」
「そうですね。あの身のこなし方はさすがでした」
つい先日、ビッチ先生の師匠という人がやってきた。この教室に残るか、先生を殺さずに去るかの勝負をしていたのだけれど、ビッチ先生はさすがというべきなのか、烏間先生をあっと驚くような方法で倒したのだ。
あれは見ているこっちも興奮ものだったなー。
「おはよーございます」
「はいおはようございます」
朝のHRを終えて、先生がクラスに話しかける。
「烏間先生から転校生が来ることは聞いていますよね?」
「あーうん。ぶっちゃけ殺し屋だろうね」
そうだった。昨日の夜、烏間先生から全員に一斉メールで転校生が来ることを教えられていた。
どんな転校生かはわからないけれど、律のような機械だったらまた何かしらの方法でプログラミングしようと思って、分厚い専門書を持ってきたのだった。
「そーいや律、何か聞いてないの?」
「確かに、同じ転校生だしね?」
原ちゃんが振り返りながら律に聞くのに便乗して、律に話しかける。
すると律は少し微笑みながら、少しだけ知っていますと言った。
「初期命令では、私と彼の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃、連携して殺せんせーを追い詰めると。ですが、二つの理由でその命令はキャンセルされました」
「理由って?」
「一つは彼の調整に予定より時間がかかったから。
もう一つは、私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから」
律のその言葉に、全員唾を飲む。
あの殺せんせーでさえ少し汗を流していた。
それはつまり、殺せんせーの指を破壊した律がそういう扱いを受けるだけの暗殺者が来るということ。
私も緊張しながら、急に開かれた扉を見つめた。
入ってきたのは全身まっしろの服を着た人。
みんなの前に立つと、手をすっとだし、鳩を出した。
「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ」
声からして男の声であるその人は、笑いながらシロと呼んでくれと言った。
いきなり手品のようなことをされたから驚きでまだ心臓がドキドキしてる。
フゥと息をついて天井を見れば、殺せんせーが液状化になって天井に張り付いていた。
「びびってんじゃねーよ殺せんせー!!」
「奥の手の液状化まで使ってよ!!」
「い、いや...律さんがおっかない話するもので...」
本当にこの先生は噂に踊らされる人だな…。
「初めましてシロさん。それで肝心の転校生は?」
先生が元に戻ってシロにそう聞く。まだ転校生は来ていない。廊下の方にいるのだろうかと首を伸ばして廊下を覗き込んでいると、シロは大きい声で、イトナ入っておいで!!と叫んだ。
その瞬間、カルマくんが目一杯私の襟を引っ張って後ろに押し出した。
「ちょっ...!!」
カルマくんに抗議をしようと口を開いた瞬間、びっくりしたことに私が元いた席には破片がたくさん散らばっていて、私の隣の席には知らない子が座っていた。
「俺は...勝った。この教室の壁よりも強いことが証明された。それだけでいい...それだけでいい...」
とかなんとかいっているけれど、要はつまり壁から入ってってことでいいんですね?
「私...危なかった...?」
「大丈夫か、新稲」
「寺坂くん、ごめん」
気づけば私は背中を寺坂くんの足元に預けていたようで、ゆっくりと立ち上がる。
カルマくんが危険を察知して私を押し出してくれたのだろうけれど、もう少し優しくやってほしかった。
「ねぇイトナくん、ちょっと気になったんだけど、今外から手ぶらではいってきたよね。外、土砂降りの雨なのに...なんでイトナくん一滴たりとも濡れてないの?」
カルマくんのその言葉に私もハッとする。確かに、依然と彼の髪はいい感じに立ったままだ。イトナくんはキョロキョロと目を動かすと、隣にいるカルマくんの髪を鷲掴みにして顔を近づける。
「俺より弱いから...俺はお前を殺さない」
そう言い切ったイトナくんに私は心の中で拍手を送った。
「俺が殺したいと思うのは俺より強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせーあんただけだ」
教卓の前に歩いて行き、先生に指をさすイトナくん。
「強い弱いとは喧嘩のことですかイトナくん?力比べては先生と同じ次元には立てませんよ」
羊羹を食べながらニヤニヤしながらそういう先生に、イトナくんは同じ羊羹を差し出しながら先生の顔を見上げる。
「立てるさ、だって俺たち。
血を分けた兄弟なんだから」
その一言に、クラス全員の顔が固まり、そして一斉に声を揃えて叫んだ。
「兄弟ぃ!?!?!?!?」
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