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何人もの生徒が捕まっては脱走。それは殺せんせーがちょろいからというのが主な理由らしい。


「あはは...殺せんせー烏間先生に怒られるパターンだね」
「100%です」


私を裏に隠して庇っていた寺坂くんは、先ほど烏間先生に見つかり逮捕されてしまった。今は律と二人、こそこそと隠れて作戦を練っている最中だ。
直前までレベルを上げたサバゲー用アプリの性能が良くなったおかげか、私は未だに烏間先生につかまっていない。


「このまま隠れ切れるといいんだけど」
「どうでしょうか。そのためには何かもう一つ作るべきだったかと...」
「うん、私もそう思う」


画面の律が眉を落としながらそう言う。
温度探知、風速、標高、コンパスこの四つの性能を上げたおかげで、未だに生き残ってはいるけれど、あと何が足りないかと聞かれると、音の探知だろうか。これさえあれば、きっと最高だったはず。


「うーん、あとでもう少し練る必要ある?」
「そうかもしれませんね」


律と二人で反省会を行っていると、突然携帯に杉野くんからの電話がきた。
通話ボタンを押して、耳に当てる。


『殺せんせーから聞いたけど、あのアプリ、バージョンアップしたんだって!?』


殺せんせー、いつの間に知ったのそんなこと。


『うんそうだけど、欲しかったりしちゃう?』


周りに誰もいないことを確認しながら、息を潜めて返答をする。杉野くんからの電話には、数名の足音も聞こえて。寺坂くんもいるみたいで、てかお前どこだよと電話の向こう側から聞こえた。


『欲しい!!できたらクラス全員に送ってくんね!?』
『え...そんなにいいものじゃないと思うけど...』
『頼むよ新稲!!』
『うーんわかった。使えなくても怒んないでよ?一旦切るね』
『おう!!』


殺せんせーはまた余計なことを言って。律と顔を見合わせて一つため息をつく。
それでも、ことを争うような切羽詰まった声に、私は意を決して律に全員に送ってくれとお願いした。できれば成功してくれるといいけれど。









「やっベーなこれ、マジ使える...」


このケイドロ、まだ一度もつかまっていないのは、驚くべきことに新稲だった。
あいつ一体どこにいるんだとクラス全員不思議に思ってる。寺坂は烏間先生に見つかるまではあいつのそばにいたらしいけれど、つかまって脱走してからもう一度同じところに行ったらいなかったらしい。てかお前ら二人なんなのほんと。


「殺せんせーの言ってたことってこのことだったんだね...」


烏間先生が来るのを共に待っている片岡がそういう。


牢屋でつかまっていた時、殺せんせーがポツリと言葉を零した。


『新稲さんのアプリがあれば、いいんですけどね〜』


本当にその一言しか言わなくて、何言ってんだってなった。でも、それを一緒に聞いていた杉野が、そうかその手があった!!と殺せんせーにさらに問い詰めた。「それってあのアプリのことですか」「なんだかバージョンアップしたらしいですね〜」「マジで!?」

そんな二人の会話に、俺たちは全員はてなだったけれど、岡島の収賄により脱走した俺がどういうことだよと尋ねれば、杉野は切羽詰まったように前原たちこそ役にたつから待ってと言いながら誰かに電話をかける。それは新稲への電話だったようで、今すぐに全員にあのアプリを送ってくれ、という杉野に新稲は渋々ながらも俺たち全員にアプリを送ってくれた。


それがこれ。
サバイバルゲーム用アプリ、多機能式便利ツール3、というもの。
一つのアプリで温度探知、風速、標高、方角が分かる優れものだ。こう言う歩くべきところのない場所で、温度探知や風速が分かるのはとても有り難い。

烏間先生に見つかり逃げるために岡野や片岡、木村と木をジャンプしながら、俺は携帯の画面を見つめる。

使えなくても怒らないで、その一言付きで送られてきたそのアプリ。
さすがは新稲、というべきなのか。俺は携帯を握りしめて、ニヤリと笑みを浮かべた。









「お前結局どこいたんだよ」
「んー?寺坂くんつかまってからはとりあえず誰にも見つからないような死角探して大きい岩の下にいたよ」


あの後、私のアプリは役に立ってくれたみたいで、私たち生徒の勝利となって終わった。
教室に戻る間、愛美と莉桜と原ちゃんの四人で談笑をしながら教室に向かっていると、寺坂くんが殺せんせーのところを抜け出して少し小走りで私のところにやってきた。探してくれていたらしい寺坂くんに、少しにやけながら答えれば、何かを察知したのか莉桜の顔がいやらしいものへと変わった。


「何々二人とも...そういう?」
「何がそういう?なのかわかんないんだけど?」
「またまた〜」


莉桜はニヤニヤわらいながら肘で何度も脇を突いてくる。
原ちゃんもわらいながら隠さなくてもいいんだよ、なんて言ってくるけれど、隠し事も何もないから、私は肩をすくめて、笑顔を返した。
そんな私を見てこれ以上いじることはないと感じたのか、莉桜は次に寺坂くんをいじり始める。同じように肘で脇腹を突いたり、ニヤニヤ笑ったり。寺坂くんはこめかみに青筋を立てて、怒鳴ったりしてる。



「それにしても、サチちゃんの今朝やって居たことは、こう言うことだったんですね」


と愛美が言った。
二人の行動を見ていた私の目線が幾分か下にある愛美の方へと移る。


「あれ、すごかったよ〜全部一人で作ったの?」
「まさかー律も一緒に考えてくれたよ」



原ちゃんもすごかったと言ってくれたけれど、そんな大層なものじゃない。
ほとんど律の頭のおかげというか、なんというか。



「すごく役に立ったよサチ、ありがとう」


後ろからひなたとメグがやってくる。
二人は笑顔を浮かべながらお礼を言ってくれて、その後にも木村くんと前原くんまでやってきて頭を下げてお礼を言われた。
そんなに役に立っていたとは...少し驚きに目を見開けば、最後に烏間先生がやってきた。


「アプリのことを聞いた。さすがというべきだな、新稲さん」


と、これ以上ない褒め言葉を言われた。だけど、


「今度からは隠れるだけじゃなく逃げる方にも力を費やすように」


と、欠点を注意された。
やっぱりさすが烏間先生。私がどこで隠れていたのか勘付いていたらしい。

まだまだ自分の課題は残っていて、寺坂くんに頼ってばかりじゃいられないなと思った。

けれどまぁ、今日はケーキを食べられるし、まだまだある授業も頑張れそうだと原ちゃんと愛美と元気良く教室へと入って行ったのだった。




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