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隣で本を顔にかぶせて眠るカルマくんを尻目に、私はせっせと国語の問題を解く。
「こらカルマくん、真面目に勉強やりなさい!!君なら十分総合トップが狙えるでしょう!!」
その通りだ。
私とは違って、カルマくんは全教科がトップ並みにできるのだから。
「けどさぁ、殺せんせー、あんた最近トップを取れ言ってばかり。ふつーの先生みたいに安っぽくてつまらないね」
カルマくんが本をとって、だらんと腕を下ろして言う。
それだけ先生がカルマくんに期待してるってことなんだと私は思うんだけどね。
「それよりどーすんの?そのA組が出した条件って...なーんか裏で企んでる気がするよ、ねぇ、新稲ちゃん」
いきなり話を振られた私はシャーペンの芯を思わず折ってしまった。
「うーん、まぁ何か企んでいないと変だろっていう項目は幾つかあるよね」
「例えば?」
そう聞いてきたのは前原くん。
私は芸を覚える、やら給仕を務めるやらくそつまんない過激な項目の中に散りばめられた地味なものに指をさす。
「隠し事をせずに必ず真実を答えること。
こんなの、A組がE組の何を知りたいっていうのさ」
「...確かに...」
今更A組がE組に質問したとして、何の利益になるというのか。
そもそも、こんな意味のわからない項目の中に隠されるように描かれているこの項目。
地味に見させようとしてわざと忍ばせたとしか思えない。
「まぁでも心配ねーよ新稲。このE組がこれ以上失うものも何もねーじゃん」
そういったのは岡島。
こいつは本当にいつもお気楽だ。そこが彼のいいところなんだけど。
「かったら何でも一つかぁ...学食の使用権とか欲しいな〜」
ひなののその願いに、ぷっと一つ笑う。
可愛らしい願い事だ。私もそれがいいな、と声に出すと、殺せんせーがヌルフフフといつもの笑い声をあげた。
「それについては先生に考えがあります。さっきこの学校のパンフを見ましたが、とっても欲しいものを見つけました。これをよこせと命令するのはどうでしょう?」
先生がそう言って見せたのは、パンフレットのある部分だった。
「5教科っつったってよ...俺たち出る幕ねーよな」
そう言ったのは村松。
まぁ俺たちの中で何かでトップ取れそうなやつなんていないけど。
それを聞いたのか、わざわざ奥田を待たせてまで教室に帰ってきて話しかけにきたのは新稲。
この前少し喧嘩みたいなことをしたものの、変わらずにまた話しかけてくるようになったこいつに、いつかはきちんと謝罪をしなければと思っている。
「ねぇねぇ」
「お、どうした新稲」
吉田が新稲の名前を呼ぶ。
新稲は俺の隣に立って俺のワイシャツの裾を握って少しかがめと引っ張った。
「んだよ...?」
それに見習ってか吉田や村松、狭間も少し腰をかがめて中心に集まるように俺たちは耳を寄せ合った。
「先生は、何の5教科か、は言ってなかったよね...?」
その言葉に俺たち男三人は疑問符を頭に浮かべる。
何言ってんだ?こいつ。
「... なるほどね、さすが数学者の娘ね」
「いやいや、それ関係ないって」
「頭の回転を褒めたのよ」
「そうなの?じゃあありがたく受け取るよ」
狭間は新稲の言っていることに何かを察したのか不気味に笑い出した。
「どういうことだよ?」
「狭間さんはわかったみたいだから聞いてみて。テスト頑張って、夏休み楽しもうね、寺坂くん」
愛美待たせてるから、というと鞄をもう一度肩にかけなおして手を振りながら廊下に出て行く新稲。
『夏休み楽しもうね、寺坂くん』
さっきの新稲のその顔が、今まで見た中で一番いい笑顔だった気がして。
「...おい寺坂、お前何顔赤くなってんだよ
「はぁ!?なってねーよ!!」
ちらちら浮かんでは消える新稲のあの笑顔に俺は慌てて頭を横に振り、狭間に例のことを聞き出すのだった。
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