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言ってしまえば、殺せんせーだけでなく岡島もげすいだろ、というのが私の感想だ。
若干かわいそうだなと思いはしたが、これでいくつか先生の精神は崩壊しているだろう。狭間さんの意地悪な笑みがそれを示していた。


『さて、秘蔵映像にお付き合い頂いたが、何かお気付きでないだろうか殺せんせー?』


動画内の三村の声がそう言う。
やっと気づいたのか、殺せんせーは床一面にわたっている海水に動揺をしていた。


「俺らまだ何にもしてねぇぜ。誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ」


昼間にやったあれはうまくいったみたいだ。それに一安心して、みんな椅子から立ち上がる。手には対殺せんせー用の銃。


「船に酔って恥ずかしい思いして海水吸って」
「だいぶ動きが鈍ってきたよね」


私の言葉に続いて莉桜がいう。
銃口を殺せんせーの触手に向けて「さぁ本番だ。約束だ。避けんなよ」と寺坂くんが言ったのを合図にみんな銃を発声した。

その音を合図に、小屋の壁が壊れ、フライボードに乗って水の檻を作るクラスのみんな。それに合わせて、私が起動させた律本体が姿を表す。


「射撃を開始します。標準、殺せんせーの周囲、全周1m」


銃を持ったみんなが殺せんせーの周りに向かって銃を放つ。見えない弾幕で逃げ道を塞ぎ、そして一箇所にできた狙撃点から、ずっと水中に隠れていた二人が先生を狙う。


二人の銃が届いたはずだ。その瞬間、殺せんせーの全身が閃光と共に弾け飛んだ。











やったと思った。けれど、それは殺せんせーの完全防御形態の前では無意味に終わってしまった。透明な結晶体に閉じこもった殺せんせー。「世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさです」殺せんせーはいつものようにそう褒めてくれたけれど、そんなに手放しで喜べるものではなかった。

あれだけ頑張って考えた計画なだけに、この失敗はみんなを落ち込ませるには十分で。


「千葉くん、速水さん、ごめん。二人の失敗じゃない、私の計算に非があったと思う」


もう少しプログラムを念入りにやっておけば、殺せんせーの動きのパターンをもっと考えていれば、殺せんせーの立ち位置を一番把握できていたのは私なのに、的確な指示を出せなかった。


「いや、新稲のせいじゃない」
「新稲は私たちにとても力を貸してくれたよ」


一番落ち込んでいるのは二人なはずなのに、なぜだか私が励まされて、何をやっているんだろうかと思った。
指示を出せるとタカをくくっていた。自分の頭を信じすぎていたのか、はたまた、きちんと把握することができていなかったのか。

落ち込みながら莉桜とフロントのイスに座ろうとすれば、莉桜がよろよろとよろめきながら、あぁ無理と言った。

確かに落ち込むほどではあるけれどそこまでか?と思いながら眺めていれば、クラスの半数がだらりと倒れ始める。

椅子から転げ落ちる狭間さんに、鼻血を出した岡島。

これは異常事態だと、火を見るよりも明らかだろう。


動ける人間で倒れている人たちの肩に腕を回して横にする。烏間先生の話によれば、第三者による誰かが人工的にウイルスを作り出して、感染をさせたようだ。しかもそのワクチンは、その第三者なる人間しか持っていなくて。
そのワクチンを手に入れるためには、殺せんせーと引き換えにする必要がある、ということ。

その言葉に、全員、焦りを示す。
倒れてしまった原ちゃんの隣でうちわを扇いでいると、小さい丸いままの殺せんせーに小さい声で名前を呼ばれた。


「山頂にあるホテルへのルート、さらに警備配置、図面をハッキングしましょう」
「...了解」


取引の場所は山頂にあるあのリゾートホテルらしく、私はみんながいろいろ話しているのを聞きながら、律とともにハッキングを行う。
私ができることはこれぐらいだ、頭でしか動くことはできないから。


「いい方法がありますよ」


クラス中のざわざわとした雰囲気の中、殺せんせーの声が通る。


「病院に逃げるより、おとなしく従うよりは。
律さんと新稲さんに頼んだ下調べも終わったようです、そうですね?」
「はい、あらかたは...」
「では、元気な人は来てください。汚れてもいい格好でね。新稲さんの案内でいきましょう」


そう言われて、車に乗り込む。愛美の気をつけてくださいという心配の言葉を聞いて、私の案内の元ホテルに侵入する最適な場所へと行く。


「...たけぇ」


そこは崖の下。遥か上にあるホテルを見上げて、木村くんがそう呟いた。


「あのホテルのサイトをハッキングして、できるだけの情報は手に入れました。内部の図面、警備の配置図、これぐらいしか私にはできないですが...」
「いいえ、新稲さん、上出来です」


手に入れたデータを全員の携帯に送る。
私の出番はここまでだ。フゥと息をついて、崖の上にあるホテルを見上げる。


「敵の意のままになりたくないなら手段は一つ。患者十人と看病に残した二人を除き、動ける生徒全員でここから侵入し、最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!!」


その言葉に、ハッと顔を上げる。
私も行くんですか...?その声は思いの外小さかったはずなのに、殺せんせーはヌルフフフと笑いながら私を見た。


「もちろんです、新稲さん。あなたの空間処理能力は、今ここで使うためにあるものですよ」


その声に思わず顔がこわばる。
そんな大層なものでもなんでもないのに、どうしてだろうか。


「...」


下唇を噛み締めながらうつむいている私の頭に、寺坂くんの手がポンと乗っかった。
こちらを見下げるその目は、大丈夫だと言っているようで。


「俺が守ってやっから」


とても小さい声だったけれど、その声は、確かに私の耳へと届いた。



「無理に決まってるわ!!第一この崖よ、この崖!!ホテルにたどり着く前に転落死よ!!」


ビッチ先生のその声に、はた、と疑問符を浮かべる。確かに運動神経はない方だけれど、それは普通のクラスで、の話だ。


私たちは勢いよく崖を登っていく。


「いやまぁ、崖だけなら楽勝だけどさ」


自分も、よくここまで動けるようになったものだなと感心をする。
矢田っちの後ろについて、ピョンピョンと崖を飛び跳ねていく。


「でも、未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないし、そればかりは新稲もカルマも難しいから。烏間先生、しっかり指揮を頼みますよ」


磯貝くんのその言葉に、全員一旦止まり、下にいる烏間先生を見下ろす。


「オォ、ふざけた真似した奴らにきっちり落とし前つけてやる」


その寺坂くんの言葉に、倒れてしまった莉桜、原ちゃん、みんなの顔を思い浮かべた。
許すことは決してできない。


「見ての通り、彼らはただの生徒ではない。あなたの元には15人の特殊部隊がいるんですよ。さぁ、時間はないですよ?」


殺せんせーのその言葉に観念したのか、烏間先生は一度目を瞑ると、訓練の時のような大きい、厳い声音で言った。


「注目!!目標山頂ホテル最上階!!隠密潜入から奇襲への連続ミッション!!ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!!いつもと違うのは標的のみ!!3分でマップを叩き込め!!19時50分作戦開始!!」


そして、私たちは全員、おう!!と声高らかに叫んだ。




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