放課後、いつものように生徒会室の扉を開ける。
「あっおっ大谷先輩っ!おはようございますっ!」
箒を持ちながら頭を下げるこの女は左近と同じく生徒会に雑用として入った1つ下のお嬢。
「ぬし一人か」
「えっと…皆が来る前に掃除しとこうかと思いまして」
「左様か」
いつもの事。
皆が生徒会室に揃うまでの十数分の間、二人だけになる。
特に何かを話すわけでもないこの時間。
しかし、この時間は案外嫌いではない。
いつもの机へ向かい、昨日持ち帰った資料を鞄から取り出す。
視線を上げると、お嬢と目が合うが彼女は直ぐ様目をそらし掃除の続きを始めた。
いつものこと。
われはお嬢に相当嫌われておるようよなぁ。
ただ、普段と異なるのはお嬢の視線がいつも以上に自分に向けられている事。
何かと訪ねようとした時、生徒会室の扉が開いて三成が現れた。
「刑部、左近はまだか」
「…まだよ」
「左近め…」
確かに何時もならばこの二人の時間を壊すのは左近の役目であった。
時計を見るといつもの時間より30分以上過ぎている。
「ちょ、ちょっと!三成様!」
廊下から左近の声と走る音が聞こえる。
「左近!何をしている!」
三成は眉間にシワを寄せながら廊下に居る左近へ怒りを向けていると、
「三成、ちょーっといいかなぁ」
箒を片手に腕を組んでひきつった笑顔をしたお嬢が三成の後ろに立っていた。
「なんだ」
「いいから」
お嬢は三成の腕を掴んで、左近の居る廊下へと連れ出す。
あの様に機嫌の悪い三成に、少しも臆せず絡んでゆく女子などお嬢以外におらぬ。
そんな事を考えながら仕事の続きを始めようと資料に目を落とすが頭に入らない。
腹の奥で黒くもやもやする感覚がした。
それを無視して机の上に乗せた鞄からノートを取り出そうとする。
その際、近くにあった紙袋が倒れ、袋の口から中身が顔を覗かせていた。
桃色の包装紙に赤いリボンを綺麗に巻いた包。
それを紙袋に戻そうと手を伸ばした時
「ちょっ、まっ、ストップ!」
お嬢が慌てた様子で入り口から走って来て、その紙袋を引ったくるように取り上げた。
其程まで我に触れられたくないのか。
どろりとした感情を潰す様に包帯だらけの手を握りしめる。
「み、見ました?見ましたよね!?」
「あぁ」
ひゃぁぁと妙な声を出しながらうずくまるお嬢。
意味が解らず眉を寄せながらお嬢に問う。
「それはなんだ?」
「こっこれはその……チョコで…えっと…三成に…」
あぁと思い出す。
今日は2月14日だと。
お嬢は三成に渡すそれを大事に守っていたのか。
どろり
どろり
どす黒い感情が体を蝕んでいく。
この感情の正体はわかる。
イラついているのを悟られぬよう、それには興味なさげに取り出したノートをパラパラとめくる。
「その、それで…大谷先輩っ!」
顔はノートに向けながら目だけを声の方へ向けると、紙袋から包みを取りだし、自分の目の前へ差し出しているお嬢がいた。
「…は?」
「あの、初めて作ったんで味の保証はないんですけど…その、三成に大谷先輩は甘いものが苦手って聞いて甘さは控えめにして…それで……これ…受け取ってくれませんか?」
「…われに…か?」
こくこくと頷くお嬢の顔は耳まで真っ赤で、いつもと同じ怯えるような目は憎悪ではなく、本当は恥じらいだったのかと今更気付く。
さっきまでのどす黒い感情の代わりに、今度はむずむずとくすぐったいようなぬくいものが体を満たす。
桃色の包を受け取ると、真っ赤な顔をあげたお嬢の潤んだ瞳と視線が交ざる。
安心したようにふにゃりと笑うお嬢の顔を初めて見た。
どくんと心臓が跳ね、再び恋に落ちる気がした。
いや、わからなんだ。こういう結果になろうとは。
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