狙った獲物は逃さない
どうしてだろう、どうしてだろう。
初めて会った時、俺のことを中学生だと勘違いして話しかけてきたこの人に、俺は最初は何も感じてなどいなかった。また間違えられたか、とさえ思った。しかも同じ身長だったからなおさら、心の中でため息をついていた気がする。
それがどうだろうか。今となっては近くにいるのではないかと視線をキョロキョロと彷徨わせるぐらいにはなった。
「あ、蒼也」
エンジニアである名前さんに会えるのは、遠征前の会議の時ぐらいだ。
それか俺が自ら彼女のいるラボに顔を出すか夜遅くに食堂でご飯を食べれば会えたりもする。
A級のナンバー3までの隊が会議室に集まる。
前に立ち鬼怒田さんが何かを話している。まだ太刀川隊が来ていないため、会議は始まっていない。
「名前さん、お疲れ様です」
「うん、お疲れ。今回の遠征は蒼也たちもいくんだね」
「はい」
一つだけ年上の彼女は、今年大学を卒業すると、そのままボーダーに就職するそうだ。
この遠征が終わり帰って来る頃には、彼女の卒業式まであと1ヶ月というところになっているだろう。
「気をつけて行ってくるんだよ」
「ありがとうございます。名前さんもうそろそろ卒業式、ですよね?」
「うん?そうだねーついにそんな年だよ、私も」
へらへらと笑いながらそういう名前さんに鬼怒田さんの怒号が響く。
太刀川が会議室にやってきたため、始まるそうだ。
鬼怒田さんに向かってハイハイと存外に返事をした名前さんは俺に少し手を振って前wの方に行く。
鬼怒田さんの説明の声が聞こえる。俺は耳はそっちに傾けながら、目はずっと名前さんの方を向いていた。
時折眠たそうに小さくあくびをしたり、髪が邪魔なのか耳にかけたり、一つ一つの行動が全て俺を刺激する。その小さな口が、耳が、首筋が。
会議が終わり、歌川と菊地原に終わりましたよと声をかけられるまで、俺はずっと彼女を見続けていた。
「あぁ...廊下に出て待っていてくれるか」
「はい、大丈夫ですけど...」
「早くして下さいね〜」
「おい菊地原!!」
廊下に出て行く二人の後ろ姿を見送り、俺は名前さんの方に歩み寄る。
パソコンを片付けて椅子を机に入れている名前さんの名前を呼べば、彼女は俺の方に振り返り笑顔を見せてくれた。
「どうかした?」
「今日、よければご飯、食べに行きませんか?」
「風間さんやる〜」
不意に太刀川の口笛を吹く音が聞こえた。
「...明日なら、いいよ?」
明後日の朝、俺たちは遠征に行く。
遠征の前に俺がわざわざ出かけるわけがないと名前さんは思っているのだろう。
年上だからという理由で、俺のアプローチに気づかないふりをする名前さん。俺を見くびらないでほしい。
「それじゃあ明日の夜、迎えに行きます」
「...え」
いい加減、俺の方を向いてくれてもいいはずだ。
「明日の夜、楽しみにしてますね」
にこりと。
滅多に笑わない俺に名前さんが目を見開く。
彼女の言葉は聞かずに、俺は会議室を後にした。
言った通りに廊下で待っていた菊地原たちに目をやれば、菊地原は唇を尖らせて、歌川は少し苦笑をしていた。
「強引だなー風間さんは」
「おい菊地原」
「ふっ」
俺はアタッカー2位の風間蒼也だ。狙った獲物をそうやすやす諦めていたら強くなんてなれるはずがない。
狙った獲物は逃さない