赤いバッフロンの苦悩


「お前さ」
「ひゃい」
「俺だーいぶ丁寧に分かりやすく説明したあと、忘れないようにお前のスマホにメモまで残したんだけど」

 燃えるように熱い男は、ぼんやりとした何とも覇気のないスミレの頬を横に引っ張り青筋を立てている。スミレは「んーまずったなぁ」と思いつつも、ここで下手なことを言ったらこの説教が長引くことを知っていたので返事だけ返すことにした。
 ふぅとため息を吐いたオーバはスミレの頬を離し、分厚い資料を手渡した。

「仕方ないからもう一度説明してやる。各地方の交流事業としてポケモンリーグで定期的にエキシビションマッチをやってるのは分かってるよな」
「ああ去年カントーとホウエンでやってたやつ?」
「そうだ。そして今年の担当はシンオウとガラル。ガラル地方は知ってるよな。向こうのリーグはシンオウとは違ってジムに挑戦するやつを推薦してジムチャレンジをさせている。そして8つバッジを集め更にチャンピオンカップ、ファイナルトーナメントを勝ち抜きようやくチャンピオンとの対決だ」
「ふんふん」
「で向こうはめちゃめちゃ忙しい」
「でしょうなぁ」
「そこで今年のエキシビションマッチは俺たちシンオウリーグの面々が主体となって計画をすることになった」
「えーまずシンオウじゃなくてカロスとかイッシュとかとやった方がいいんじゃない? 距離的に」
「もう決まったんだよ。まあこの話には続きがあってだな……」

 その後も色々と説明してくれるオーバには小指の先くらい申し訳ないが、大人しく聞いていたスミレはだいぶ飽き始めている。それはもう一生懸命に話してくれるオーバの頭に棒付き飴を差し込むぐらいには飽きていた。

「おい、俺が気づいてないと思ったか」
「やだ敏感〜」
「お〜ま〜え〜な〜」

 また頬を引っ張られるかげんこつを落とされるか。どちらもお断りなのでスミレは素早く逃げる。だがしかしオーバとスミレはそこそこ長い付き合いであり、スミレの行動を見通していたオーバはすぐにゴウカザルを繰り出しスミレを捕獲した。

「次真面目に聞かなかったらちゅうしてやる」
「勘弁セクハラノーサンキュー」
「本当にしてやるから今度こそちゃんと聞けよ」
「善処します」

 かつてないほど集中し、正座までして大人しくしているスミレに少し傷ついたとオーバは後日語った。
 とりあえず聞いた話をスミレは頭の中でまとめる。ガラルとシンオウの交流試合。事前準備としてガラルのリーグと話し合ったり、実際にガラルを訪れ現地調査をする必要があるらしい。
 そしてその現地調査はスミレの担当となり、来月から1か月ほどガラルに行かねばならないということである。

「私のいない間は一時的にキクノさんが帰ってくると」
「そういうこと。まぁ気をつけて行って来いよ」

 ポンポンと頭を撫でられ、オーバの頭に差し込んでいた飴を返される。あげるよ酢昆布ラーメン味と言うと顔をしかめていらないと言われた。スミレ自身もいらなかったためオーバの頭に返却したらまた頬を引っ張られた。

「スミレちゃんが恋しくて泣かないでネッ」
「バーカ、寂しがるのはうちのチャンピオンだろ。最後までお前のこと心配して俺かリョウに行かせようとしてたぞ」
「ありゃー」
「ま、お前の相方も仕事でガラル行きが決まったからシロナも安心したみたいだし大丈夫か」
「よかったよかった」

 一人だとそんなに心配なのかと頭に過ったが、今までしてきたやらかしを思い出しスミレは納得する。いつも弟におんぶに抱っこの要介護をされているのである。

「観光じゃないけどな、双子水入らずでガラルを見て来いよ」
「ん、分かった」

 ガラルに旅立つまで残り1か月。ガラルを知ろうと買ったタウンマップがホウエンマップだと気づくのはまだ先のこと。

 


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