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「ねぇねぇ、やっぱりサチもさー寺坂くんのこと好きなの?」


放課後、全員で訓練でもしようということになり、校庭へと走って向かう。愛美と二人で入念に準備体操をしていると、ひなのが私の隣にやってきた。


「え、朝ってもしかしてその話してた?」


朝、イトナくんと思いの外話が弾んでいた時に、いきなりひなのに呼ばれて寺坂くんのところへと向かった。
ひなのだけじゃなくてカルマくんや村松くん、吉田くん、さらにはあの狭間さんにまで生暖かい視線を向けられたんだった。


「うん、ちょっとね〜それでそれで!!サチはどう思ってるの?」


ひなののその言葉を聞いてか、愛美の顔がうっすらと赤くなった。
夏休みの肝試しで、カルマくんに惚れた?と聞かれた時、その場に愛美もいたから思い出しているのだろう。


「ねぇねぇ、それ私にも聞かせて」


ニヤニヤ笑いながらこっちに来たのは莉桜。
隣には原ちゃんや矢田っち、さらにはメグまでもが話を聞かせろとこっちにやってきた。
結局クラスの女子全員、私の前にやってきて。こんな話、需要があるの?と思わず聞くと、ひなたはクスリと笑いながら口を開いた。


「サチと寺坂くんのコンビって、意外に良いコンビじゃない?それに最近の二人の距離の縮まり方、見てて気になっちゃって」
「そうそう!!寺坂くんに手を引かれたりとかさー!!」


ひなただけじゃなく、矢田っちも声をあげてそう言う。女の子って昔から、こういう話をしてるとなんで楽しそうになるんだろう?でも、楽しそうに話す皆を見て、私もなんだかんだ楽しんでることに気づいてた。


「それで...実際は...?」


と、皆がごくりと生唾をのみこみながらこちらを伺う。
私は皆の顔を見渡しながら言うべきかどうかを考える。


寺坂くんといいコンビだと言われるのは、内心とても嬉しいと思ってる。
実際、自分でもそう思ってるからだ。
体力的に壁のように扱える寺坂くんがいれば、私は思う存分計算できるし、皆の立ち位置とかも考えることができる。

そんなコンビとかそう言うの無しに考えても、寺坂くんはとても優しい人だ。
偶然帰り道が一緒だったら家まで送ってくれたりするし、道路側を歩いてくれるし。


だけど、私みたいに、人の気持ちをきちんと理解することのできない自分に、そんな思いを口に出す権利なんてあるのだろうか。

皆、私を『数学者の娘』というくくりでみる。
それは昔ならまだ、褒め言葉として受け止められた。

今となれば、それはただの枷でしかない。
数学という数列でしか回答がわからない私に、人の心の機微を感じ取れるわけなくて。


「私は...」


皆がワクワクといった面持ちでこちらを見ている。
それにどう答えればいいのかと悩んでいる間、律が私の名前を呼んだ。


「マスター、お話中申し訳ありませんが、クラスの男子の皆さんがなにやら機械を作っているようで」
「ん?」


一旦話は中断だ。クラスの男子、という言葉に全員ピクリと反応を示す。


「岡島さんに、魚眼レンズの歪み補正のプログラムを任せられました」
「岡島...?」


次は岡島という名前に全員眉をひそめた。


「また、そこから録画機能も付け足すようです。こちらが音声記録です。


『律、歪み補正のプログラムは組めるか?これは新稲には極秘で行えよ』
『録画機能も必須だな。これも全て暗殺のためだ、女子を狙え!!』



マスターに報告すべきだと判断したので、報告致します」


その音声記録を流し終えると、律は私を見つめた。
そのまま顔を上げて、全員の顔を見渡すと皆こめかみをピクピクと動かしていて、あぁ、これは男子皆死刑だなーと思っていると、メグを筆頭にして女子全員で教室に戻っていく。


「よっしゃ!!3月までにはこいつで女子全員のスカートの中を偵察するぜ!!」


という岡島の言葉に、問答無用で女子の鉄拳が降り注いだ。
岡島の「律、新稲には言うなって言ったじゃねーか!!」という言葉が彼の最後の言葉となったのであった。


「えげつねーなあいつら」
「そういう寺坂くんも、手伝ったみたいで?」
「な、手伝ってねーよ!!」
「ホゥ...?」


隣にやってきた寺坂くんを見上げる。
寺坂くんは少し焦りながら、俺は何もしていないと言ってくるが、この場にいる時点で同罪だ。私は拳を握り、振り上げる。少し目をつむった寺坂くんが、まだふってこないげんこつに少し目を開けて確認した。


「全く、男子って本当、こういうの好きだよね」


私は呆れながらも、少し笑って、きつく握った拳を開いて、彼のおでこにデコピンをする。
これで許してあげるよと言えば、寺坂くんがそこを自分の手でさすり、オゥ、とただ一言そう言った。


「ぬるい!!ぬるいよサチ!!」
「んだよ寺坂、お前だけ新稲と仲良しだからってそんなデコピンで許されやがって!!」
「てかデコピンてなんだよ!!新稲寺坂に優しすぎ!!恋人か!!」
「そこだけ甘い雰囲気流してんじゃねーよ!!」
「サチそこは心を鬼にして!!」


さっきの場面を見られていたのか、クラスの皆から一気にまくしたてられる。
びっくりするぐらい怒られてる、なぜ私が、と皆を見れば、それはそれは立派なたんこぶがクラスの男子全員にもれなくこしらえられていて。


「...おお...」


と、思わず感嘆の息をこぼしてしまった私は、いいから寺坂を殴れという女子のブーイングから逃げるように教室を飛び出すと、なぜか知らないけれど寺坂くんは男子に、私は女子に追われるという謎の陣形が出来上がってしまったのだった。




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