「どうするかなぁ、これ」
手に持った紙袋を見つめながら、溜め息が出る。
買い物をしたら、くじが引けると店員に促され、引いたら当たった。
チョコレートが。
甘いものを食べない私でも分かる。これはあの、有名な高級チョコだ。確か1個500円近くするんじゃなかったか?
それが10個入っているらしい。
おそらく当たりの部類だ。
しかし当たった本人は食べられない。
じゃあこれをどうするか。
硝子の顔が真っ先に浮かんだが、彼女はチョコレートよりタバコだろう。
そして、同期の残りの2人が思い浮かぶ。
傑・・・でも良かったが、何故かもう1人が強烈に浮かんだ。
彼、五条は甘党だったはずだ。硝子から聞いた話だが。
でも、特別仲良くもない私が五条にチョコをあげるのか?
しかも今は2月。タイミング的にバレンタインだ。ある意味最悪のタイミング。
彼に限って有り得ないだろうが、変に思われないかが気にかかる。
いや、でも5000円分のチョコを、食べない私が持っていても仕方ない。
せっかくだから美味しく食べてくれる人の元へ届けるのが、私にできることではないのか。うん。そうだ。そう思うことにしよう。
「ってことで、はい。これ」
「は?なにこれ?」
「チョコ」
「え、なまえ、アンタそうだったの?」
「違うわよ!くじで当たったけど私食べないから貰ってもらおうと思っただけ」
案の定、硝子に突っ込まれたが、全力で否定した。
誰もいないところで渡すと余計に厄介だから、全員教室にいるタイミングを狙ったのだが、これはこれで面倒だった。
「いらないなら傑にあげるけど」
「いや・・・いる」
「よかった。貰ってくれてありがと」
「あーうん」
普段あんまり喋らないから、彼も戸惑っているのだろうか。
確かに、こんなに話したのいつぶりだろう?いつもは挨拶くらいしかしないし、それすらスルーされることもある。
いつまで経っても、この五条悟という人間は苦手なタイプだ。
「なまえ、悟にだけずるくないかい?」
そんなことを考えていると、傑がふいに聞いてきた。
「あー、さすがに私もそこまで鬼じゃないよ。はい、これ」
「ありがとう」
「硝子にはタバコね。1箱だけだけど」
「マジ?ありがと」
傑には日本の有名菓子メーカーのチョコ菓子、硝子にはタバコを渡した。
「ちゃんとホワイトデーのお返しをしないとね」
私が渡したお菓子を見ながら傑が言うので、それは丁重にお断りした。
「いや、別にいいよ。たまたまくじで当たったからってだけだし」
「そうもいかないだろう?なぁ悟」
「・・・・・・」
傑の問いかけを華麗にスルーしたので、まぁ彼らしいな、苦笑して、今年のバレンタインは幕を閉じた。
1ヶ月後、教室に入ると五条からいきなり紙袋を渡された。
よく分からずに彼の方を見ると、少し顔を赤くしながら、今日!と言うので、カレンダーを確認すると、ホワイトデーだった。
意外とマメなんだなぁと思っていると
「傑と硝子と3人分」
と言うので合点がいった。
中身を確認すると、私が好きなコーヒー豆が3種類ほど入っていた。
おそらく硝子が買ってきて、五条に私に渡すよう言ったのだろう。じゃないと彼が私に直接渡すなんて有り得ない。
「ありがとう。好きなんだ、コーヒー」
そう言うと彼は、そりゃよかった、とだけ言って去っていった。相変わらず顔は赤いままで、ちょっとだけ可愛いところがあるんだなと思った。
貰ったコーヒー豆を見ながら、彼も意外と普通に男子高校生なんだと感じて、少し彼に対する認識を改めた1日だった。
配布元:確かに恋だった