実は底なし沼でした


「好きだ...!苗字...!」




苗字名前、18歳。
卒業式が終わった誰もいない放課後の教室に呼び出されて、人生初の告白を受ける。
相手は同じクラスの青八木一くん。


しかしながら困った。


面識?ないない!
フラグ?いつたったの?


もうそれレベルで接点がない。


青八木くんが私のどこを好きになったのか見当もつかない。自分で言うのもあれだけど、別にこれと言って美人でもなければ何か秀でた物を持ってるわけでもないし。


ドッキリかもしれないと一瞬思ったけれど、青八木くんは真面目な人だ。悪戯でこういう事を言うタイプではないから、この告白は本物で間違いないだろう。


じゃあ、益々何で私なの。


「あの、私のどこがいいの?」
「全部だ」


思わず口から出てしまったけど、間髪入れず返ってきた言葉は青八木くんらしいっちゃらしかった。


無駄な言葉で飾らず、気取らず。
真っ直ぐでハッキリと。


でも、全部て...!


「あ、そ、そう...なんだ」
「ああ」


やば、自分で聞いたのにめちゃくちゃ恥ずかしい。


そもそも、青八木くんの事ってよくわからないんだよなあ。


私の中の青八木君の情報って言ったら...無口、真面目、自転車部の副主将?で手嶋と仲良しだって事くらいだ。
ちなみに私は、お喋り、不真面目、帰宅部。あ、あれ?好きになる要素どこにもなくない?
考えれば考える程よくわからなくなってくる。わからないって言葉がゲシュタルト崩壊起こしそう。


「苗字」


ずっと返事をしない私に痺れを切らしたのか、青八木くんが一歩、私に近付く。
思わず、目の前の青八木くんを見上げた。


青八木くんって男子の中では背が小さい方かなって思ったけど、そんな事ないかも。背の低い私からしたら充分大きいし。


そ、それに...。


「苗字の返事が聞きたい」


普段は前髪で顔があんまり見えなくて知らなかったけど...めちゃくちゃイケメンじゃないの...。近距離で見詰められて初めて気が付くっていう、ね。もう本当に何で私告白されてるのか余計わからないわ。


「誰か好きな奴とかいるのか?」
「い、いない、よ!」


やばい、そもそも男の子に免疫ないから目が合わせられない!てゆーか、イケメンなんてもっと免疫ないわい!!


赤くなっていく顔を隠すように俯くと、青八木くんの大きな手が私の頬を包んで上を向かされた。


「あ、わわわわ!何!?」
「告白、嫌じゃなかったか?」
「えっと...嫌じゃないどころか嬉しい、けど、ちょっと混乱してまして」
「!!」


夕陽に照らされて青八木くんの金色の髪がきらきら光って、何か御伽噺の王子様みたい。


青八木くんって割と積極的なんだなあ、何て思ってたらただでさえ近い青八木くんの顔が一層近くなって...むに、と唇に柔らかい感触。


こ、こ、これって、もしかしなくても、所謂キスですよね!?


あぁ、ファーストキスが…。目を瞑るとかそんな可愛い事する余裕なんて全くなく迎えてしまった。


「その顔、もっと見せて」
「や、あの...っ...!」


うっとりと熱っぽく見詰められて、そのまま腰に手を回された。


キス、からの、ボディタッチ!
えっ、青八木くんって...実は肉食系!?


「名前、可愛い」
「えっ!?うひゃ...!ちょ、耳...!待って!」
「待たない」


耳元に寄せられた唇と、低い声。


こんなキャラなの!?青八木くん!!さり気なく名前呼びしたよ!?
てゆーか、キャパオーバーしそうなんですが...!


そんなのお構い無しに青八木くんがもう一度私の唇を塞ぐ。
角度を変えて、何度も何度も。


いやちょっと待って?あれ?私、告白されてたんだよね?な、な、なんでこんなキスされてんの?これ以上したらドキドキしすぎて死ぬかもしれない...!


まだ返事もしてないのに、青八木くんは相変わらず何度も唇を重ねる。


こんなの、ずるい。
青八木くんの唇の柔らかさに思考力がどんどん奪われていく。
ぼんやりする視界と頭。


決して荒々しくない、優しく求めるような口付けは、青八木くんそのものって感じだ。草食系な見た目とのギャップは、多分、どんな女子も簡単に青八木沼に落とされる事だろう。


キスでこれなら、その先のアレもきっと凄いのでしょうね。まあ私、処女だからわかんないんですけど。


「返事、聞かせて」


この一連の流れは狡いよ、青八木くん。
もう一度言われたら、そんなの…。


「もっと、青八木くんが知りたいです。よろしくお願いします」




答えは一つに決まってるじゃん。
















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