誰だ、こいつをゲーセンに誘ったのは。
目の前で真顔で淡々と受け取り口からぬいぐるみを取り出すみょうじの姿を見て、その場にいる人たち全員の口があんぐりと開いていた。



ことの発端は不破の一言だった。


「今この漫画のぬいぐるみがさ、UFOキャッチャーだけで取り扱われてるのよねー。できることなら全種類欲しいんだけど、UFOキャッチャーに頑張るより後でフリマとかで買ったほうがいいのかな?」


というその不破の言葉に、岡島がみょうじの名前を呼んだ。
ちょうど帰り支度をしていたみょうじが奥田とともに前に来るのを俺も見てたんだけど、あの時の岡島の顔はわるだくみしてやろうという顔マンマンだったな。


「みょうじだったらゲーセンのUFOキャッチャーなんて余裕だろ?お得意の空間処理能力でさ!!」

「えーそんなことないし。しかも今私金欠だよ?」

「大丈夫、私のお金でやっていいから」

「余計に無理だよー」


お願いお願いと何度も懇願する不破と岡島。いやなんで岡島もお願いしてんだよ。
困ったなーという顔をしながら頬を掻くみょうじに近づいて、声をかける。


「実際UFOキャッチャーやったことは?」

「前原君...んー何回かあるけど...」

「こいつ外したことねーぞ」


俺との会話に入ってきたのは寺坂。寺坂はカバンを肩に担ぎながら、みょうじの頭を自分の指で指して、何度も小突く。


「ゲーセンで食い物漁ってた」

「その言い方は下品すぎる!!元値を取ろうと思ってただけじゃん!!」


何度も小突いてくる寺坂の手を自分の手で押さえてギャーギャー怒るみょうじに、寺坂は面倒くさそうに耳に小指を入れてうるさいと何度か言っていた。というよりも、本当にこの二人は...いつゲーセンに行ったんだ?という疑問が浮かんでくるのも仕方ない。それを俺が言えば、みょうじは少し顔を赤くして、寺坂はなんでもないようにただ一言こう言った。


「昨日」







とまぁそんなわけで。
寺坂の『昨日』『UFOキャッチャーで』『たくさん』『景品をとってました』発言により、みょうじをゲーセンに連行することが決まり。不破と岡島だけではなく俺たちも一緒にゲーセンに行くことになった。

そして、不破が欲しいと言っているそのぬいぐるみは特大のもので。同じ大きさのぬいぐるみが3個陳列してあり、その3個すべてが不破は欲しいらしい。


「ごめんね、全然取れなかったら」

「ううん、大丈夫。むしろお願いする側だし、そんな悪いと思わないで」


と言った二人の会話を聞いた後、みょうじはお金を投入する。
カバンを奥田に預けて、腰を下げてケースに入っているぬいぐるみ達を眺めるみょうじ。

俺たちは全員ゴクリと生唾を飲み込む。

何度か瞬きをした後、みょうじはスイッチを押してアームを動かす。最初は少し、ぬいぐるみに当たっただけだった。


「あー惜しい!!」

「でもちょっと動いたねー」


矢田と倉橋のその声に、俺たちも後もう少しだったなーと笑顔で言う。
みょうじはまたスイッチを押してUFOキャッチャーに集中し出した。それを見つめていた寺坂が口を開いて、そっと小さな声でこう言った。


「こいつのUFOキャッチャーはえげつねーからよく見とけよ」


その言葉に、全員頭にハテナマークを浮かべながらもみょうじの姿を見る。不破の予算内の1500円に達したその時だった。


右端と左端にいたはずのぬいぐるみたちが真ん中に集まり、3個とも仲良く下に落ちてきたのだ。



「...は?」



全員目が点になっている。
みょうじはただ一人淡々と受け取り口から大きいぬいぐるみを一つ取り出してまた立ち上がり、そしてしゃがんで次のぬいぐるみを取り出して立ち上がり、の繰り返しをしていた。

どういうことだ。なぜ3個ともすべて出てくるんだ。俺たちの疑問にみょうじは笑顔でこう言った。


「数学の力ってやつ?」


その一言で全員何かを察知。不破は涙を流しながらありがとうを連呼して大きいぬいぐるみを抱きかかえるし、岡島や杉野なんかはUFOキャッチャーのアドバイスを教えてもらおうと必死になるし、倉橋と矢田は次はこれをとってくれとせがむし。

皆のテンションがえらいことになっている。



「...お前よくみょうじとゲーセンくんの?」


そんな中、俺は不意に思ったことを寺坂に聞いてみた。
寺坂は吉田と村松、イトナとともに、違うゲームをしようとしていた。


「あ?まぁちょくちょく来るぞ」

「寺坂とみょうじはよくゲーセン行ってるぞ」

「おいイトナ...!!」

「うん、たまになまえちゃんと寺坂くん二人で仲良くゲーセンにいるよ」


イトナと神崎の発言により、俺ん顔はニンマリと笑みを浮かべた。
いよいよめんどくさくなってきたぞというような顔をしながら寺坂は俺を睨むが、あいにくだ。人の恋の話ほど面白いものはない。
遠くの方で聞こえていたのであろう、岡島も俺と同じような顔をしていた。


「さて、寺坂くん、教えてもらおうか」

「は?」

「みょうじからはゲーセンでの賢い遊び方教えてもらったし、次は寺坂くんに女子との遊び方を教えてもらおうかな...!!」



岡島と俺の二人が揃ったからには逃さない。
寺坂を笑顔で俺たちに受け渡してくれた村松と吉田とイトナに感謝を言って、俺ら二人は寺坂の両隣を占拠。
遠くの方で、「出た、ゲスツートップ」というみょうじの呆れた声が聞こえた気がした。



 
ALICE+