朝まで二人で


ベッドに潜り、しゅんと落ち込んでいるお嬢を見て、阿伏兎は盛大にしかめられた表情を覆うように自身の額に手を当てて大きくため息を吐いた。

「ごめなさい…」

「ったく…俺が気付いたから良かったものの…」

お嬢の部屋を尋ねた阿伏兎が、いくら呼んでも返事が無いことに疑問を抱いて部屋へと入ったところ、風呂場で倒れているお嬢を見つけたのがほんの数十分前の事だ。
しかも倒れた理由が先週からダイエットとして食事量を極端に減らし、そのまま長湯をした事によるものらしいのだ。

「で、お前さんはなんでそんなムチャなダイエットなんかしてんだ?必要ねぇだろ」

一般的な女性と比べ、特に太っている印象も無いのにとお嬢の一糸まとわぬ姿を思い出して阿伏兎は余計に首をひねる。
まあ、女の美に対する追求というやつなのか。自分には理解出来ない。

「だって…前に阿伏兎さんが私のお腹触りながら太ってるって……」

そう言ってお嬢は口を尖らせた。
しかし、それを聞いて記憶を手繰るが、阿伏兎自身そんな事を言った覚えは全く無い。

「はぁ?んなこたぁ言ったことねぇよ」

「言いました。柔らかいとかなんとか言いながら、摘んだり揉んだりして……」

そう言われて、先月あたりのベッドの上でのやり取りをうっすらと思い出した。

「あ…?…あー…それはそう意味じゃなくてよぉ」

「だから私、痩せようと思って。3キロ痩せるまでは阿伏兎さんとしないって決めて…」

「だからお前さん、ずっと俺の誘いを断ってたのか!?」

こくんと小さく頷いたお嬢を見て、ここ最近の悩みの原因がやっと解った阿伏兎は眉間を抑えて脱力した。

「はぁー……俺はてっきり嫌われたのかと思ってたんだが」

「きらっ!?そ、そんなわけ無いじゃないですか!私は早く阿伏兎さんとしたくて必死に頑張って…」

「んー?ちょっと待て。俺と早くナニしたいって?」

呆れた表情から、いつものニヤリとした余裕を感じる笑顔に変わり、すかさず揚げ足を取る阿伏兎にお嬢はしまったと口を閉ざすが聞かれてしまってはもう遅い。
いや、えっと、ともごもごと誤魔化そうとして口を動かすが、もちろん納得させられるような言葉は何も出てこない。
その間も彼はにやにやと口角をあげてお嬢をじいっと見つめてくる。

「ぶっ倒れるまでダイエットするくらい俺に抱かれたくて必死だったって事か」

「そっ、そういうんじゃ…」

あながち間違ってもいないその言葉に反論できず、余計に口ごもってしまう。
こんなの正解だと言っているようなものだ。
恥ずかしさを少しでも隠すように握った布団を引き上げ口元を隠した。

「ははっ…悪りぃ。あんまりいじめるもんじゃねぇな。元はと言えば俺の言い方が悪かったんだ。すまねぇ、お嬢」

ニヤついていた表情をスっと戻すと、そう謝ってお嬢の頭に手を置いて撫でた。
そのいつものあたたかい感覚にふわりと心が浮く。

「言い方を変えるとだな。あんたの身体は白くて綺麗で柔らかくて、そんな身体が俺の手に反応して変わるのが良くてついずっと触っていたくなるし、気持ちよくさせて、鳴かせて、よが…」

「わー待って待って!わ、わかりました!わかりましたから!」

阿伏兎の言おうとしている事を察知し、お嬢は慌ててそれを遮った。
それでも言おうとした事を理解してしまっているから全身の体温が上がる。
阿伏兎はそれをわかっていながら、そうか?と揶揄うように笑った。

「ならもう無茶なダイエットなんかすんじゃねぇぞ。とりあえず何か持ってきてやるから食え」

そう言って阿伏兎はベッドから立ち上がり、扉の方へと歩いて行く。

「そんで食ったならその分動けばいい。運動なら俺も手伝ってやる」

「いろいろとありがとうございます。でも、阿伏兎さんのトレーニングはちょっと私には難しいかもしれないですね」

気遣いが嬉しくて、後で阿伏兎に教わりながらも一緒にトレーニングする様を想像して少し照れ笑いを浮かべた。

「なに、お前さんに合わせてやるよ。何時間でもな。食った分のカロリーを消費させるんだろ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「朝までたっぷり時間はあるしな。なんなら明日休んでもいい」

そういう阿伏兎の言葉の意味がわからず、夜通し?と不思議そうに首を傾げた。

「あんたも俺も久しぶりの運動だ。ゆっくり楽しもうや」

そう言って振り返った阿伏兎はお嬢がよく知っている雄の笑顔をしていた。
それを見て反射的に背筋がゾクゾクと震え、お嬢の女の部分がきゅんと鳴く。

「さーて。高カロリーのものでも持ってくるかねぇ」

そう笑いながら部屋を出ていく阿伏兎の背中に向けて「程々で!程々でお願いします!」と声を張り上げたお嬢だが、さて彼はどれだけ自分の願いを聞いてくれるのかと不安と期待が入り交じった感情で彼を待つこととなった。






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