「じゃあそこの背の高い君、上がって」
「…はい」
うわあめっちゃ嫌そう。壇上に上がった先輩は不機嫌を隠すことなく前面に押し出してる。相手になる人可哀想、ご愁傷さま。
「名前は?」
「レグルス・ハウンドです」
「ではレグルス。誰か相手を指名して」
「わかりました。では…」
うわ指名制かよ…ますます相手が可哀想だ…。わたしは心の中でそっと、対戦相手に手を合わせた。
指名制だと聞いてニヤリと笑った先輩は自分をじっと見つめる生徒を見渡した。なんだろう、なんか目が合ったような…? いや、気のせいだよね。
「そこのグリフィンドールの君」
「ヒエッ」
気のせいじゃなかった〜〜〜めっちゃこっち見てる〜〜〜〜!
隣でハーマイオニーが「いくらグリフィンドールだからって、年下の女子生徒を指名するなんてありえないわ! スリザリンって本当に最低ね!」と怒っている。いや、たぶん先輩はわたしがグリフィンドールじゃなくても年上でも男でもわたしを指名した気がするよ…。
とにかく指名されたわたしは壇上に上がった。目が合った先輩に鼻で笑われる。何でだ。
「名前は?」
「ナマエです。ナマエ・ミョウジ」
「ではナマエ、レグルス。決闘のルールはわかっているね? くれぐれも相手に怪我をさせないように。武器を取り上げるだけですよ」
怪我させないようにですって。聞いてますか先輩。必死に目で訴えかけるけど、先輩にはガン無視された。
えっねえ絶対聞いてなくない? ねえ先輩こっち見て?
「では2人ともお辞儀をして」
あ、いま頭の中で某卿が「お辞儀をするのだ!」って叫んでる。笑いそうになるのをなんとか堪えてお辞儀をした。
「杖を構えて。いいですか、武器を取り上げるだけですよ。3、2、」
1。振り向いた先にいた先輩が目で「防いでみろ」って言ってる気がした。
「セクタ…」
「インペディメンタ!」
「なんだ、知ってたのか」
先輩は残念そうに肩をすくめた。
あ、あぶね〜〜〜! あの人今何唱えようとした? プロテゴじゃ防げなさそうなもの唱えてなかった?
「ちょっと、知らなかったらどうするつもりだったんですか!」
「別に、治せるから問題ない」
怪我を! させては! いけませんって! さっき先生の言ってたこと、全く聞いてないじゃなですか!
「怪我、してないだろ?」
「結果論! 怪我どころか死の危険だったんですけど!」
わたしの必死の叫びも虚しく、先輩は「続けるぞ」と笑った。許せん。
先輩が放ってくる謎の魔法(たぶん当たったら怪我するやつ)を必死にプロテゴで守る。会話しながらなのに先輩の呪文の威力は全然弱くなくて、わたしの盾は1回の呪文を防ぐだけで精一杯だった。防ぎきれなかった呪文は神がかった反射神経で避ける。こわい。
っていうか無言で攻撃するのずるくない? わたしも何かしなくちゃ!
「インカーセラス!」
ボトリ。先輩とわたしの丁度間に現れた縄。おかしいな、インカーセラスって縛る呪文じゃないの?
「お前は本当にその呪文苦手だな」
「う、うるさい!」
「オパグノ」
「!」
先輩はわたしの出した縄に杖を向けて唱えた。途端に縄は蛇のようにわたしに襲いかかる。慌てるわたしを見てスリザリンの生徒がくすくす笑ってるのが見えた。何これ辛い。
縄はわたしに絡みつく。その間にも先輩は容赦なく呪文を放ってきてて、わたしは必死に盾で防ぐ。それからなんとか右腕を動かした。
「ふぃ、フィニート!」
途端にぴくりとも動かなくなった縄をあわてて体から外すと、ニヤリと笑った先輩と目が合った。
「エクスペリアームス」
ぎゅ、っと握った杖があっけなく先輩の手に収まるのを見て、「あーあ」と声を出した。スリザリンの歓声がやかましい。
「こんなに長引かせる必要ありました?」
「ムカついたから」
杖を返しに来てくれた先輩に聞くと端的に返ってきた。なるほど、つまりわたしはストレス発散に付き合わされたわけか…。
「ありがとう2人とも。実に素晴らしい決闘でした。まあ私でしたらあそこは――」
また始まった。ロックハートの話を聞き流しつつわたしと先輩はあわてて壇上から降りた。ハーマイオニーのそばに戻ると、彼女はまだ怒っている。
「本当に信じられないわ、あのハウンドって人。後輩相手なのに!」
「ま、まあまあ…」
わたしとしては先輩が手を抜いたらその方が怖いし、決闘もどきなら呪文の練習で毎回してる。あのくらい慣れっこなのだ。怪我云々だって、使ってきたのがおよそ普通の生徒は知らないであろう呪文(スネイプ先生しか知らないはず)だったから焦っただけで、あれがただの麻痺呪文なら何も思わなかった。いつものことだしね。
ただハーマイオニーはそんなこと知らないから、まあ怒るのも無理はないよね。
「それにナマエ、あなた怪我してるわ」
「えっ? あ、ほんとだ」
ハーマイオニーに指摘されて見てみると、確に頬と左腕が切れて、血が流れてる。痛そう…いや痛いんだけどね。傷って自覚したら痛くなるよね。
ハーマイオニーが今度こそ叫び声をあげる前に、わたしは慌ててハウンド先輩の元へ向かった。
「せんぱーい、怪我しちゃいました」
スリザリンの上級生たちの輪の中にずかずか入っていけるほど図々しくはないけど、これは仕方ないよね。
左腕をあげると、先輩は眉を顰めた。軽くエピスキーを唱えてくれる。ありがとうございます、怪我の原因は先輩ですけどね!
「これくらい自分で治せるだろ」
「ハーマイオニーの怒りが収まりそうになかったので」
2人でハーマイオニーの方を向くと、心配そうにこちらを見ている。へらりと笑って手を振ると、思いっきり顔を顰められた。ひどい。