ミニ小説




▽2018/10/08(Mon)
スパーク行ってきました


初めて同人イベントに行ってきました。
とっても楽しかったです。色々な作品が並んでおり沢山の方のアーサーを堪能できました。もっと増えてもいいのよ。
私も夢本出したくなりました。絶対楽しい(私が)
13日もオンリーあるんですね。
行きたい〜。

以下トイレに並んでいるときに舞い降りた、そいねっころんネタ。ギャグにする予定が斜め上に行きました。もし続き書いたら短編に移動します。
※アーサーへの片思い描写あり。
※片思いで終わらせたい方は***までで終わりにしてください。




名前変換



「ズバリ、君は疲れている」

疲れてる?大丈夫?と聞かない辺りダ・ヴィンチちゃんらしい。そんなことないよ、と呟くだけで頑張れる魔法の言葉は、実のところ一時凌ぎの錠剤に過ぎなかった。
 蜘蛛の巣みたいな膜が心を覆っている。普通に過ごしているだけでは見落としてしまいそうな薄さだが、ここ最近幾枚の層を重ねた末、透明度にやや陰りが出てきた。
 メディカルチェックだけでは見通せない心労も見抜いてしまう辺り、流石天才。

「いや?特には天才と賞賛される技を披露した覚えはないね」
「そうなの?」
「そうとも」

謙虚ともとれたが、彼には似合わない言葉だ。少し考えれば嫌味なのはすぐに分かった。天才云々以前の話らしい。その顔色を見れば誰でも眉をひそめるだろう、と。

「夜にね、何度も目が覚めるの」

きっかけと浮かぶほど、目立つ事件があった訳でもなく、気がつけばそうなっていた。最初こそこんな日もあるかと軽く流していたが、流石に何度も目が覚めてしまう夜が三日連続で続けば、疲れも出てくるか。
 あと二日、同じ症状が現れたら相談しようと考えていた矢先の呼び出し。体面は保てているつもりが、本当に「つもり」でしかなかったようだ。

「原因不明の睡眠不振。心当たりもなく、他身体的不具合はなし。聞いただけではなんとも判断しづらいなぁ」
「あれかな?日頃の疲れが爆発したとか」
「それなら逆に深い睡眠にありつけると思うけど」

魔術回路に異変もなく、サーヴァントとのパスも安定している。第三者による魔力干渉の残り香もなく、ならば精神的なものかと聞かれれば首を捻る。
 最近は至って平凡な日々を送っている。決まった時間に起床して英霊達と相談しながらレイシフト。小さな特異点になりかけの因子は排除して、慣れた報告書を綴る。

「とりあえず、薬を処方するよう医務の方に伝えておくから。必ず服用すること」

名前には何が原因かちっとも分からなかったが、多分そんなに大した理由じゃない。しかし素直に告げれば自分の体を軽んじていると呆れられそうで、直前で息を呑んだ。

「(薬とか、じゃないんだよなぁ…)」

もっとこう、病気と決めつけた症状を治そうとするのではなく、香り良いものや肌触りの馴染む布地が良い。この前女性職員が睡眠の質が違うと興奮していたホットアイマスクとか。きっかけさえあればぐっすり眠れる気がするのだ。
 工房を後にしカルデアの廊下をぶらぶらと散歩しながら、安眠に繋がるアイディアを吐き出していく。あわよくば不眠の原因も思い出すかと期待したがそんなことはなかった。

 外郭に近い広々とした廊下は、物寂し気な変わりに本日の空模様を大きな窓から映し出す。廊下の一側面まるごとガラス張りになっている場所はカルデアにおける名前のお気に入りの場所の一つだ。
 今日はからっとした晴天が突き抜けている。吸い込まれそうなマリンブルーの空が氷山の向こうまで広がっていた。見る分には母国の初秋、冬を迎える前の心地よい気温を思い出させてくれるが、いい天気と外へ駆け出せば大変なことになってしまう。
 カルデアの、名前の体に最も適温と調整された空調は、彼女に一切のストレスを与えることなく今日も元気に稼働している。

「(眠くなってきた…)」

時刻はお昼過ぎ。昼食を終え、一日の中で瞼が穏やかに沈んでいく強制力との戦いの時間。昨日も一昨日もその前もずっとレイシフト続きであったため、久方ぶりの休日をいかに充実させるか考えあぐねていた結果、こうなった。

「(不眠続きのせいかなぁ)」

天高く構え、廊下に光を差し込む太陽の朗らかさ。ぽかぽかと名前を見守るおひさまの力は照らした者を操り、悪い魔法をかけてしまう。
 直立している以上、足をつけたまま眠る醜態は晒さないだろうが、一つ二つ欠伸が誘発されるのは致し方ない。涙腺が刺激され目尻に涙を浮かべた名前は、ごしごしと生理現象をふき取ってから、瞳をまん丸に形作る。

「……ん?」

何かいる。もしくはある、と言い換える。ただ視界に映っただけでは判断に困る、謎の何かが窓のへりにぽつんと置いてあった。物怖じせず近寄れば、それは名前の手に収まってしまう程度のとてもスケールで、寝息を立てていた。
 そう、寝息だ。フォウを軽く通り越して、拳サイズのぬいぐるみがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

「かわいい…」

未知の生物に怯えるには名前の心は耐性が育っており、また正体不明の暫定、不思議なぬいぐるみと銘打ったその子は、疑問の余地すら吹き飛ばすほど愛くるしい。

ただひたすら、かわいい。

「ひえ〜、なんじゃこれぇ…」

綿が詰められているのか柔らかそうな胴体にフェルトで切り抜きされた装飾具やらが貼り付けられている。やや稚拙な作りのデフォルメ生物は横向きに猫のごとく背を丸めておだやかに肩を上下させている。
 名前は小声を前提に悶える。寝ているその子を起こさないように手は触れず、様々な角度から子供のように観察を繰り返す。
 今すぐ両手でぎゅっと抱きしめたい。柔らかそうな顔に頬ずりをしてやりたい。そんな欲望がむくむくと立ち昇り、本能のおもむくままに指先が怪しい動きを見せ始める。わきわきと邪な欲望が立ち込め、不審者よろしく鼻息が荒くなっていく。

「(...触ってもいいかな)」

明らかに命を持っているぬいぐるみを前に名前は冷静な判断を失っている。彼女のツボを心得ている未知の生命体が理性を破壊しにかかり、わなわなと震える指先が少しづつ小さな体を覆っていく。



 ふぁ〜。呑気な欠伸が指を制する。今にも抱きしめんと襲いかかっていた動きが止まり、罪を犯す前の未遂犯になったつもりで不審に手を引く。頭の後ろから背中にかけて理由の分からない汗をかきながら名前はごしごしと瞼をこするぬいぐるみの一挙一動を見守っていた。
 寝ぼけ目が力なく、しばし宙へと視線を漂わせる。上体起こしたままぽけっと口を開いている。何度か深い瞬きを繰り返すことで、少しづつ瞳に色が宿っていく。その過程の最中、名前はあることに気がついた。

「(誰かに似ている?)」

ぬいぐるみの知り合いなどいないはずであったが、身を包む洋服の形や、髪と瞳の配色には既視感がある。それもつい最近の記憶を撫でる、この覚えは。
 なかなか持ち上がらない瞼が、そのまま横へスライドされ、名前の双眸とぴったり重なった。目が合った事実にときめきと若干の緊張に包まれる。どういう動きをするのか予想のつかない反面、起きてなお可愛いらしい姿に心が勝手にときめく。忘れていた少女心をくすぐられる。

 ぽやん、と名前と相対していた顔が瞳だけでなく、頭もひっくるめて存在を把握したのかぱあっと分かりやすく花を咲かせる。垂れていた眉尻が伸びて、薄緑の細くて丸い瞳に生気が宿る。嬉しそうに両の口端を上げて立ち上がる。
 己より遥かに高い位置にある少女へ向けて、精一杯のアピールを送る。言葉は喋れないのか、短い手をぴょこぴょこ振ってにこにこ笑顔を崩さない。愛情表現の何ものでもない、抱っこをねだる子供のようで名前は心臓が雁字搦めにされる痛みに崩れた。

「かわい゛い゛...!」

 矢の矛先が心臓を抉る。心の血が吹き出して、地に膝をつかされる。
 どこからきたのか、何故こんな場所で眠っているのか、そもそもどういう仕組みなのか。全てがどうでもいい。心臓に当たる部分を抑えながら、突然苦しみ始めた名前を心配してくりくりの瞳がとてとてと駆け寄ってくる。その動きすらかわいい。

「だ、大丈夫だよ」

分かるものにしか見えない血を口の端から垂らし、親指を立てる。ぬいぐるみっ子、通称ぬいは名前が無事であることが嬉しいのか言葉に出せない代わりにぱたぱた両手を振っている。動くたびに殺しにかかるぬいの微笑ましさは、そのまま魂を昇天させる勢いで、鼻の下を伸ばす名前を余所にちょこちょことあっちやこっちを歩き回っている。

「なに?何を探しているの?」

名前の言葉が届いいているのかいないのか、問いに対して反応を返すことはなく、ぬいは見かけによらない身のこなしで彼女の腰ほどの高さを誇る窓のへりから地面に着地する。その小ささに気を抜けば見失ってしまいそうな不安に駆られ、背中だけを見守っていた延長に彼が何かに乗り上げるのを、正体を理解するのに遅れてしまった。

「こんなところにソファなんてあったけ?」

口をついた疑問に答えるものはおらず、シンプル過ぎると記憶していた広い廊下の一角にポツンと鎮座するソファーはとてもリラックスできそうな良いクッション性を誇っていた。肘掛に当たる部分、なだらかな急斜の上でぬいがぴょーんと跳ねては名前を手招きする。
 愛くるしさの境地に到達した、ぬいの魅力に引き寄せられるかのように名前はあっさりソファに腰掛けた。柔らかいクッションが彼女のお尻を包み込み、窓を背にしてぽかぽか首筋を照らす太陽の温度がジワリ心をほぐす。

「座って、それから、どうすればいいの?」

喉の底から本日何度目かになる欠伸を堪える。半ばとろんとよどみ始めている瞼に気づかぬまま名前はのんびりぬいへ問いかけた。キラキラの瞳がこっちこっちと肘掛けを叩いては寝転んでを繰り返す。その行動の意味を首を傾げながら観察しているうちに、体から力が抜けた。頭から肘掛に落ちて、しかしぬいは頷いている。なるほど、寝転んで欲しかったのか。
 頭が下がったことでグッと縮まった距離に名前は「あぁ、やはり似ているな」とどこか間の抜けた感想を漏らす。頬についた素材の感触にうっとり、意識が飛びそうになって、いけないと瞼を必死に持ち上げる。
 もっとこの可愛らしいぬいと遊んでいたい。しかし彼女の必死な想いを裏切ってぬいはその体を横たえてしまった。まどろみの中に落ちつつある名前へ、全てを分かっていると言いたげな様子でちょこんとポーズを組んで見せる。

「ふふ、なにそれ」

とっても可愛らしいお人形さんのくせに、まるで年上風を吹かせて頬をつく姿勢は格好をつけているようにしか映らず、とても微笑ましい。なまじ純粋な瞳が当然と言いたげに名前を見守ろうとするのだから、その態度がギャップに拍車をかける。
 やや吊った眉が、いつもの彼を想起させて名前は己の限界が近いのを悟る。

「(だって、こんな、見間違い...)」

いくら名前が彼の英霊に憧れていようと、少し似ているからといって重ねてしまう、なんて。恥ずかしい上に申し訳ない。
 もしやこれはもどかしさの上に舞い降りた名前の妄想なのか。夢見の悪さが見せる白昼夢か。眠りにつく直前はどうでもいいことばかりを考える。事実、こんな可愛いぬいに添い寝をしてもらえるのなら夢でもいい。押し負けつつある睡魔の境目で名前は向かい合う唇が「おやすみ」とかたどったのを目にする。

良くも悪くも心を締めつけてならない声の音を、確かに耳にした。





 暖かい匂いがした。太陽の香りなのだと分かった。
 肺を膨らませてもっと、とねだる。なんだかとっても落ち着くから、ずっとここにいたくて頬を擦り付ける。願いは通じ、欲しがる彼女へ応えるように温かみに満ちたそれが頬や頭を撫でて、名前はたまらなく幸福な世界を一人漂っていた。

 目覚めは自然にどこからともなく。それはもう穏やかなもので久方ぶりに思考が冴えていく過程に感動すら覚える。疲れと言う名の異分子は全て取り除かれ、まっさらになった頭が妙に見渡しの良い視界を起動する。目の前に見慣れた肌とそうでない肌があった。
 片方は己の掌だ。客観的に見て滑稽に思うほど必死に相手をつなぎとめている。この手は何をしているのか、怪訝に眉をひそめたところで頭上から降り注ぐ声に心臓が震えた。

「おはよう、マスター」

眠りにつく直前、同じような声を聞いたものだからてっきりこれも幻聴の類と信じ聞き流す...こともできず、名前はカチコチに固まった思考で視線だけを上に寄越す。
 夕方の日差しを逆光に、昼間の空を思い出させる眼がゆるり微笑んでみせる。余裕綽々な態度は反対に名前のショックを増しましにするだけでときめく余裕すらない。本人には至って悪意の気がないのを知っているからこそ腹立たしい。自身が握りしめている蒼のサーコートの袖、くしゃくしゃの皺を描いている事実に泣きそうになる。

「お、おはよ...」

 ごった返す感情の大渦の中で名前が唯一振り絞った勇気がそれだ。滝のように紡がれるはずだった言い訳は騎士王アーサー・ペンドラゴンの威光の前に全て塵と消えた。一周回って空になった頭が、さっさと手を放せと命令する。

「ごめん」
「どうして謝るんだい?」
「服にしわがついて...。あ、いや、それもそうなんだけど、握って眠ってたなんて、ほんと...その、」
「マスター」

怯えるように離れた手が、そのままモゴモゴとまとまらない言い訳をこぼす。申し訳なさが先行して、名前はアーサーの顔を見れずにいた。
 彼に呼びかけてもらえなければ延々と長い謝罪を続けていただろう、愚行を犯す前に救われる。こっちを向くように、見えない力は有無を言わせず名前の顔を上げさせる。橙色に染まる廊下の一部から少しだけ色味を分けてもらった濃ゆい金髪がアーサーの瞳にわずかにかかった。

「嬉しいんだ」
「え」
「君が袖を引くほどに、僕を求めてくれたことが」
「!...そ、それは、」

そんな顔で、声で真正面から嬉しいだなんて。言われる身にもなってほしい。短い時間に用意していた言い訳を全て吹き飛ばしてしまったアーサーは離れていこうとする彼女の手を自ら掴んで詠ように落ち着かない台詞を口にしてみせた。
 普段の鋼色の甲胄ではなく、名前よりもずっと大きいエーテルの掌が確かな体温を持って握っている。その事実だけでもたじたじになっているというのに。 

「勝手ながら僕を信頼しているが故の行動だとしたら、サーヴァントとしてこれ以上の幸福はない」
「あ、う...ん」
「だからどうか顔を上げてほしい。大丈夫、寝ぼけ目の君もとても可愛かったから」
「!?...っな、何も大丈夫じゃない!」

アーサーの言葉に一々踊らされるのはいつものことだった。舞い上がった心が一度沈んで、かと思えばまた飛び上がって、相変わらず彼を前にすると名前の心の慌ただしさは常時の倍膨れ上がってしまう。そんなところも彼にはお見通しなような気がして、名前は悔し紛れにも騎士の手を取り立ち上がる。
 夕暮れの背景に、彼の姿は絵になった。いついかなる時でも周囲を絵画の風景に仕立て上げてしまう罪な男は今もそこで描写されたような美しさを灯す。不意に角度を変えて見せる顎の一辺に到るまで名前はこの騎士の虜だった。

「しかし、昼寝の場所については納得しかねるな。マスター名前。君がいくら野営に慣れた体であろうと、せめてこのカルデアの中では脚のついた寝台の上で眠ることをおすすめするよ」
「うん...。あれ?」
「それに、床で眠るのは衛生上はもちろん、年頃の女の子としても危険だ。そこまで疲れが溜まっていたのなら...」
「アーサー、ちょっと待って」

いけないことと分かってはいたが、どうしても違和感を拭えずくどくど喋り始めた彼に待ったをかける。カルデアの、公共の場で昼寝姿を晒していた自覚はあるが名前はしっかりぬいと共にソファで睡眠をとっていたはずだ。当然のように思い返すことのできる記憶に何気なく後ろを振りかえる。

 飾り気のない大窓とそのへりがある。しかし、あの寝心地の良い寝台の姿はどこにもなかった。いや、それはもうどうでもいい。掻き消えてしまったのはソファだけではない。あんなにも愛くるしくて、そして...アーサーにそっくりだった、

「ぬいは?」
「ぬい...?」
「いない。どこ行っちゃったの?一緒に寝てたのに」

広い廊下にはアーサーと名前の姿だけがある。端から端にかけてすっかり夕陽色に染まった廊下が今度はじわじわと青味を帯びてきた。いくら見渡してもあのぬいぐるみっ子の姿はない。まだ抱きしめて、その感触を味わってもいないのにあっさり消えてしまった人形を思い描いては喪失感にがっくりうなだれる。

「どうやら、とても楽しい夢を見ていたようだね」
「夢、」
「覚めなければいいと願う夢。僕も、昔見たことがある」
「アーサーも?」

子供のような純粋な聞き返しにアーサーはぐんっと深い、まるで思い出をかみしめるように頷く。

「けれど、いつかは醒める。そういうものなんだ」

当然のことを語っているのに、それだけで終わらせはいけないような気がして真摯な語り口にふさわしき態度で望もうと、眩しいほどの瞳と向き合う。彼は自分のことを殆ど語らない。悲しいかな、壁を感じることもあるが、疑念や疑心を感じさせないほどアーサーは名前に忠信を誓ってくれている。その在り方はマスターである名前が感謝するほどに正しく真っ直ぐ、そして嬉しかった。

「終わってしまうのは寂しいけれど、辛いことではないと、僕は思う」
「どうして。楽しい夢が終わってしまうのはイヤじゃないの?」
「思い出すまでさ。それほどまでに名残惜しいのなら、君はもう忘れないだろう?」
「そりゃ、そうだけど...」

もっと驚くような答えが返ってくるかと思いきや、拍子抜けするほど楽観的な答えに無意識に張っていた肩の力を抜く。アーサーはニコニコとしているが、名前からすれば「そうだね」の返答しか持ち合わせることができない。
 だが、それでいいのだと、当たり前のことを語っているのは彼だった分かっている。それを大切だと思うからこうして名前に聞かせてくれるのだ。

「ちょっぴり残念けど、ぬいのおかげでいい目覚めを迎えられたから、そういう意味では繋がってるのかもね」
「......。あぁ、君の言う通りだ。名前」

素敵なぬいぐるみ。小さなアーサー王。全てが名前の願望によって夢と現れたものだとしたら、それはもう未練たらたらになってしまいそうだが。可愛らしいあのフォルムを思い出せばいつだって元気になれる気がした。確かに、残念だらけではないのかもしれない。名前が楽しいひと時を過ごせた事実に変わりはないのだから。
 きっと今夜からはぐっすり眠れるようになろう。

「ありがとう、アーサー。なんか元気出た」
「それは良かった。僕も、ぎこちないな君の笑顔が好きだから」
「...褒めてないでしょう」
「まさか。君が僕のマスターで良かったと、改めて確認できたんだ」

そう思ってくれているのなら名前も彼のマスターとして少し胸を張れそうだ。信頼関係の先に抱いてしまった感情を告げる気はない。きっと聡い彼は察知している。アーサーが名前の想いを知っている。その事実を名前が"知っている"のを彼は"知っている"。
 何も言わないのが答えだ。聡すぎるのも罪作りなものだと名前は最近になって彼を憐れにすら思いつつあった。

「行こう。赤い弓兵の彼が、君の好きな料理を用意してくれているはずさ」
「アーサーもたまにはエミヤさんと話してみれば?」
「ふむ。そうだな...」

 考え込んでしまったアーサーに名前は笑う。意外なところで人間関係が器用でないところも含めてやっぱり愛しい。名前も今確認できた。

 優しい騎士の王様が、いつか迎える夢の終わりまで、せめて隣でこの手を握り続けてくれますように。
 彼女が彼に望むのはそれだけだ。

***









 二人も知らない。誰も知らない。
 突如として来襲したアーサー・ペンドラゴンそいねっころん.verが名前の寵愛を欲しいがままに貪り、まるで恋人のように甘い日々を過ごす光景を散々真横で見せられることになった騎士王が、正体不明の何かに突かれ続けた結果、とある行動を移すことになるのは。
 まだ、知らない。






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