はじまりはここから


「はい、今日は新曲を作ったのでまあ何か作業しながらでも聞いてください」

 土曜の8時、スマホで手元を映しながらギターの弦を弾く。聴いてくれる視聴者は数人。この数人の暇人ために今夜も下手くそな歌を歌おう。
 作った曲は何の面白みもないラブソング。出会って別れて、別れた人のことを思う歌詞をギターの音に乗せて画面の向こうへ届ける。

「以上新作でしたーってね」
「ふーんいい曲じゃん」
「え、まじやった! ん、あれ」

 後ろを振り返ると双子の姉がいた。
びっくりして飛び上がり、ギターごと身体が床に転がる。さすがに顔バレは不味いので、とっさにスマホのカメラがこちらに向かないように倒した。

「ななななこれが噂の家族凸……」
「家族でこ? お姉さんおでこ出してないけど」

 出した方がいい? とぺろんと前髪を上げる姉を見て思わず笑ってしまう。双子ながらこういう天然なところはあまり姉と似てない気がする。なお後日叔父からお前も大概だと言われるのをこの時点の俺は知らない。

「ああ、まだ放送中だった! 見てる人いるか知らんがみんなまた来週!」
「また来週ー」
「来週は凸しなくていいからな」
「姉のおでこ需要があるならいつでも言ってほしい」
「もうおでこの話はいいよ」


『また来たぞ』
『相変わらずいつもの視聴者しかおらんな』
『夏休みキッズ沸きに疲れて過疎配信に来てしまったな』
『手綺麗』
『俺こいつの歌好きだわ』
『ちょい癖あるけどいいね』
『ここのコード微妙』
『888888』
『今回いいな』
『ん?』
『誰、女?』
『彼女か?』
『わ、カメラ消えた?』
『か、家族凸ww』
『お姉ちゃんwww』
『これは恥』
『おでこの話し始めたぞ』
『天然か』
『見てる。また来週』
『お姉ちゃんかわいいな』
『お姉ちゃんのおでこ需要ありますねぇ』
『今日は面白かったな』
『主、姉と喋らせた方が面白いな』
『来週も新曲と姉凸期待』
『凸期待されてて草』


「スー俺とネットラジオしよ」
「やだ」
「さっきみたいな日常会話でいいからお頼み〜」
「えー曲を聴きに来てる人もいるんでしょ? 急な路線変更でファンだった人が離れていく可能性あるんじゃないの」
「急に正論言うやんけ……」

 その後、曲を聞きに来るファンをどうするか綿密な計画を立てた。姉と叔父となぜか首を突っ込んできた親戚と会議したり、曲を披露したあとに視聴者に直接相談する謎配信をしたりした。視聴者には草を生やされたが今となってはいい思い出だ。

「視聴者いいって」
「直接聞いたんだ」
「うん、今まで通り曲の配信するなら、自由にしろって。あと草生やされた」
「草?」
「とりあえず、スーを出せってコメントが一番多かったのでよろしくお願いいたします」
「うむ、報酬のお菓子を忘れるでないぞ」
「ははぁー」

 こうして始まったラジオも気づけば明日で3周年を迎える。ぐだくだなラジオや動画を配信・投稿してきたし、決して大衆受けするようなものでは無かったように思う。しかし、いつの間にやらなぜか視聴者がそこそこ集まってくる配信者になったのだった。

「スーと二人で配信始めてから明日で3周年だな」
「そんな経つっけ?」
「経つ経つ。なーんか企画しようと思うんだけど、何がいいかな」
「また視聴者に聞けば?」
「まじ? じゃあ明日はコメント読み回にしようぜ」
「よきー」

 


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