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「サチ!!」
「新稲さん!!」
「 サチちゃん!!」

あぁ、みんなの声が聞こえる。
じんわりと広がる頬の痛み、その後に広がるやけどのような熱さ。
あ、殴られたんだ。
朦朧とした意識の中で、そのことだけははっきりとわかった。


「新稲!!おい、新稲!!」


寺坂くんの声が聞こえる。愛美の声も。莉桜も、原ちゃんの声も。


「新稲さん、意識があるなら目を開けずに手を握れ!!」


そして、烏間先生の声が聞こえた。
わかってもらえるかはわからないけれど、私は右手に力を込める。そしてそのまま、皆の声が聞こえなくなった。






去年。母親が死んだ。

母親と父親はとても仲のいい夫婦で。数学者の父親と科学者の母親の間に生まれた私が、必然的にそれら二つを好きになるのは当たり前だった。

すべてのことは科学や数学で証明できると謳う両親のもと、私もそうなのだと。自分の計算や結果しか信じない生き方をしていた。

だから、数学や理科以外は全く学んでこなかったし、現にそれが理由で私はE組に落ちたのだ。



『サチ、0を1にする方法を、知っているか?」



そういったのは父さんだった。母さんが不慮の事故で死んでから、こんな未来は予測できない、こんな未来は俺の計算にはないと信じてやまない父さんは、死んだ人間を生き返らせる理論を探すため、父親としての機能を果たさずに1年間過ごしてきた。

家に帰ってもご飯を食べろというお金が置いてあるだけ。


『...父さん、何を考えているの?』
『母さんを、生き返らせるのさ...』


そういった父さんの顔は、きっと二度と忘れない。


去年までは三人で楽しく過ごしていたのに。母さんがいなくなってから、突然父さんは変わりだした。いつもは優しく私を見守っていた父さんが、今ではたまに、週に一度見る程度の同居人に変わってしまった。

だから、家に帰るのが嫌で仕方なくて。

あんなに数学が楽しかったのに、今は答えが出るたびに父さんを思い出す。


『母さんを生き返らせるのさ』


そんな計算、いくら解いていったところで答えなんて出るわけがない。
だって。


『死んだ人間は、生き返らない』


その答えを、父さんに教えたくて。

でも、いくらやってもそんな数式はできないし、理論ではわかっていてもそれを数字にすることはできない。

ただ私は。母さんが死んでとてもとても悲しいけれど、それでも父さんと二人で、できる限り幸せに生きていきたいだけなのに。


また母さんと父さん三人で。


そう思っているわけじゃないのに。






どうして父さんは、わかってくれないの?




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