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この前の肝試しの時、なんてことを言ったのかと自分で思った。
新稲の手を引いて、何を口走ってしまったのだろう。
あんなことを言ってしまっては、いつも俺があいつを見ていたと言っているようなものじゃないか。
洞窟から抜けた時、我に戻ったら少し気恥ずかしくなって、目を合わさずにあいつの元を離れた。そのあと、何か話しかけようとは思ったものの烏間の先公と痴女の恋愛のもつれみたいなものを見せられて、うやむやになった。
それから一度も話していないし、連絡もしていない。
夏休み楽しもうと笑顔で話しかけた新稲の顔がなんどもちらついた。
結局今日で夏休み終わるし。
何もねーじゃねーか、と。一人拗ねた気持ちになる。
「...ん?」
「あ、寺坂くん」
村松と吉田の三人でバスケでもするかと約束していて、今はコートに向かっているところだった。曲がり角のところまで行けば、こちらに向かってくる人物がいて。
「新稲...」
それは新稲だった。
ショートパンツに少しヒールのある靴を履いて、上はカーディガンを羽織ってるようだった。夏でももう終わりにかけてる夏だ。しかも夜は普通に暗い。こんな時間に足を惜しげもなく晒して何やってんだと怒りそうになったところで、足は関係ないかと思い押し止まった。
「今から愛美と花火見に行くの」
「あぁ...今日は花火大会だったな」
「殺せんせーの約束断ったんだ?」
「このあと村松たちとバスケすんだよ」
「そっか」
同じ方に向かってるらしく、横に並んで歩き出す。
この前のことが頭にちらつく。
思いの外小さかった身長とか、思いの外細かった手首とか、思いの外暖かかった左手とか。
不意に横を何となくみれば、新稲は腕をさすっていて。
「...サミーのか?」
「ん?あぁ、いやいや。ただ、夏祭り、人ごみがなかったら行きたかったなーって」
夏祭りが行われてるところへと視線を向ける新稲。
人ごみが苦手だから、祭りに行かないで奥田と二人だけで花火を見ることにしたらしい。
「人ごみ酔っちゃうからさーしかも私きちんと歩けなくなりそう」
「とろいもんな」
「そんなことないし」
拗ねたように頬を膨らませる新稲に笑えば、新稲は笑うなとこっちを睨む。
それが、いつも大人っぽく振る舞っている新稲の、年相応な顔に見えて。
夏休み前に見せたあの笑顔に重なった。
あぁ、なんだ。
簡単なことだったじゃないか。
「...来年は行くか?」
「ん?」
「夏祭り」
本能的に、無防備なこいつを守るのは俺の役割だと思っていた。
出会った当初も、こいつは放っといたら危ない人間だと思っていたし、実際、計算をし始めると周りが見えなくなるやつだ。それを、誰かが守って、安心して頭を働かせてやる必要がある。
それは、なんというか、俺の野生の勘なんだと勝手に思っていた。
「そうだね...行こっか、二人で」
「...おう」
にこりと笑って「それじゃあ私こっちだから」と指をさして去っていく新稲を呼び止める。
「ん?」
「あー...気をつけろよ、夜だし」
「...ありがと」
柄にもない。
頬を指で掻きながらそういえば、新稲も驚いたように目を見開いて、そしてまた、あの笑顔で小走りで向かっていった。
これは、勘や本能なんかじゃない。
「寺坂ーそこで突っ立ってなにやってんだお前」
「早く行こうぜ」
背中の方から聞こえる村松と吉田の声に振り向く。「おう」と適当に返事して歩けば、二人がぎょっとした顔を見せながら「なに赤くなってんだお前..!!」と叫んだ。
俺はそれに対して反抗せずに、うるせーと。ただ一言そう言った。
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