暑い夏が終わり、最近は半袖を着た生徒が数える程しか居なくなった。
屋上のフェンスにもたれて下校して行く生徒達をなんとなく見下ろしていた。
「お嬢ちゃーん」
私を呼ぶ声が聞こえて振り向く。
屋上の出入り口であるドアの前には、その声の主である勲君が私に向かってぶんぶんと大きく手を振っていた。
それにつられて私も笑顔で手を振り返す。
すると、それを見た勲君が嬉しそうにこちらへと小走りでやってきた。
「んもー、聞いてよ!お妙さんったらさぁ…」
口を尖らせながら、いつものようにお妙ちゃんの愚痴をこぼす勲君。
ゴリラの様な顔をしながらそんな表情をするなんて。
きっとお妙ちゃんや神楽ちゃん等、周りの女子が見ればキモイと騒ぐのだろう。
私にしてみればこれ程までに愛おしいのに。
「でね、そしたらその時お妙さんがさぁ……なぁ、お嬢ちゃん聞いてる?」
「えっ、あ、うん!聞いてる聞いてる!相変わらず勲君はお妙ちゃんにフラレっぱなしだなぁとしみじみ思ってたの」
「ひでぇなぁ。まあ正しくその通りなんだけどな」
勲君は頭をガシガシとかきながら豪快に笑った。
お妙ちゃんはどうしてこれ程までに勲君のことを嫌うのだろうか?
私にはわからない。
「そういうお嬢ちゃんの方はどうなんだ、好きなヤツとは上手くいってるのか?」
そう無邪気に聞いてくる彼とはいろいろあって片想い同盟を組んでいるのだ。
「上手くいってたらここに来たりしないよ。今日も相変わらず、あの人は好きな子に夢中で私に気付きもしないよ」
こうして放課後に屋上に集まって片想いの相手について語ったり愚痴ったり慰め合ったりする。
それが私達が組んだ片想い同盟である。
もちろん勲君の片想いの相手はお妙ちゃんで、私の片想いの相手は勲君である。秘密だけど。
好きな人の想い人の話を聞くなんて本当は悲しい。
でも、クラスも離れている私達が共に過ごす事なんてこの時ぐらいしかない。
だから、切なさを我慢してでも勲君と過ごすこのひと時が嬉しい。
「そいつ、お嬢ちゃんに気付かないなんて本当馬鹿だな」
それ、ブーメランだよ。
その言葉を心の奥に閉まって曖昧に笑う。
「でも私さぁ、そろそろその人の事諦めようかなぁって思ってさ」
そう言えば勲君は目を見開いて私を見た。
「えっ諦めるってどうして!?」
「ちょっと片想いに疲れちゃったって感じかな、だから片想い同盟は破棄ね。あっ、でも勲君の話はちゃんとこれからも聞くよ」
「で、でもそんな、俺だけだなんて」
「そんな事気にしないでよ。私がいいって言ってんだしさ。いつでも話聞くよ」
この恋を諦めれば勲君の口からお妙ちゃんの話を聞いても心が痛くならないだろう。
心から応援が出来るだろう。
きっと。
「……じゃあ、何か俺が出来る事はないか?」
自分だけというのが心苦しいのか勲君が私にそう聞いてきた。
あなたの心が欲しい。
そんな事言えるはずはない。
だから。
「そうだなぁ…じゃあ誰かいい人紹介してよ」
あなたへの想いを忘れさせて欲しい。
冗談ぽくそう言うと、勲君は下を向いて何かを考え始めたようだった。
そしてやっと開いた彼の口からは信じられない言葉が飛び出してきた。
「俺……とかは…?」
「…は?」
意味が解らずぽかんと勲君を見つめる。
「俺とかオススメなんだけど…どうかな?」
「いや、意味わかんないんだけど。何で勲君?」
困惑しながらもドキドキとうるさい鼓動を落ち着けようと深く息を吸い、溜め息を吐く。
「こんなゴリラだけどさ。俺ならお嬢ちゃんを大事にするよ」
夢にまで見たその言葉に心臓が締め付けられる。
でもそんな事を言う彼の真意がわからない。
「……何言ってんの。勲君はお妙ちゃんが好きなんでしょ。私、もう片想いは…」
「だからだ」
「はぁ?」
思いっきり顔をしかめて勲君を見ると、真面目な顔をした彼と目が合う。
「例えば、俺がお妙さんの事を相談するのはお嬢ちゃんと一緒に居るための口実だったとしたら?」
どういう事?
「例えば、お嬢ちゃんが好きな奴の話をする度、嫉妬でどうにかなりそうになっていたとしたら?」
それは真実なのか。
私と同じ事を勲君も感じていたと言うのか。
「お嬢ちゃんの話を聞くたび、誰かも知らないそいつがお嬢ちゃんに気づかなければいいと願っていたし、そいつを諦めるって聞いた時は嬉しかった。…そんなズルイヤツだけどさ…俺とか…どうかなって」
少し眉を下げてこちらを伺ってくる勲君を見つめ、ふふっと笑って口を開く。
「それじゃあ…私はまだ彼の事を諦める訳にはいかないようね」
それを聞いた勲君が目に見えて落ち込んでいってしまった。
そんな彼に近付き耳元で囁く。
「ずっと話していた、私の好きな人の名前はね…」
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