やばいやばいやばいやばい。
宿題が出されていたことをすっかり忘れていた。
提出は明日の朝一。しかも俺の苦手な数学の、しかもしかも論述問題。こんなんすぐに解けるわけないじゃん!!と、おもうじゃん?それがその通りなんだよな!!
「なまえサーーーーーーーン!!!!!」
というわけで、自分の隊室から廊下を出て、研究室にいるだろうなまえさんの姿を求めて、扉をバタンと思い切りひらく。
中にいたのは研究員の人たちで、俺の存在を目視した一番扉に近いところにいた人に、なまえさんは隣の控え室に入ると教えてもらった。
お礼を言ってもう一度扉を閉めて、隣の扉を勢い良く開いて名前を叫ぶ。
「なまえサーーーー「うるさい」
最後まで言わせてもらえなかった。
顔に当たったのは生物の教科書。投げたのは我が隊の隊長様である秀次だった。
よくなまえさんに勉強を教えてもらってるらしい秀次は、この控え室に入るメンバーランクのナンバー3でもある。1はなまえさんとして、2は言わずもがな当真さんだ。
「どうかした、米屋くん」
相変わらず素敵なお胸様をこしらえているなまえさんが、髪を耳にかけながらこちらを伺っていた。
ソファーに対して少し低い机に身をかがめて、秀次に勉強を教えているからか、いつも以上にその窮屈そうな大きな胸が強調されていて、目の前に座って近い距離で勉強を教えてもらっていたらしい秀次を純粋に尊敬した。
俺なら理性が抑えられない。
想像だけなら。
実際は当真さんのことが頭に浮かんで絶対にできないけれど。
「なまえさん、俺を助けるためだと思って...!!」
「ん?」
東さんに続いて、後輩の面倒をよく見てくれるこの人は、比較的年齢層の低いボーダー内でも頼れる姉のような存在として、慕われている。
主に俺や弾バカのような人間には慕う以前に助けてもらってる、という形だけれど。
「明日提出の宿題あるんすよ!!俺、すっかり忘れてて!!しかも全然わかんない!!」
「自業自得だろう。わざわざなまえさんの手を煩わせるな」
秀次はある意味なまえさんのセコムだ。当真さんとは違って純粋な気持ちで、本当に姉として慕っているところがあると思う。
そんな秀次のことを笑顔で諌めて、なまえさんはいいよと言ってソファーの隣をポンポンと叩いてくれた。
「本当にありがとうなまえさん!!」
「いえいえ。勇には内緒ね」
人差し指をピンと立てて口元に持って行きそう言うなまえさんにどきりとする。
年上の女性が少ないこの中で、加古さんとは違うような大人な女という雰囲気を醸し出すなまえさん。こりゃ当真さんも惚れるわけだ。あの人の前でなまえさん、なんて呼んだらいけないけれど。
「当真さんに言ったら俺一発でシメられる」
「シメられてきた方がいいんじゃないのか」
「そんなこと言うなよ秀次ー」
冷たくそう言った秀次にヘラヘラ笑ってそういえば、秀次はふんと鼻で笑うと、教科書をパタンと閉じて立ち上がった。
「ありがとうございました、なまえさん」
「ううん。だいたいわかったかな?」
「はい、やっぱり本職の人に聞くと一番理解できます」
「それならよかった。またわかんなくなったらおいでね」
「ありがとうございます」
教科書を片手で持ち、ゆっくりと頭を下げてお礼を言う秀次。
そのまま秀次は俺を睨むと、あまり長居はするなという警告の元、この部屋を去っていった。
さて、次は俺が教えてもらう番だ。
なまえさんに、ここがわからないと話だすと同時に扉がまた開き、なまえさんの名前が響く。
「なまえサーーーーーーーン!!」
弾バカだ。
「うるせーよ!!」
「いやさっきも米屋くんこんな感じだったからね。出水くんも宿題?」
「そうっす!!槍バカのくせに抜け駆けとかまじねーから」
「うるせーよ!!」
一人で誰にもバレないように動かないと、あのでかいセコムにバレて辿り付かねーから一人で来たのに結局こいつもたどり着いたのかよ。
チッ、と舌打ちをこぼしてなまえさんの前のソファーに弾バカが座ると、なまえさんは笑いながら、じゃあ始めようか、とペンを数度ノックした。
セコムがここに来る前に、という条件付きで。
もしも見つかったら文字通り殺されるというスリル満点なまま、俺たちは今日も、勉強をこの姉貴に教えてもらうのだ。
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