ダンスパーティの話



みんなが大広間で盛り上がっているのを、わたしは少し離れた場所に座って眺めていた。風は冷たいけど、熱気があるから丁度いい。片手に持ったオレンジジュースを飲み干した。

「君のパートナーはどうしたんだ」

後ろから声をかけられて、先輩が隣に座った。わたしのパートナーだった人は、既に別の女の子と熱いダンスを踊っている。まあわたしの態度が悪かったんだし、楽しんでるなら問題は無い。もともと仲の良い人じゃないし。

「んー…なんか想像と違ったみたいです。ヤマトナデシコとは程遠いんだね、って言われちゃいました」
「普段の君を見てヤマトナデシコだと思える方が不思議だと思うが」

ひどい言い草である。確にわたしの普段の様子から『ヤマトナデシコ』を想像できる人なんていないだろう。わたしをパートナーに誘った彼は、わたしの普段の姿なんか知らなかったんだろうな。

「ひっどいなあー。先輩こそ、パートナーと一緒じゃなくていいんですか?」
「マクゴナガルが早くパートナーを決めろって急かしてきた後一番最初に申し込んできたからOKしただけだ、彼女のことは名前も知らない」
「名前も知らないのは流石にひどいですよ」

驚いた。ハウンド先輩のパートナーが決まったという話は一瞬で広がったし、その相手が誰かをみんなが探るより早く本人が嬉しそうに話していた。ウォルフ先輩と同い年の、エルザ・アマネリアさん。プラチナブロンドの長い髪が特徴で、スリザリンの美人な先輩だ。わたしでも知ってることをパートナーのハウンド先輩が知らないなんて。

「男は往々にしてひどいものだよ」
「わたしの知ってる先輩は、そんなにひどい人じゃないと思うんですけど」

笑って言う先輩に返答する。グリフィンドールの生徒の、呪文を教えて欲しいというお願いに何年も付き合ってくれる彼は、優しいと言っていいと思う。

「大切にしたい人には優しくするものだ。さてお嬢さん、僕と一曲踊ってくれませんか?」
「でも…わたし、グリフィンドールだし」

先輩がわたしの前に跪いて笑う。でも先輩はスリザリンで、三大魔法学校対抗試合のホグワーツ代表選手だ。さらにイケメン。わたしのようなグリフィンドールの、『ヤマトナデシコ』には程遠いちんちくりんなんかが一緒に踊ってもいいんだろうか。
不安な顔のわたしを見て、ハウンド先輩はとても綺麗に笑った。

「誰がどう思うかじゃない。君がどう思うかだ。僕は君と踊りたい。…ナマエは、どうだ?」
「そんなの…先輩となら、何曲だって喜んで」

差し出された手に手を重ねた。先輩は満足そうに頷く。

「…でも先輩知ってますか? わたし、ダンスがすっごく下手くそなんですよ」
「そんなの知ってる。君こそ僕が誰だか忘れたのか?」
「まさか」

その後たくさん踊って疲れて必要の部屋で2人仲良くまったりお話とかするんだけど、時間が遅かったからはちゃめたゃ眠たい夢主はそまま寝ちゃう。


「んん」
「起きたか」

ふわりと香るコーヒーの匂いに目を開けると、ハウンド先輩の声が聞こえてびっくりした。慌てて飛び起きると暖炉の側でコーヒーを飲みながら本を読む先輩がいる。かけられていた布団が落ちて、ひやりとした冷気が肩をなでた。あわてて布団を掴んでくるまると、先輩が笑った。ちなみにお互いちゃんと服は着てた。先輩がネクタイを外してボタンを開けているのと、わたしのネックレスが取られて首の後ろのホックが外れている以外に乱れたところもない。寝やすいようにしてくれたのかな。

「いま、なんじですか?」

反射で出そうになる欠伸をなんとか噛み殺しながら尋ねると、先輩はコーヒーを飲みながら答えた。

「まだ朝食には早い時間だ。きっと皆寝てるだろうし、寮に戻るには丁度いい時間かもな」
「丁度いい?」

きょとん、と尋ねるとコーヒーを飲み終えた先輩がカップを消して立ち上がった。

「監督生の僕に朝帰りさせるとはね」
「あ、朝帰りって」

必要の部屋なら泊まってもいいやと思って、眠たくて仕方ないから寝ちゃっただけだ、たぶん。ここに泊まるのはお互い初めてではないし、だから先輩は帰っても良かったんですよ。そう言うと先輩は至極呆れた顔をした。

「僕があのまま君を置いて帰ったら、間違いなく君は風邪をひいていた」
「うっ…」

わたしの着ているドレスは薄い。パーティは熱気がすごくて先輩にかけてもらった(パーティが始まる前に寒くないのかと聞かれた。最初のパートナーはそんな気遣い微塵も見せなかった)保温呪文は暑いからと途中で消してしまってたし、布団だって用意する間もなく寝ちゃった。確かに先輩の言う通りで言葉に詰まる。

「で、でも、先輩は朝帰りなんてこれが初めてじゃないじゃないですか。ここに泊まる以外で何回もしてるの、わたし知ってますよ」
「何だ、知ってたのか」
「まあ女子の間じゃそこそこ有名な話なので」

顔がいい分そういう噂のまわりは早かった。特にみんな何か勘違いをしているのか、そういう話を聞くと一番にわたしに教えてくれる。いや、親切心は嬉しいけどね。どうでも良さげに相槌を打った先輩は「とにかく、」と口を開いた。

「ああいうパーティーの後は―そうじゃなくても、ほいほい男の前で寝るものじゃない。それが何処でも、相手が誰でも」
「先輩でも、ですか?」

その言い方に違和感を感じて尋ねれば、先輩は珍しく困ったような顔をした。

「さんざん必要の部屋に泊まっておきながら今更だけど、相手が僕でもだ」
「でも先輩はわたしに手を出したりしないですよね」
「言っただろ」

先輩は杖を振って服を用意すると、わたしに手渡した。

「大切にしたい人には優しくするものだって」
「…ありがとう、ございます」

どうでもいいけど、こういう『何も無いところから何かを生み出す』系の魔法はとても難しい。例えばコーヒーをいれるにしても、材料が揃ってて淹れるなら大して難しくはない。それが、何も入っていないコップにコーヒーを入れようとすると途端に難易度は跳ね上がる。黒いだけの水だったり、とても飲めたような代物じゃなかったり、とにかく『ちゃんと飲めるコーヒー』にならない。わたしはせいぜい水か緑茶しか淹れられないけど、先輩は何でもできてしまう。同じようにわたしが服を生み出したところで、赤ちゃん用のサイズになるか、ただの布切れになるか、はたまた直ぐに消えてしまうか、とにかく着れたものじゃないだろう。
服を手に持ったままじっと見つめるわたしを不審に思ったらしい先輩が口を開いた。

「なんだ、もしかして気に入らないか?」
「まさか、先輩の趣味はとても素敵だと思いますよ。でも…」

ちらり、と先輩を見る。

「この服、着てて途中で消えちゃったりしないですよね?」

至極真面目に訊ねたのに、無言で頭をはたかれた。ひどい!