[20XX年8月某日夜 九州地方某所]


九州地方の山奥にあった施設、創薬研究施設とされているそこで高専上層部未登録の突然の呪力反応があったことが報告された。
現地調査として高専呪術師2名が派遣される。


「はぁー…やっと着いた。」


尻痛ぇー と言いながら車から降りた長身の男…五条悟は目の前にある建物をサングラス越しに睨みつけた。


「ここだね、たしかに入る前なのにすごい残穢の残り方だ。」


続いて車を降りてきた男は夏油傑、長い髪を後ろで纏めており、福耳と細い目が特徴的だ。
呪術高専一年にして特級術師であるこの2人は、異常に強い呪力反応が起こった研究施設の調査に駆り出されていた。
呪術師は都心に集中しがちであり、こういった地方の調査任務に派遣されてくるというのは珍しいことではない。

東京にある呪術高専から車で数時間かかるこの施設にたどり着くまで、道とも呼べない山道を車で走りたどり着いた。
研究員もおそらくは住み込みで働いていたのだろう。


「地方の研究施設の調査なんて別に俺らじゃなくていーだろ?」

「まぁまぁ、呪術師の人手不足は悟もわかっているだろう?さっさと済ませよう。」


五条と夏油のやり取りを横目に、車の運転席から降りた補助監督の男は資料を片手に言葉を発した。


「長距離の移動ご苦労様でした。お二人とも、今回の調査任務は昨夜検知された強大な呪力の発生源の特定と、施設研究員の生存者の確認です。建物の中にはまだ呪霊…もしくは主犯の呪詛師が潜んでいる可能性がありますので…」


「あー、へいへい。
わーかったよ。でも見た感じ呪霊の気配は感じねぇし、すぐに終わんだろ。いこーぜ傑」


五条は補助監督の言葉を途中で遮ると腕を頭の後ろで組みながら施設の中へと姿を消した。

そんな五条に肩をすくめるも、薄っすらと口元に笑みを浮かべながら夏油も後を追った。


「…げぇ」

「これは…どうやらこの騒動を起こした犯人は、ここで相当暴れたようだね。」

「あぁ、一人が暴れたってより、ここに倒れてる呪術師がやり合ったのか?」


施設内部に足を踏み入れた五条と夏油は目の前に広がる惨状に顔をしかめた。

施設特有の無機質な真っ白い内装は大きく崩れ落ちており、至る所に真新しい血痕が飛び散っていた。
廊下や各部屋には複数の呪術師が倒れており、それらはすでに絶命していた。


「ただ尋常じゃねぇぐらいエグい残穢の残し方をしてるやつが一人いる。多分地下にいるな。」

「この惨状を作り出した主犯の呪詛師ってところかな」


転がる死体を避けて歩きながら二人は階段を下り、地下フロアへ到達した。
電灯はチカチカと不規則に点滅している。
廊下を進み道沿いに部屋の中へと入ると、そこはシステム室のようであった。
モニターやマイクなどの機器が故障を知らせるエラー音を響かせている。

部屋の突き当りの壁一面は大きなマジックミラーになっており、ミラー越しに奥の部屋の様子が観察できる作りだった。


「何だ…?」

「どうやら生存者ゼロ人…という訳じゃなさそうだね。」


奥の部屋に見えるのは、両手足と首を鎖で拘束されている小さな少女であった。


「オイオイ、新薬を開発してる施設がガキを監禁か?」

「表向けはそうなってたようだけど、この様子だとよろしくない人体実験でもやってそうだね」


会話をしながら少女の居る部屋の中へ足を踏み入れた二人。

突如目の前に現れた五条と夏油に気づいたのか、ジャラリと重苦しい鎖の音をたてながら少女が顔をあげた。

少女の瞳は目の前に現れた五条らを見つめているはずだが、その瞳はどこも写さないような空虚さに満ちていた。


「……オイ、張りぼて野郎。」


目の前の拘束された少女ではなく、その斜め後方を睨みつけながら五条が声を発する。


「もしかして、本体はそっちなのかい?悟」

「あぁ、術式で上手く隠れてやがる。」


五条はそういうと、靴音を立てて拘束具が固定されている壁の中へ手を差し込んだ。
五条の手は壁へとめり込み、そして壁の奥にある何かを掴んだ。


「…ゃ…!」


五条が手に掴んだそれを勢いよく引き寄せる。
現れたのは、目の前に拘束されている少女と全く同じ容姿をした少女だった。
壁の中から姿を現したと同時に先ほどまで見えていた拘束された少女はドロリと黒い影になり地面に溶けて消えていった。

少女は五条に腕を掴まれて固まり、ぶるぶると震えながら怯えている。


「このガキ、俺らが地下に入るより前からずっと術式で隠れて見てやがった。」

「ほう…この建物に残った残穢もこの子のもので間違いないみたいだね。取り合えず報告のために高専へ戻るよ。」

「高専に連れて帰るのか?」

「見た目通りまだ子供だし、それにこの現場をその子が造り出したなら……まぁ、どうなるにしても一先ずここに放って行くわけにもいかないだろう?」


言葉を濁した夏油は晴れやかとは言い難い表情をしてそう言った。
この地下へたどり着くまでにところどころに倒れ絶命していた者たちと、唯一の生存者である目の前の少女。
現場はその少女が呪詛師である可能性を物語っていた。


「へいへい、ほら行くぞ……って、はぁ!?」


二人が少女の方を振り返ると、少女は五条に腕を掴まれたまま地面へ座り込むようにして気を失っていた。


「寝てる…みたいだね。」
「……ッハ〜〜〜!」


重い溜息を吐き、少女の腹部に手をまわし抱え上げた五条。
二人は高専へ帰還するべく施設を後にした。

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