3周年企画B
「え、なになに何で上司来た?」
「ガラル出張頼むぞ〜ってことじゃないの」
ショウブは上司、ハンサムを思い返す。決してがさつな男ではないが、わざわざ出張ごときで菓子折りを持ってくるようなマメな男でもない。出張の内容もガラル地方の調査としか聞いていない。
「うーん」
「まあ貰ったものはありがたく食べようよ」
「……お姉さんホントに気をつけてよね」
「うーん善処善処」
「ダメだこりゃ」
今は配信中のため、これ以上視聴者を待たせる訳にもいかない。配信部屋に戻ろうと腰を浮かせたショウブにスミレは手紙を差し出す。
「おじさんからのラブレター。菓子箱の裏に付いてたよ」
「指令じゃねーーーか。気づかず捨ててたらどうすんだあのオッサン」
「まあ気づかなかったらショーくんの首が飛ぶだけなんじゃない」
姉の適当かつ的確な返事に縁起でもないと背筋が冷たくなる。
しかし、まだ現実逃避の時間は続いている。指令をポケットに捻り込んで、あくびをしているスミレと共に配信部屋に戻った。
「へいただいまお待ち」
「寿司屋かな? 待たせてすまんなみんな。次の企画は、と……ジャジャン!」
「おー『バトル施設への挑戦』かぁ。やったねそういえば」
「これは親戚からの企画で結果がこちらとなっております」
「ホウエンのバトルフロンティアとイッシュのバトルサブウェイに行ってきたよー」
「いやほんと移動を含めての弾丸スケジュールで疲れたわ」
「ホウエンのバトルフロンティア巡り楽しかったね。時間足りなくて全部回れなかったけど」
「二人で全部の金シンボル目指してたけど流石に2日は無理だったわよ」
「私がファクトリーとアリーナ、パレス、タワーで弟がチューブ、ピラミッド、ドームに挑みましたわよ」
「一応銀は全部取ったから許してほしい」
「最終日ピラミッドから全然出てこなくて、受付のお姉さんに迷子放送流してもらうとこだった」
「え、初耳」
「金取れたのはファクトリー、パレス、タワー、チューブ、ピラミッドでーす」
「そして疲れた身体にバトルサブウェイが突き刺さることな」
「サブウェイも楽しかったね。時間に余裕なくてマルチしか行けなかったけど」
「そもそも移動時間含めて1週間で行こうとする精神がヤバいんですけど」
「サブウェイはこのトロフィーをもらいました」
「俺の部屋に飾りました。いやぁ船の中とかでバトルしたことあるけど、電車の中は新鮮だったなぁ」
「弟技出すとき電車壊れないかどうかめちゃめちゃ心配してたよね」
「隣でなんも気にせず大技放つ姉にヒヤヒヤしてた」
「フロンティアブレーンだっけ、サブウェイのリーダーみたいな人達も双子でちょっとびっくり」
「サブウェイマスターな。あっちは一卵性っぽいからまじで双子って感じだったな」
「私たちもめちゃくちゃ似てるらしいよ、知り合いたちいわく」
「まあもっかい会ったときに「あ、双子さんたちまた会った!」って言われたから双子レベルでは似てんだろうな」
「嬉しい?」
「……言わせんなよハズカシッ!」
『おかえり〜』
『寿司屋「姉」』
『通いつめるわ』
『次の企画だー!』
『バトル施設!?どこいったん』
『親戚企画キター』
『ホウエンとイッシュ!????』
『シンオウのは行ってないんか』
『フロンティアだ!』
『サブウェイまじ?地元やんけ』
『シンオウからホウエン行ってイッシュ行ったのヤバいな』
『フットワークが軽すぎる』
『おーどこ回ってきたんだ』
『2日で金シンボル回収しようとすなw』
『ん?全部』
『ファクトリーはまじで鬼門』
『あ?』
『は?』
『え?』
『銀全部トッチャッタノー!?』
『銀でも凄いぞ』
『双子どっちも強いな』
『いや許すよ』
『弟……まあ俺も迷ったけど』
『消耗したくないけど戦わないとろくに探索できないしな』
『マルマインェ絶対許さん』
『だいばくはつだいばくはつだいばくはつ(^-^)』
『シンオウからお越しの弟くん〜』
『はっず』
『マ?』
『嘘乙』
『盛ってる?』
『ギィエエエエエ!!本物やんけ!!!!』
『は?金ダツラ?????』
『待って分かんない』
『7個中5個取っとるやんけ』
『弟と姉の手の供給が霞むな』
『2日でこれは本物のバトルジャンキーじゃん』
『姉ヤバない?』
『ファクトリーとパレス取れてる時点でこれは』
『バトルシンボルじゃらじゃらさせとるわ……』
『マルチ!』
『双子VS双子は激熱』
『エチチチチボッ』
『どっちもエチチチチだけどお前は燃えろ』
『1週間で……』
『参考:シンオウ→ホウエン 3時間30分、ホウエン→イッシュ 12時間、イッシュ→シンオウ 12時間』
『スーパー弾丸スケジュールじゃん!』
『トロフィーってことはスーパーマルチですね』
『はえー』
『すごすぎて理解が追い付かんわ』
『「ねぇこれほんとに技出して大丈夫!?」』
『脳内ボイス再生楽勝』
『お姉ちゃんのハート強すぎる』
『「ブラストバーン」』
『草』
『車内でブラストバーンはちょっと』
『アチチチチ』
『サブウェイマスターな』
『フロンティアから抜け出せてない』
『前情報なしで突っ込んだのか』
『サブウェイマスターって何か不気味だよな』
『似すぎてておっかねぇ』
『ノボクダはいいぞ』
『イケメンだから女性人気は高い模様』
『双子ちゃん似てるの解釈一致なんですが』
『はー双子に挟まれてしにてぇー!』
『限界オタクくん生きて』
『認知されてて草』
『たぶん1日でスーパーマルチ突破されたら印象に残ると思う』
『双子目立ちそうだしな』
『アッ(絶命)』
『ふざけんな双子もっとイチャイチャしろ』
『てぇてぇ』
『姉の貴重なボイス素材がまた増えた』
『ガチ恋警察も絶命してて出動してないのわろた』
『d=(^o^)=b』
『公式が大手』
「ボボボボス!!!」
「なにクラウド、ぼく今忙しい」
息を切らして走って来た鉄道員を一瞥し、なおも歩き続けるクダリを必死の形相のクラウドは腕を掴み立ち止まらせる。
「最近ごっつ強い双子来へんかった?」
「来たよ! ものすごく強かった! でもすぐ帰っちゃった」
「……スゥ」
「ぼくノボリ呼びに行かなくちゃ」
クラウドがなぜか両手で胸を抑えたため、解放されたクダリは本来の目的地であるノボリのもとへ向かう。
強い双子。スーパーマルチトレインに乗車し、歴代最速のペースで彼らは敵を薙ぎ倒し自分たちに勝利した。あのバトルを思い出すだけで元々上がっている口角がさらに吊り上げる。それは自分の片割れも同じようで、今朝もノボリがあの時のバトルビデオを繰り返し見ていたのを思い出す。
「ノボリ、そろそろ」
『挨拶されたからこっちも名乗ろうか?』
『いやお姉さん空気読んで。もう始まるからバトル』
『あーほんとだ』
『ハイハイポケモン出してね』
『ドラピオン』
『レッツゴームクホーク!』
『バシャーモ、ブラストバーン』
『バシャーモ、ブラストバーン』
『バシャーモ、ブラストバーン』
「ノボリ、同じところばっかり見てる」
「クダリ! いつからそこに」
「さっき来たばっかり。スーパーシングルトレイン、挑戦者来てる。急いで」
「分かりました」
バトルレコーダーをいそいそと懐にしまい、ノボリは帽子を被り直す。挑戦者がやって来ているというのに、先ほどまで見ていた彼ら、特に彼女の姿が、声が頭から離れない。
確かに先日のバトルは血が沸き肉踊る素晴らしいものだった。だが思い出すのは彼女の己を突き刺すような鋭い眼差しやよく通る綺麗な声ばかりで。あの日以来彼女のことが頭から離れない。
『サブウェイも楽しかったね。時間に余裕なくてマルチしか行けなかったけど』
このとおり幻聴まで聞こえる始末。サブウェイマスターとして挑戦者に真摯に向き合わねばならない。深呼吸をして、スーパーシングルトレインへと早足で向かった。
「職場が聖地になってもうた……」
軽快なトークが繰り広げられている動画をスマホで見つつ、クラウドは職員通路で一人くずおれていた。
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