03

「世界女王、今シーズン最後の滑りです。曲はリスト・フランツで愛の夢」

ピンと弦のように張り詰められた緊張の糸に流れ出した音楽は絡みつくように響きだす。それを優しく抱きしめるように振り付けははじまる。
彼に貰ったものにお返しをするみたいに体をうごかして、情熱的な言葉を紡ぐみたいにステップを踏んで、苦しいほどの愛を解き放つみたいに飛んだ。
これは私のすべてだ、夢であったとしても一緒に過ごした時間は愛で、私の人生に褪せない色をつけてくれた。


ごめんね、愛をくれたのにあげることが上手くできなくって。



「ここまでパーフェクトですね。神谷選手、今まで見たことないほどいい表情です。」

「ええ、引き込まれますね。これは表現の方での点も期待できます。」

「このスピンの後ラストジャンプ。さぁパーフェクトなりますでしょうか。」

あぁ、このジャンプを飛んだら終わっちゃうんだな。
1年は一緒にいた彼との終わり。
いけない、視界がぼやけてきた、ちゃんとちゃんと飛ばないと。

私も愛してたよ。

ガッッ

「ラストジャンプ、トリプルループ!見事に決めました!」

この愛から目を覚まさなければいけない。終わりなのだ。ステップを踏んで眠りにつくように氷上に寝転んで演技が終わった
。息が苦しくって、観客の熱気が身体の末端から顔へと集まるように火照る。火照った顔に涙が流れていく。ゆっくりと立ち上がって観客へ深いお辞儀をする。
あぁ涙が止まらない。どうしたらいい?

「ミナコせんせ……どうだった?」

受け取ったタオルで涙を拭いながらキスクラに向かう。やっばいどうしよう涙が収まらない。

「アンタほんと不器用ね」

なんとも先生らしくて思わず笑ってしまった。

「神谷選手フリー得点149.88!堂々の三連覇を果たしました!」

涙を拭うのと三連覇を果たしたことへの喜びで皇帝と呼ばれる彼が自分のことをみてたことに気づかなかった。

『素晴らしい!』





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