「落ち着いて聞くのじゃ。ミス・ミョウジ。君の家族が─殺された」
「……は?」
神妙な顔のダンブルドアに、呆然とするわたし。なんと、まだ顔も知らないわたしの家族が死んでしまったらしい。
「ミスター・ミョウジ…君のお父さんじゃな。君のお父さんは日本の優秀な魔法使いだった。それに目をつけたヴォルデモート卿は以前死喰い人に勧誘をして、断られておった。彼がいなくなった後、各地に散らばった死喰い人のうちの1人が、ミョウジ家を襲ったのじゃ」
「それは……いつですか?」
「2週間ほど前の話じゃよ」
なんとわたしは親族の訃報を2週間経ってようやく知ったということだ。まあ日本からここまできっと遠いし、仕方ないのかもしれないけど。
「でも…どうして犯人が死喰い人だとわかるんですか?」
「君のお父さんがこちらで言うところの『闇祓い』だったじゃろう? そこである1人が闇の魔法使いだと気付き、その者を捕らえる手はずを整えていたんじゃ。御両親以外にも家族や親戚まで皆殺しだったそうじゃ。家は荒らされておったが何も盗まれてはおらん。御両親の亡骸は……とても痛めつけられていたそうじゃ」
「そう、ですか…」
なるほど。しかし両親といわれてもいまいちピンと来なくて、反応も曖昧なものになってしまう。それをどう捉えたのか、ダンブルドアはそっとわたしの頭に手を置いた。
「夏休みの間、君が望むならホグワーツに残ることもできる」
「え?」
そんなことができるんだろうか。あの意地悪な従兄弟がいるハリーだって夏休みは帰省させられるのに。わたしの考えを察したダンブルドアは悲しそうに笑った。
「ハリーには親戚がおる。しかし君には……」
そっか。わたしの親戚はみんな殺されたんだろう。わたしが生きているのは、ホグワーツにいたから。日本に戻って無事でいられるかわからないし、何より──日本にわたしの居場所はない。
「まだ日はある。ゆっくり考えるのじゃ」
「はい、ありがとうございます」
わたしはダンブルドアに頭を下げて校長室を後にした。家族が、死んだ。正直こっちに来てから家族の存在なんて頭から抜けてた。こっちのわたしの両親…って、一体どんな人だったんだろう。今のわたしと前のわたしの見た目の違いは(年齢のことを考えれば)ない。ていうことは両親はまえのわたしの両親と同じなのだろうか。確かめる術は、もうないけど。
ゆっくりした歩みが止まる。壁にもたれかかって、目を閉じた。こっちの両親のことなんかさっぱり知らないのに、会ったこともないのに……手紙だって送ったことはないし、送られてきたこともないのに。目が熱くなって、閉じた目から涙が零れたのがわかった。
「……ナマエ?」
暫くそのままでいたら声をかけられたので、そっと目を開ける。目の前にはセドリック先輩がいた。先輩はわたしの顔を見て驚いたような顔をする。まあそうだよね、目に涙が溜まってたから瞬きした拍子にまた何粒か涙が零れ落ちた。
「おかしいですよね、ちっとも悲しくないはずなのに。何でか涙が出ちゃって」
へらりと笑おうとしたけど上手くいかない。先輩もそれに気付いたようだ。
「どうして泣いているのか、聞いても大丈夫かな?」
「えっと……わたし的には問題ないんですけど、セドリック先輩があんまりいい気分じゃないかも……」
親戚が皆殺されたなんて聞いて面白い話じゃないよね。セドリック先輩は優しいから、尚更話しづらい。だけど先輩は優しく笑った。
「君が話したくなかったり、話すのが辛いようなら勿論話さなくてもいい。けどもしそうじゃないなら、僕のことは気にせずに話してほしい。話すことで少しは楽になるかもしれないし」
「ありがとうございます…」
セドリック先輩に促されてわたしはさっきダンブルドアに言われたことを簡単に説明した。家族みんな、死喰い人と思われる人物に殺されたってことを。
セドリック先輩はとても驚いたあと、直ぐに悲しそうな顔をした。先輩が悲しむようなことは何も無いのに。
「休暇はどうするんだい? そんな状態では、とても日本には…」
「夏休みはダンブルドアの好意で、ホグワーツに残ってもいい事になってるんです」
「そうか……」
セドリック先輩は優しいね。やっぱりこんな人を死なせたくない。彼がハリーに与える影響は確かに大きなものだけど、だからって死んで良かったわけじゃない。彼は未来を生きてほしい。わたしはそっと心に誓った。
「夏休みにホグワーツに居るなんて滅多にないことですもん、手紙送りますね!」
「あ、ああ…そうだね、僕も送るよ」
涙はもう充分流した。もしかしたら冷たいって思われちゃうかもしれないけど、本当に『知らない人』なんだ。わたしが父母と呼び慕っていた人はこの世界には居ない。だってわたしの両親は魔法使いなんかじゃなかったんだから。だから、平気。ビックリはしたけどね。
セドリック先輩に話を聞いてくれたお礼を言って、ポケットから飴を取り出して渡した。「僕でよければいつでも話を聞くよ」と笑ってくれた優しい彼が、これからもずっと笑っていられますように。