鈍感


時計をチラチラと確認しながら自転車置き場へとゆっくりと移動して行く。
私自身は徒歩通学なので、自転車はここに無い。
ならば何故、自転車置き場へと向かっているのか。
その理由である人が校舎の角を曲がってこちらに向かって来ているのが見えた。

「あれ、お嬢先輩?」

「お、退。偶然!」

「またですか?」

何度目になるかわからない偶然を装い、退が自転車置き場までやって来るのを待った。
私がここに来る理由。

「またってなによ。私が帰る時間にここに来る退が悪い」

はいはいと私の言葉を適当に流しながら自転車を取り出す退。

「あれ、自転車変わった?」

「前のやつはお嬢先輩が後ろに乗って来るんで壊れたんですよ」

そう言われてドキリとする。
思わず「ごめん…」と小さく謝れば、「嘘ですけど」とこちらを見ずにサドルに跨りながら返された。

人が謝ったのに…このやろう。

その想いを込めて後ろの荷台へドスンと乗ってやる。

「ちょっ、本当に壊れますよ」

「私に嘘をつくからよ。さぁずべこべ言わずに出発!」

いつも通りはいはいと返事を返しながら校門をくぐっていった。






「お嬢先輩はどうしてよくあんな時間まで学校にいるんですか?先輩って帰宅部ですよね?」

まさか、退の事を待っていただなんて口が裂けても言えないわけで…何て言い訳をしようかと流れる景色を横目に考える。

「ひょっとして誰か待って…」

「はっ?違うし!たまたまだよ!教室でクラスの子と話してただけだし!」

私の気持ちを読まれた気がして、慌てて否定の言葉を並べた。
本当は1人教室で時間を潰していただけなのに。

「そうなんですか。てかそんな事してないで早く帰ればいいのに。あんまり遅い時間に1人で帰るなんて危ないですよ」

「…退の自転車に乗せてもらうからいいもん」

「いや、お嬢先輩の家って俺の家とほとんど反対方向なんですよ。俺の帰宅時間が遅く…」

「いいじゃない、別に。…私と少しでも一緒にいられるの嬉しいでしょ?」

挑発と少しの期待を込めて、冗談ぽくそう言ってみた。
しかし、退からの返事は無く、少しそわそわといたたまれなくなる。
何か言おうと口を開いた時。

キッ

いきなり退が急ブレーキをかけたのだ。
そのおかげで顔面が退の背中にぶつかり鼻が痛む。

「ちょ…痛い…!鼻折れた……止まる時はゆっくり止まってよね!」

「こんな程度で鼻なんか折れませんよ。それに、ちゃんと掴まっていないお嬢先輩が悪いです」

少しムッとして、退に仕返ししてやろうと思いついた。

退の細いが意外としっかりした腰に手を伸ばして思い切り抱きつく。
背中に顔を押し付けると、服越しでも退の体温を感じることが出来た。

これくらいすれば退は私の事を意識してくれるだろうか。
様子を伺いたくても後ろを向いている退の表情を伺うことは出来ないし、心音を聞こうと耳をくっつけるも、どくどくと自身の音がうるさくてそれすらも解らない。

この気持ちを自分ばかり感じているのかと思うとくやしいが、初めてのこの感触にまぁいいかとにやける顔をぐりぐりと押し付けてやった。


こんなにも想っているのに。
あなたは私の事など何とも想っていないんでしょうね。





…知られたくないけど気づいて欲しいの。気付けよ、ばか。








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