文化祭まであと2週間をきった今日。
放課後の校舎では普段よりも沢山の生徒が文化祭にむけて居残りをしていた。
演劇部の私たちも最大の見せ場である文化祭にむけて、出来上がったばかりの衣装を着ながら稽古の真っ最中だ。
と言っても、1年生である私に大きな役があるわけではなく、町娘B程度のものだが。
しかし、それでも衣装に袖を通すと、まるでヒロインにでもなったかのように気分が高揚した。
「ちょっと休憩にしようか」
部長の一声で部員の緊張感がふっと和らぐ。
気がつけば窓の外は日が落ちて暗闇が広がっていた。
水分補給や雑談、教室を出て行く者等それぞれが好きな時間を過ごす中、教室の扉が開いて見知った人物が現れた。
銀色の髪にすらりと伸びた背、鋭い眼差しが印象的なイケメン、3年生の石田三成先輩だった。
演劇部の部員ではない彼がこの教室にやって来るのには理由があった。
今回の劇の脚本を執筆した、同じく3年生の大谷吉継先輩を迎えに来たのだ。
ほぼ毎日のようにやって来る彼に会うのが、ここ最近の私の楽しみだったりする。
あのルックスで頭脳明晰、運動神経もいい彼は学校内でも有名で好意を寄せる女子も少なくは無い。
しかし、不機嫌そうな表情に歯に布着せぬキツい言動が多いため、あまり近づく者も居ないのが現状である。
何を隠そう、私も例にも漏れず憧れてはいたが、話しかけ辛い印象から遠巻きに見ているだけだった。
つい先日までは。
「おい、お嬢。まだ終わらんのか」
「石田先輩、お疲れ様です。今日はまだですね。今、休憩入ったとこですからもう少し練習するみたいですよ」
そうかと呟いて私の隣で壁にもたれる。
接点の無かった私達がこうして話ができるようになったのはつい最近の事で、たまたま大谷先輩や石田先輩と帰る方向が一緒で、話してみると石田先輩は意外と話しやすく、世間話をする程度には仲良くなれた。
それだけでも演劇部に入って良かったと思えた程嬉しい進歩だ。
「これはどういった話だ」
パラパラと私の台本を眺めながら石田先輩が私に話しかけてくる。
ただそれだけなのに嬉しくてドキドキと鼓動が僅かに早まる。
「えっと…恋愛ものですね。ざっくり言うと、町娘に恋をした王子が身分の差を乗り越えて結婚する話です」
石田先輩は興味無さげにパラパラとページをめくり続ける。
「結構いい話なんですよ。ほら、ここ。王子が告白するシーンなんて本当すごい素敵なんですよ。大谷先輩って怖い印象だったんですけど、こんないい話を考えるなんて凄い人なんですね!」
指で示したページを読みながら石田先輩がふんと声をもらす。
「このようなものがいいのか?」
台本から視線を上げて、解らないといった表情で問いかけてくる。
「そうですね、やっぱり女の子はこういう王子様に憧れるんじゃないですか?」
「…貴様もか?」
そう言われて、教室の真ん中で休憩している王子役の部員の衣装を眺める。
白を基調としたスーツに白いマント。
それをさらりと着こなして白馬に乗り、優しい笑顔を浮かべる石田先輩を想像する。
うん、これはヤバい。
「そうですね。そんな王子様に告白なんかされたらイチコロですね」
そう冗談ぽく返すと、石田先輩はそうかと呟き、少し悩んだ表情を浮かべた。
何だろうと思っていると、石田先輩はぐるりと辺りを見回し、つかつかと王子役の部員のところへ向かって行った。
何か言葉を交わした後、その部員から衣装のマントを受け取り、ふわりと身に付けた。
石田先輩は堂々とした態度で、足下近くまである長さの真っ白なマントをひらりとはためかせながらこちらに向かって歩いてくる。
マントの下はワイシャツに学ランのスボンと、いつもと変わらぬ制服姿だが、その姿は十分王子様に見える。
そのまま私の目の前までやって来た石田先輩が跪く。
数分前はがやがやと賑やかだった教室はしんと静まり返り、誰もが固唾を飲んで石田先輩に…いや、私達に目を奪われていた。
そんな事は気にも止めず、石田先輩は右手を伸ばし唖然とする私の手を取ったかと思うと、その手の甲にひとつ口付けを落とした。
驚いて石田先輩を見ると、金色の綺麗な瞳が射抜くように私を見ていた。
「お嬢、私だけの姫になれ。一生私の傍に居ろ。拒否は認めない」
こんな威圧的な王子様見たこと無い。
これは本気か冗談か。
想像していた王子様とは違っていたが、何にせよ私には肯定の意を示す以外に選択肢はなかった。
短編トップ
小説トップ
トップページ