ざらつく甘さ
付き合ってからするセックスは経験がある。だが色々ある、セックスをするための過程をすっ飛ばしセックスだけをする、というのははじめてだ。どう進めばいいのか正直分からない。
そんな俺の戸惑いに気が付いたのか、犬塚は口角を上げて笑い、俺の頬に手を添えた。
「まずは、キスから……だろ?」
目を瞑った犬塚の顔が近くに来る。睫毛がそんなに長くもないがくるりとカールしていてかわいい。俺も目を閉じて犬塚に顔を寄せた。
ふに、ふに、という触れ合うだけのキスから、チュ、と吸い付くようなキス。
男の唇も、女の唇と同じだった。犬塚の唇は、ほんの少し下唇が薄くて、でも柔らかで、気持ちいい。
そして、深く互いを探るような舌を絡めるキスをした。
「黒崎のキス、苦いな」
口の端に少し垂れた唾液を親指の腹で拭いながら犬塚が言った。
「タバコ、吸うからかな……嫌だったか?」
「別に。俺のは?」
「なんか、甘い、気がする」
「アメ、舐めてたからかな? 嫌だった?」
犬塚が俺の口調を真似してそう言った。
そういえば、まともに犬塚と話をしたのは今日がはじめてだ。見た目で敬遠していたが、意外と話しやすい奴だ。
俺も犬塚の頭の後ろに手を回してキスをした。
犬塚の口の中に舌を入れると、犬塚は自分の口の中に潜り込んできた舌を舐めてくる。まるで飴でも舐めるように。
キスの最中、俺のいつの間にか硬くなっていた股間に犬塚の手が添えられた。
繋がっていた唇を離して犬塚に尋ねる。
「なんだよ」
「黒崎は男はじめてっぽかったからさ。黒崎が勃つか心配だったんた」
犬塚がベッドから降りて俺の勃ち上がったそれを、ボクサーパンツの上から咥えた。
「これだけ勃ってたら平気だな」
はむはむとものを食べるように動く犬塚の唇に、俺の股間はさらに硬くなり、先走りがパンツがジワリと染みを作った。
それを見たからか、犬塚は俺のパンツの腰ゴムに親指を引っかけると、そのまま陰茎だけを引き出すようにパンツをずらした。
「結構デカいな、黒崎の」
犬塚の人差し指が俺の湿った先端をくるくると円を描くように刺激してくる。
「犬塚もタオル取れよ」
犬塚は立ち上がって腰にきれいに巻いていたバスタオルを床に落とした。薄い体毛の間からきれいな形の犬塚のそれが勃ち上がっていた。
「お前も、勃ってんじゃん」
「そりゃ、キスしたら勃つよ」
犬塚がまたベッドに腰かけ、俺の首に腕を回した。
「黒崎のキス、気持ちよかったから」
また深くキスをした。舌を絡めながらそのまま、犬塚に引きずり込まれるようにベッドに横になり、キスを続けた。
上半身だけ犬塚に覆い被さるようにベッドに引きずり込まれ、そのまま夢中でキスをした。
時々目を開けてキスをしている犬塚の顔を見ると、どこからどう見ても自分と同じ男なのにかわいく見える。
少し今の体勢がきつくなってきたため、体をスライドさせて犬塚の横へ並ぶように寝そべる。すると俺の勃ち上がったそれが何か濡れたものに当たり、ひんやりとした。
当たった先を見ると、犬塚の同じく勃ち上がったものの先端で、透明な先走りがとろりと垂れていた。
寝そべる犬塚の全身を見る。どう見ても男の体だ。なのに、今まで寝た女より、興奮した。
俺は犬塚の平らな胸に付いている乳首に目をやった。乳首自体はそんなに大きくないが、乳輪部分がぷっくりとしている。
その乳首に乳輪ごと吸い付くと、犬塚のからだがピクンと跳ねる。犬塚のもう片方の乳首を、親指と人差し指でくにくにと押し潰すと犬塚が俺の頭を軽く抱き抱えてきた。
「黒崎ぃ……ちくび、それ、きもちい」
頭の上で、犬塚の熱っぽい声が落とされた。
それならもっとしてやろうと、俺はちゅぱ、ちゅぱ、と音を立てて犬塚の乳首を吸い上げた。
太ももにポタポタと落ちてくる水滴は、犬塚の先走りだろうか。
犬塚の乳首から唇を離し、先走りで濡れた犬塚の陰茎に手を伸ばす。上下に扱けば濡れた音が部屋に響く。動かしていた手を犬塚の手が制止させる。
「なんだよ」
「……黒崎の、舐めさせてよ」
犬塚が起き上がり俺の足の間に潜り込むと、勃ち上がった俺のものを左手で持ち上げながら咥えた。
犬塚の熱い口の中で、俺の雁首の裏に舌がぬるりと当たって気持ちいい。強く吸い付かれるとなおさらだ。
「黒崎、気持ちいい?」
俺のものから口を離して犬塚が尋ねてくる。
「ああ、気持ちいい」
「そろそろさ、俺の中に、これ、いれてくれよ」
楽しそうに細められた目。半開きの唇から覗く赤い舌。その舌が俺のを舐めていたと思うと、厭らしく感じる。
「ああ」
俺は犬塚を引き離すと、机の引き出しからコンドームの箱を取り出した。
だが、そうだった。ローションがない。
とりあえず、コンドームを持ってベッドへ戻ると、犬塚は自分の通学鞄を漁っていた。
「あった。はい、これ」
犬塚にコンドームの袋2つ分ほどの大きさのパウチを渡された。
「なんだよ、これ」
「どうせローション持ってないだろ? これ使えよ」
「何でこんなの持ってんだよ」
「そりゃ、ヤりたいときにすぐヤりたいし?」
そういうもんなのか。確かに、ご近所さんにセフレがいるくらいだ。犬塚にはその人以外にもセフレがいるのだろう。
犬塚に、こうしろああしろとレクチャーされる。そんな自分をダサいと感じるが、勝手にヤって下手なことをしてしまう方がもっとダサいだろう。
俺へのレクチャーを終えた犬塚が足を広げて足を持ち上げる。
言われた通りにパウチの口を小さく開けて、とろりと犬塚の尻の穴へ垂らし人差し指でくるくると馴染ませる。人差し指にローションを追加して垂らし、窄まった部分へゆっくりと人差し指を押し込めば、簡単に入り込む。
指の腹を上に第二関節まで入れ、クイ、と指を曲げる。犬塚の口から小さく吐息が漏れる。
「もっと……んんっ」
指の腹で強くならないように引っ掻く。指を抜いて中指にもローションを垂らし、指を二本に増やした。同じように三本と指を増やしたところで指を引き抜く。ついさっきまできゅっと窄まっていた穴はぽっかりと開いていた。
「そろそろ、入れて大丈夫」
犬塚に促され、俺は自分の勃ったものにコンドームを被せる。パウチの中に残ったローションを犬塚の開いた尻の穴と、コンドームの上に垂らした。
「……入れるぞ」
犬塚の尻の穴に先端をあてがい、腰を進める。詰まったような抵抗ははじめだけで、あとは誘い込まれるようにズブズブと飲み込まれていった。
「ん……、あっ」
最初は息が詰まったようだった犬塚の浅い呼吸が、すべて収まりきる頃には気持ち良さそうな喘ぎへと変わっていた。
犬塚のナカはあたたかく柔らかで、ぬかるんでいるのにぎゅうぎゅうと俺のものを締め付けている。このまま動けばすぐにイッてしまうだろう。気を紛らせるため、俺は犬塚を抱き締めた。
「動いていいのに」
犬塚も俺の背中に腕を回しながら言った。
「今動いたら、俺がヤバい」
そう言うと、小さく犬塚が笑った。しばらくの間は密着したまま、互いの鼓動だけで対話をしているようだった。そうしてほんの数秒密着したままでいると、強く包み込まれる犬塚の中に慣れていく。そうすると途端に突き動かしたい衝動に刈られる。
「動くぞ」
そう宣言して、腰を引いて雁首のギリギリまで引き抜いたところでまた押し進める。
ゆっくり、ゆっくり。でも、犬塚の熱く締め付ける中にもっと深く繋がりたくて、夢中になって腰を動かした。
犬塚、と声を出して名前を呼んでいるつもりだが、実際はフーフーと荒い呼吸しかしていない。
もっと深く、もっと深く犬塚と繋がりたい欲求が溢れ出る。俺は犬塚の腰を掴み、さらに奥へと腰を進めた。
犬塚の中に埋め込まれた先端がある一点を通過したとき、下にいる犬塚の体温が上がったのを感じた。俺の腰付近にあった犬塚の脚が俺の腰に緩く回された。
「黒崎、あっ……そこ、俺のイイところだから、覚えて」
言われるままに『犬塚のイイところ』を俺の勃立したもので擦り上げる。
「ひあ……ッ、黒崎、くろさきぃ……」
俺の額から汗が伝い、犬塚の喉元に落ちた。腰を動かしつつ顔を上げ犬塚の顔を見ると、昨日、除き見たときにみた、犬塚のあの顔だった。
「あ、も……くろさ、ンンッ! あっも、そこばっか!」
窓ガラス越しでは感じられなかった、犬塚の赤くなった頬。汗ばんだ額。少し涙目で、眉を寄せて、半開きの濡れた唇からは喘ぎ声が漏れる。
唾を飲み込む音が大きく感じる。
もっと、犬塚の、この顔が見たい。
俺は必死に、犬塚のイイところを擦り上げた。
「……ここが、イイんだろうが。犬塚」
「ひ、うんンンッ! あ、ヤバい、ナカ、ヤバいぃ」
犬塚の爪が背中に食い込んでいるけれど、犬塚のナカを擦り上げる時の快感が勝り、気にならなかった。
それよりも、甘い声で『ヤバい』と言っている犬塚の方が気になる。俺が聞きたいのは『ヤバい』じゃない。
「ヤバいって、なんだよ……なあっ、犬塚!」
犬塚の口から聞きたい言葉を促すと、犬塚の唇が震えた。
「あっ、きもち、きもちくて、ヤバい! もっと、黒埼ぃ!」
気持ちいい、もっと……。犬塚にこの顔をさせているのは俺だという支配欲が満たされていく。
繋がった部分からグチュグチュとローションが泡立つ音が響く。
「黒埼のっ先っぽ! ゴリゴリって、奥! あ、くろさ、もっと……おく、ヒぅっ!」
もっと、先に入るのだろうか。犬塚のナカで突き当たるため、根元の、ほんの少し余っていた俺のをグッと押し込んだ。途端、犬塚のナカがうねるように強く締め付けてきたのと、ビクビクと震える犬塚のからだに驚いた。
「……っ、おい。犬塚大丈夫か?」
「イっちゃ……くろさ、あっ、やっ!」
イった。と言ったのに犬塚のそれは勃ち上がったままだ。
「ナカ、ひっう、うぅ……」
犬塚が風呂に行っていた時にネットでチラッと見た、中イキ、というやつだろうか。
ずっと、犬塚のナカに入っていたいと思うほど、犬塚の強い締め付けは気持ちいい。それと同時に射精欲も沸き上がる。
そうだ。犬塚も出した方が気持ちいいだろう。俺は犬塚のそれを手で扱きながら腰を動かした。
「両方むり! も、きもち……ムリィ! あっ、あー!」
「いいじゃん、気持ちいいなら!」
「くろ、さきぃ……イ、も、だめ、イく!」
犬塚の先端から青白い精液が噴き上がり、犬塚の胸に着地した。
犬塚の射精の途端に今までよりも強い締め付けに、俺のものは膨れ上がり、あっけなく果てた。
犬塚のナカはさっきまでの締め付けが嘘のように柔らかく緩んで射精を終えた俺のものを包んでいる。そんな犬塚のナカからゴムと一緒に引き抜く。
俺も犬塚も汗をかいていた。ゴムの処理をして、窓を開けるとひんやりとした風が部屋に入る。秋口の夕方の風は昼間の暑さが嘘のように涼しい。
「きもちい……」
その風がなのか、セックスがなのか。分からないが犬塚が呟いた。
犬塚の吐き出された精液が空気に触れ水のようになっている。ティッシュを持って行き、犬塚のからだに飛び散った精液を拭いてやると「ありがと」と犬塚は笑った。
随分と長くセックスをしていた気がしたが、時計を見ると思っていたより短い時間だった。
「風呂、沸かすから入ろうぜ」
「んー……シャワーでいいよ」
ゆっくりと、犬塚がベッドから起き上がる。新しいタオルを出そうとすると、犬塚は床に落としたままだったタオルを拾い上げ「これ使うからいいよ」と言った。
部屋を出ようとドアに手をかけた時、犬塚は思い出したように振り返った。
「なあ黒埼。次ヤるときは、買っといてね」
「なにを」
「何って、ローション」
さも当然といった顔で犬塚は俺を見てくる。
「またヤるだろ? それとも、もう俺としない?」
「……する」
少し見栄を張った、遅い返事。それを見透かすように笑いながら犬塚は部屋を出た。
ベッドに横になると、シーツの上は俺と犬塚の汗やこぼれたローションで湿っていた。普段なら不快に思うだろうに、そんなことはどうでもいい。とにかく少しゆっくりと落ち着きたかった。
犬塚は今日みたいに、誰とでもセックスをするんだろうか。そして誰にでも、あの顔を見せるのだろうか。
セフレ……セックスフレンドという関係は、本当にただからだを繋げる関係だった。それは甘くて、気持ちよくて、どこか虚しかった。その感じはなにかに似ている気がする。でも、それが一体なんなのか思い出せない。
それでも、あの気持ちよさには依存性があった。少しでも犬塚の痴態を思い出せば俺の吐き出したはずのものに熱が集まり甘勃ちするのだから。