待つほど好きな人


なかなか終わらないテキストの問題集を睨みつけて早1時間。
集中力もすっかり途切れてしまい、目の前に座って雑誌をパラパラと眺めている退さんに助けを求める。

「全然わかんない!退さん、教えてくださいー…」

机に顎を乗せ、すっかり降参したポーズの私を見て、退さんは雑誌を閉じて笑顔を浮べた。

「どれ?…………うん。解んないや」

テキストを手に取ってすぐに、退さんから笑顔が消えた。
代わりに眉間に皺が現れてしまった。

「先輩ー、しっかりしてくださいよー」

「いやー、昔はちゃんと解けてたハズなんだけどね。さすがにもう忘れちゃったよ」

「忘れちゃったって…そんな何十年も前じゃないんですから、少しは覚えてますよね?」

「まあ、そんな何十年っていうのじゃないけど…普段あまり使わない、15年以上前の勉強とか覚えてないよ」

そう言われてパタリと笑顔が凍った。

「え…いや、ちょっと待ってください。数年前じゃなくて…?」

「え、うん。そうだけど」

キョトンとした退さんの表情と反対に私の表情は驚きに満たされていたと思う。

「ちょ、ちょっとお聞きしたいんですが…退さんって何歳でしょうか…?」

「あれ、言ってなかったっけ?32歳だよ」

「さ、さ…32!?ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!冗談じゃなくて!?」

至極当然といったようにこくりと頷く彼を穴が開くほど凝視する。
時折見せる意外な大人っぽさにより、さすがに自分と同い年とは思ってはいなかったが、せいぜい3歳程上…多めに見積もっても20代前半にしか見えない。
それが30代だったとは。
童顔にしても程がある。

「さ、詐欺ですか?」

「いや、どういう意味だよ」

笑っているのは彼だけで、私はまだ余裕がない。

「……退さんはロリコンですか」

その言葉に彼はさすがに咳き込んだ。
むせる息を整えてから慌てたように弁解を述べる。

「いやいやいやいや。違うって!何でそうなるの!」

「私17ですよ。15歳も年下相手にするなんてロリコンじゃないですか。知らなかったです」

「違うって!俺は年下が好きっていうんじゃなくて、お嬢ちゃんが好きなだけなの!お嬢ちゃんがたまたま俺の15歳年下だったってだけだから!勘違いしないでよ」

不服そうに口を尖らせながら話す彼。
それを聞いて、私は全身の熱が上がった。
普段はヘタレなくせに、ふとした時にこんな事を言ってくる。彼はズルい。

「で、でも、そんな大人が未成年と付き合うのって違法とかじゃないんですか。捕まりますよ」

先程の言葉が嬉しかったのを誤魔化すように、わざと言ってみた。
彼より優位にたちたかった。
それなのに。

「大丈夫。違法じゃないから」

「何でですか?」

少し戸惑う私の目を見ながら、彼はいつものように手を伸ばして私の頬をするりと撫でた。

「遊びじゃなくて、真剣なお付き合いだから」

そう言って笑う彼はとても大人に見えた。











「結婚式はどこでする?新婚旅行は海外かなー。あ、子供は何人くらい欲しい?」

「もー!黙っててください!今勉強してるんですから!集中出来ません!」

「お嬢ちゃん顔赤いよー」

「通報しますよ!」








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