鈍感【山崎side】


部活を終えて、自転車置き場へと向かう。

別に帰宅を急いでいる訳でも特に約束がある訳では無い。

しかしそこへ向かう足取りが自然と早くなっている理由はある。


はぁ。と一呼吸おいて校舎の角を曲がる。
すると自転車置き場にその理由がいた。

「あれ、お嬢先輩?」

わざとらしかっただろうか?
あたかも偶然出会ったかのように彼女に声をかけると、お嬢先輩は俺の方に気付いて笑顔で返事を返してくれた。

「お、退。偶然!」

「またですか?」

今日も会えた。
それが嬉しくて顔が綻んでしまう。
それを誤魔化す為にわざと悪態をつくと、先輩は口を尖らせながら文句を言っているがその姿すら可愛く思えるから自分自身でも重症だなぁと思う。


「あれ、自転車変った?」

自転車置き場から自転車を取り出すと、先輩が小首をかしげながら言ったセリフにドキリとする。

自転車を買い換えた理由が、荷台が錆び付いてきたし、お嬢先輩が乗りやすいように。
だったから。

そんな事は言えないので、「先輩が乗るから壊れた」とか何とか適当に言うと、先輩はしょぼんとしながら謝ってきた。
内心慌てながらも、悟られないように「嘘ですけど」と素っ気なく言えば、先輩はムッとしながら荷台へと勢いよく乗ってきた。
これではまた壊れてしまう。
まぁその時はまた買い直すまでだが…

「出発!」

お嬢先輩の楽しそうな声を背中で受けながら、地面を蹴って進んだ。





「お嬢先輩はどうしてよくあんな時間まで学校にいるんですか?」

学校が見えなくなった頃、ふと普段から気になっていた事を聞いてみた。
彼女は帰宅部だし、委員会の仕事も無いはずだ。
なのに何度もこう一緒に帰るタイミングがあるのは何故だろうか。

もしかしたら…俺を待っていてくれたりして…

自惚れだとは解っているが、少しの期待を込めて聞いてみる。

「ひょっとして誰か待って…」

「はっ?違うし!たまたまだよ!教室でクラスの子と話してただけだし!」

お嬢先輩の物凄い勢いの否定で、俺の僅かながらの期待は見事に打ち砕かれた。

「…そんな事してないで早く帰ればいいのに」

ついそんな事を言ってしまった。

「…退の自転車に乗せてもらうからいいもん」

…この人は…

「いや、お嬢先輩の家って俺の家とほとんど反対方向なんですよ。俺の帰宅時間が遅く…」

「いいじゃない、別に。…私と少しでも一緒にいられるの嬉しいでしょ?」

自分の心を見透かされていたようでドキリとした。

お嬢先輩は一体どういうつもりでその言葉を言ったのだろうか。
お嬢先輩は俺の気持ち等きっとわかっていないのだろうな。

そう思うと悔しさがこみ上げてくる。

ささやかな反抗のつもりで、急ブレーキをかけてやったら、先輩は勢いよく俺にぶつかってきた。ザマアミロ。
その時に背中に押し当てられた柔らかい感触はラッキーに思っておく。

「ちゃんと捕まっておかないお嬢先輩が悪いです」

自分のやった事を棚に上げて言ってやった。
すると、痛い、鼻が折れたとぶつくさ文句を言っていた先輩が急に黙ったかと思えば、俺の腰に手を回してぎゅうっと抱きついて来た。
危うく自転車毎倒れそうになるのを防ぎながら、落ち着いて状況を把握しようとする。
後ろに乗るお嬢先輩の表情を伺いたいが、如何せんがっしりと抱きつかれている上に自転車の運転中だ。

益々彼女の真意がわからない。

彼女は俺をからかっているだけなのだろうか。

ならばと息を吸い込み、大きな声をあげた。

「あのさぁ。お嬢先輩…先輩は俺の事どう思ってるのか知らないですけど…」

背中にぐりぐりと先輩の熱を感じる。

「俺、お嬢先輩の事…好きですよ」

先程までの彼女の動きがピタリと止まったのがわかった。

本当、ここまで言わなければ解らないだなんて。
お嬢先輩は本当鈍感で困るよ。







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