電気のいらない涼み方

8月...夏真っ盛りの小さなワンルームは、窓を開けても何をしても暑くて何もやる気がおきない。汗かきな私には嫌な季節、夏!
当然、暑さで全く進まないレポート。それから、後ろで構って欲しそうにしている彼氏にも応えられず。


「名前〜、久々に会ったのに酷くね〜?」


暑苦しいパーマを一括りにして、純太が私のベッドでゴロゴロ転がる。


「いや、3日前に会ったじゃん」


私がそう突っ込むと、「3日も、な!」と訂正された。うぜー...。


「あ、今こいつうぜぇって顔したな」
「わかってんじゃん」
「うーわ傷ついた、純太くん超傷ついた」
「へー、あーそーなんだー」


キーボードの隙間に入ったゴミを綿棒で取りながら興味なさげに返事をすると、後ろからガバッと抱き締められた。いや、暑いんですけど!


「いやだ!暑い!触んな!」
「はい却下〜。名前ちゃんたらドライだなぁ...オレちょっと寂しいわぁ...」
「ドライな所が好きって言ったの純太でしょ?」


早く離れろと肩に乗っかる純太の頬を引っ張って抗議。でも全然効果なんてなくて、そのままベッドに押し倒された。やる気満々な純太が私を見下ろして舌舐めずり。いや、しませんよ?絶対嫌ですよ?こんな暑い中したくないからね?汗で身体中ベタベタだし!


「やだ。しないからね」
「そんな事言ってるけど、その気になったらすっごいじゃん?」
「うっさい変態パーマ!ワカメ!」
「うんうん、この際パーマでもワカメでもいいわ。名前、キスだけでもしない?」
「んひゃ...!?」


私の脇腹を純太がなぞる。こそばゆいんですが!ちょっと楽しそうに擽るその手を何とか押さえ込むと、不満の声が上がる。無視。
...ていうか、純太はくそ暑いのになんでこんな盛ってんの?暑さで頭イッたの?大丈夫?


「もう少し涼しくなったら...ねっ」


ぐっと迫る純太の胸板を押し返せば、そのまま考える人みたいなポーズで何やら悪巧みを始めた。嫌な予感するなあ...。


「ふーん、涼しければ名前とイチャイチャしてもいいって事?」


出た、策士の顔(と言うより悪役みたいな悪い顔)


「涼しければ」


「言ったな?」と得意気な顔する純太。
何せ貧乏大学生の狭いワンルーム。クーラーなんてもんはないし、あっても小さな扇風機が一台のみ。何をしようというのやら。冷蔵庫で何やらやっている純太を眺めながら首筋を伝う汗を拭った。


「名前、これ使ってイチャイチャしようぜ〜」


冷蔵庫から戻ってきた純太がニヤニヤしながら持ってきたのは...沢山の氷が入っているコップ。


その顔、何か厭らしい事考えてない?気のせい?


「変態行為にはお付き合いしませんよ」
「なに?オレ何も言ってないけど?ナニ想像したの?名前ちゃんのえっち!」


うざっ...!


「帰れ」
「わー!ごめんて!」


暑いのにほんと元気だなあ、純太。やっぱり頭湧いたんじゃないの?大丈夫?




***


「ほら、こっち来て」
「涼しくなかったらコンビニまで走ってアイス買って来てよね」
「アイスでも何でも買ってきてやるよ」


そう言ってニッと笑う悪戯っ子みたいな純太の顔に不意をつかれて心臓が跳ね上がる。ずるい、その顔好きなの知っててやってるんだから!体温あげるな、ばか純太!


「で?なに?」
「膝、乗って」
「.....はい、無理」
「そこをなんとか」
「終わったらアイス買ってくれるならいいけど」
「結局アイス買わされんのか...まぁ、お安い御用だけどな」


アイスが確定したから渋々純太の膝の上に乗る。乗ったけど...


「向きが逆〜。オレの方向いて」
「いやだよ!恥ずかしいよ!」
「何を今更照れてんだよ。する時これ好き〜っていつも言ってるじゃん?」
「ば、ばかじゃないの!?」


まぁまぁって言いながらちゃっかり私の腰に手を回してるし。この男は...。


「名前、口開けて」
「なに、やだ、怖い」


つん、と唇をつつかれて思わず仰け反る。そんな怖がるなよ〜って純太がさっきの氷を自分の口に放り込んだ。


「ただチューするだけだったら暑いからさ、口ん中で交換しながらしようぜ!」


うわ、いい笑顔でとんでもない事言ったよ!
ほらね?碌でもない事考えてたでしょ!?
でも、そんな碌でもないことに嫌々言いつつ、乗っかる私も同レベル。
純太は上機嫌で口の中に氷を放り込んだ後、舌先にそれを乗せて、口を開けてくれと催促してくる。


「ん...!」


合わせた唇はひんやりと気持ちが良い。それなのに口の中は熱くて、でも舌を滑る氷は冷たくて...頭が誤作動を起こしそうになる。加えて、イチャつけて御機嫌な純太が、調子に乗って好き勝手に私の口の中を行ったり来たりするから、余計頭の中はぐちゃぐちゃだ。
数分も経たないうちに、二つの熱であっという間に氷は溶けてなくなった。
間髪入れずに純太が氷を一つ口に含んだかと思ったら、また同じ様に唇がくっつく。身体は熱くて仕方ないのに、氷一粒あるだけでお互いの唇は離れようとしない。冷たさを求めて一つの氷を舌で奪い合っていたけれど、いつの間にか冷たさ以外の別の何かも求め始めていることに気がつく。悔しい、でも...冷めたいし気持ち良い、ほんとムカつく。


早く唇に続く刺激が欲しくて、焦れったくてしがみつくと、純太の唇が離れていく。


「あれ?もうこれ、必要ない感じ?」


殆ど溶けて小さくなった氷入りのコップを、ニヤニヤしながら純太が手に持って私の前で煽るように揺らす。くそー、腹立つのにキュンキュンする。この形容し難い感情は純太専用の感情だ。


「ほんとムカつく!もういいから、早く...」
「これから名前としようとしてること、身体熱くなっちゃうけど、いいの?」


意地悪な顔をした純太が、私のブラウスのボタンに手をかける。


「...出すもの出したらダッシュでアイス買ってきて」
「わお、どんな練習メニューよりきっついなーそれ」


そう言いつつもボタンは一つ、二つと開いて胸元をさらけ出していく。



「ま、アイスのことなんて忘れちまうくらい凄いのするつもりだから...よろしくな?」


うわ、腹立つ!何その自信!終わったら開口一番に「ほらほら、出したならさっさとダッシュしてアイス買ってきて」って言ってやりたい!...けど、ちょっと...これ、言えない、かも。


胸や太腿を這い回る手の感触に、私の思考も、さっきの氷みたいに甘く溶かされて、宣言通りになったのは言うまでもない。





※※※おまけ※※※

「あー、もう!汗だくなんですけど!」
「良いじゃん、こう...本能的且つ官能的でさぁ。は〜、終わった後の余韻でまたしたくなるわ〜」
「...!?や、もう結構です。あ!!てゆーか、アイス!!」
「あらら、思い出した?そんじゃ、思い出せないように、もーいっかい」
「ひぇ...ちょ、やめ...んん!!」



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