校門までの道のりをずんずんと進む女子高生が一人。
その女子高生を慌てて追いかけるジャージ姿の男子高校生が一人。
「待ってくだされ!お嬢殿!」
「嫌です!さっさとお館様のところに行けばいいでしょ!」
お嬢は幸村の制止を無視してどんどん校舎から離れて行く。
「怒ったお嬢殿を放ってはおけぬ」
その言葉を聞いてお嬢は幸村の方へ振り返り、怒りを隠さずに怒鳴る。
「怒らせたのは幸村でしょ!今日は一緒に帰ろうって…遊びに行こうって前から約束してたよね?なのに急に部活が入ったって…私がどれだけ楽しみにしてたかわかってる?!」
「ぐ…申し訳ございませぬ。…しかし、試合が再来週に控えている今、グランドが使える時は少しでも練習をしたいのでござる!」
幸村は叱られた犬のようにしゅんとした後、お嬢の目を真っ直ぐ見て弁解を述べる。
他校との試合を控えた今、少しでも練習がしたいという幸村の気持ちはわからないでもないが、ずっと前から今日を楽しみにしていたお嬢の怒りはおさまらない。
「だからって何も今日じゃなくても………もういい!さっさと部活行きなよ!どうせ私より部活やお館様の方が大事なんでしょ!」
それを言われた幸村は両手をぶんぶんと大きく振りながら慌てて再び弁解を述べる。
「そんなっ、お館様とお嬢殿を比べるなど…っ!それがしはお二方共大事で…」
「……じゃあちゅーして」
振り回していた幸村の手がピタリと止まる。
それと同時に幸村の顔がみるみる間に真っ赤に染まっていく。
「なっ!なななななっ!ちっ!?…なっ!?」
先程とは違う意味で慌てふためく幸村をお嬢はまっすぐ見据える。
その言葉は決して冗談なんかじゃないと目が語っていた。
「だ、だが…」
いくら付き合っている二人とはいえ、超が付くほどの奥手である幸村にそんなことはできない。
そんな事はわかっているが、どうしても幸村を困らせてやりたかったのだ。
でも…解っていたが、本当に拒否されるのは心が痛かった。
「……ごめん。もういい」
泣きそうになる顔を見られたくなくて後ろを向いて再び校門へ向かおうとした時、ぐいと腕を引っ張られ、その反動で幸村の方に向き直る。
「お嬢殿っ!」
急に大声で名前を呼ばれ、何かと返そうとした時、勢いよくお嬢の唇に幸村の唇が重なり、直ぐ様離れる。
それはキスというよりもぶつかったような、とても不器用なものだった。
「えっ…幸村…?」
一瞬の出来事、まさかの出来事で、お嬢は一体何が起こったのか理解できないでいた。
そして、さらにパニック状態の頭に追い討ちをかけるように強く抱き締められた。
「え、ちょ、幸村?!どうしたの!?」
「それがしはっ…お館様もお嬢殿も大事にござる。しかし…お嬢殿に嫌われたらそれがしは……俺は…お嬢を…放したくない」
どくんどくんと心臓の音がうるさい。
これはお嬢の音か、幸村の音か、二人の音か。
初めて幸村の気持ちを聞けたこと、初めて抱き締められたこと、初めてキスをしたこと。
付き合って一年の記念日を忘れていたこと、その約束をすっぽかそうとしたこと。
仕方ないからこれでチャラにしてやろう。
幸村が我にかえって破廉恥と叫び出すまで幸村の匂いに包まれていようと思った。
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