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紅い音は福音である


名前変換
名前1:「太宰治と結婚詐欺師」夢主
名前2:今作夢主名前(デフォルト:紅音(あかね))
名前1:
名前2: 


<注意!>
※「太宰治と結婚詐欺師」の続編(予定)の第1話(仮)です。予告編のようなもの。
※「太宰治と結婚詐欺師」の盛大なネタバレを含みます。
※今作の夢主にはデフォルト名があります(変換可能)。
(「太宰治と結婚詐欺師」の夢主と今作の主人公は違います。名前変換の際はご注意下さい。)



 私の名前は太宰紅音。太宰治と太宰名前の娘である。

 年は幾つかと云われれば正直に答えよう。十一である。では両親の年齢は?共に二十二である。

 変な顔をする方もいらっしゃれば直ぐに察する方も居られるだろう。そう、私は養子である。

 引き取られたのは九つの時だった。


 私はとても気持ちが悪い子供だと云われて育って来た。年齢の割に大人びた口調、冷静すぎる思考、感情が感じられない行動。
 何故だと聞かれれば私には応えられない。知らないからだ。私は私であり、何者でもない。それなのにその言動、思考、行動凡てを否定されれば、流石に心が渇いて行くと云う物だ。

 そんな訳で、私は此の侭、静かに、穏やかに、出来れば早死にしたい気分で日々を過ごしていた。


 そんなある日だ。私はとある事件をきっかけに、一組の夫婦と出逢った。

 その夫婦は新婚で、夫はかの武装探偵社の新人調査員であり、妻は市内の相談所の事務員であると云う。
 事件に巻き込まれただけの私は其の侭解決アリガトウゴザイマスはいさようならとなる筈だったのだが、その夫婦は私を放って置いてくれなかった。

 私はその夫婦に引き取られ、文字通り「親子」となったのだ。



 私が気味悪くないのですか、と問うた。

 母は、「貴女は自分に正直に生きているじゃあありませんか。羨ましいくらいですよ」と本当に羨ましそうに云った。

 自分は嘘ばかり吐いて生きてきたのだと云う。仮面を被って、演じないと生きてこられなかったと。そうして自分の心にまで嘘を吐いて生きてきた自分の方が、余程気持ちが悪い人間だと。

 そんな事はないと思った。彼女はこれまでで見てきた大人達より、よっぽど正直で潔い大人に見えた。それを伝えると、彼女は悪戯っ子のように笑って云った。

「おや、私は貴女を騙そうとしているかもしれませんよ?嘘を吐かれたくなかったら見抜いて御覧なさい」

 それからは躍起になって彼女の仕草や表情を観察していたが、やがて、素直に人を信じることが出来ない私への、彼女なりの配慮なのだと気が付いた。事実、私は直ぐに彼女の云っている事が本当か嘘か見分けが付く様になって、唯「本当です」と云われるよりもずっと素直に母を信じることが出来た。

 余談だが、嘘が判りやすかったのは態とだったんだと思う。


 父は、「私も似た様な事を云われて育ったねえ」と、へらりとした顔で云った。

 飄々としていて胡散臭い笑顔で、妻が居るのに女性は心中に誘うわ、自殺未遂ばかりするわ、同僚からはサボり魔と辛辣な評価を頂くわ、お前は何故結婚したのだ?と訊きたくなる程のダメ人間っぷり。

 然し、私はそんなダメ人間に、一度として敵った事は無かった。

 最初は確かに舐めきって油断していたのかもしれない。然し痛い目を見てからも油断し続けるのは愚の骨頂である。だから単純に、私の実力が彼に遠く及ばなかったのだ。

 一寸した悪戯ばかりだった。それらが悉く見破られ、無駄だと判ると、判りやすく単純な頭脳勝負を仕掛けた。でも、一度も勝てた事は無かった。探偵社での彼の活躍を初めて知った時は此奴誰だと口に出してしまった。

 少しでもいいから、「似ている」なんて云った事を撤回してほしかった。私はお前みたいな人間なんかよりずっと辛かったのだと叫びたかった。今思えば、餓鬼が自分勝手な我が儘を云っているだけだったのだけれど。

 でも、付き合いが長く、深くなっていくにつれて、自分がとんでもなく思い上がっていた事に気付いたのだ。

 彼は私よりもずっとずっと頭が良くて、何でも見通して、私の人生が笑い飛ばせる程暗いくらい過去を匂わせ乍ら、それでも「私は完璧ではないし、恵まれている人間だよ」と云う。

 詰り、私は唯の餓鬼なのだ。私が如何やったって追いつけない彼が完璧ではないと云うのなら、如何して私が普通ではないという結論に至るだろうか。私は己惚れていたのだ。唯の子供ではないと恐れられて、思い上がっていたのだ。それが判っただけで、私はこれまでの人生の中で、一番美しい光に照らされた様な心地になった。


 長々と語ってしまったが、詰り、この二人の前では、私は唯の十一の子供になれたのである。


 それだけでは飽き足らず、彼等は私を時に甘やかし、時に厳しくし、私の心の中に完全に巣食ってしまった。お陰で血も繋がっても居ないというのに、近所を歩けば「ほんと、あなた太宰さんにそっくりねえ」とか「でも目鼻立ちはお母さんよねえ」とか云われて、浮ついた気分になってしまう位には絆されてしまった。一生の不覚である。

 勿論血が繋がって居ない事で、負の感情が一度も頭を擡げなかった訳ではない。然し、生憎その有無だけで親子か如何か考えるのはナンセンスだと云う事をあの二人に叩きこまれてしまった所為で―――否まあ直接ではなく、日々過ごす内の不可抗力ではあるが―――最早劣等感すら感じない。寧ろ早く弟か妹を作ってくれと云いたいくらいだ。



 却説、話は変わるが、私には最近悩みがある。

 如何したら、父と母はもっと幸せになれるだろう。

 私なんかが居るから、なんて事は怒られるし抑々もう思っていないので云わない。然し如何も、あの幸せ満開の夫婦はもう少し何とかならないのかと思うのだ。

 違和感の正体が何なのか判らない。抑も幸せ満開とか云っている時点で解決している様なものなのだ。それなのに、何故。


 母はとても良い女性だと思う。料理も上手いし家事もテキパキと熟す。サボりがちな父を家から叩き出すのも彼女の役割だ。それに比べて父はその度にブツクサ文句を云うし、浮気がちだし、かと云えば母が他の男性と話せばすぐ拗ねるし、自殺はするし―――ああ、そうか。


「成る程。そう云う事だったのですね」
「「?」」

 夕食の最中に行き成り声を上げたものだから、父も母もそろって此方を見て、同じ表情を浮かべた。

「解決しました。最近悩んでいた悩み事が」
「おや、紅音は何を悩んでいたんだい?」

 微笑みながら父が云った。何時もの笑顔との僅かな違いで、父が少し困っているのを感じる。私が箸をおいて真剣な表情をしたので、両親は顔を見合わせ、何事かと耳を傾けた。


「如何したら二人がもっと幸せになれるのかを考えていたのです。然し私が見る限りお二人は幸せです。とても難しい問題でした」
「また貴女は、嬉しい様な恥ずかしい様な事を……」
「へえ、我々の愛娘は可愛い事を考えてくれるものだ!それで、如何云う解決策が出たんだい?」
「はい。とても困難でしょうが、必ずやり遂げます。では先ずは宣言を」

 片方は呆れた様な、もう片方は目を輝かせながら、然し何方も微笑んでいる。私も二人に微笑みかけながら、無駄にキラキラしている笑顔の方へと云い放った。



「お父さん―――――お母さんと別れて下さい」



 これは、両親を愛しているが故に捻くれ過ぎた反抗期が来てしまった娘と、娘に来た突然の反抗期に怯えつつ好かれようと奮闘する父親と、そんな二人を眺め、偶に巻き込まれる母親の、他愛のない記録。



 彼女の名前は太宰紅音。元マフィア幹部と元結婚詐欺師の娘である。



太宰 紅音 (デフォルト名 太宰 紅音(だざい・あかね)) 女 十一歳
異能力「?????」

原作1巻時より二年前、太宰夫婦に引き取られた少女。
年齢に似合わない態度と言葉遣いから周囲の人間には避けられていたが、別に格段際立った特徴がある訳でも無く、『普通』の少女。

よく両親となった太宰夫婦に似ていると云われるが、外見がよく似ているというより、表情、仕草、性格の面が所々似ている事から、見た目もそれに付随して似ている様に見られている。

性格は、実は何方かというと父の方に近い。母に似ている様に見えるのは、彼女が懸命に真似しているからである。


乞うご期待

(2017.12.04)



紅音ちゃんがのんびり呟く垢(鍵付き):@D_Akane_b

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