特別な日常


春の陽射しがぽかぽかと体を暖めていくのを感じながら、縁側に座ってぼんやりと庭を見ていた。

お昼ご飯もお腹いっぱい食べたし。
すると次に現れるのは眠気なわけで…

口元を隠さず、ふわぁと声を漏らしながら大きなあくびをすると、目元にうっすらと涙が浮かぶ。
目元を緩く擦りながら後ろを向くと、この部屋の主である刑部と目が合った。

「眠たい…」

そうぽつりと呟けば、刑部は読んでいた書物を机に置き、こちらにむかって座り直した。
それを見て、はぱたぱたと縁側から刑部の元へと移動する。
ごろりと寝転がる先は刑部の膝の上。
それを避けるわけでもなく、手馴れた仕草で、部屋の壁に掛けられた朱色の羽織をふわりと浮かせて運び、私の体に掛けてくれた。
刑部の香りに包まれて落ち着くのを感じ、自然と笑みが零れる。

「何故笑っておる?」

「ふふ…私の昼寝の準備に刑部も随分手馴れてきたなって思って」

それを聞いた刑部は一瞬きょとんとした顔をした後、ヒヒッっと声をあげて笑い出した。

「ぬしの小姓として優秀であろう?」

楽しそうにそう返事を返す刑部の笑顔を下から見上げながらしみじみと思った事を伝える。

「刑部って笑うと格好良さ増すよね」

笑っていた顔が固まり、代わりに目が見開かれた。

「その様な事を言うのはお嬢ぐらいのものよ」

「えー、皆思ってると思うんだけど。普段が怖くて近寄りづらいから言わないだけでさぁ」

「左様か」

「左様、左様。てか皆素顔知らないってのもあるか。勿体ないなぁ。」

そう言いながら手を伸ばして刑部の頬を緩く撫でた。

「あっでもちょっと特別感あるよね。私だけって優越感?」

頬を撫でていた手を包帯を巻いた手で掴まれ、下に降ろされた。
その代わりに、私の頭を大きな暖かい手で優しく撫でてくれる。

「なら、ぬしの優越感とやらを守るため、われはお嬢の前以外では素顔を隠すとしよ」

その言葉に胸がくすぐったくなる感覚がする。

さらさらと髪を梳く感覚が心地よくて、目を瞑って微睡んでいく幸せを感じた。







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