悪役レスラー2


地図を頼りに自転車を走らせた先は、単身者向けのマンションだった。
駐輪スペースに自転車を停めて、メッセージアプリを起動させる。
『着きました』そうメッセージを送れば『302号室』と返事が来る。
エントランスのオートロックに部屋番号を入力して呼出ボタンを押すと『はい』とスピーカーを通した歪んだ声が響いた。
「あの、高倉です」
『どうぞ。三階に上がってすぐの部屋です』
オートロック式の自動ドアが開き、中へ進む。まだ新しいのか新築のにおいがする通路を通り、その先にあるエレベーターへ乗り込んだ。
一瞬の浮遊感とともに三階へ運ばれる。エレベーターを降りたすぐに、正臣の家であろう302号室はあった。
玄関前のインターホンを押すと、足音のあとに玄関の鍵が開く音がする。室内の明かりとともに正臣が出てきた。
「こ、こんばんは」
「いらっしゃい。入って」
いつもはスーツの正臣が、ラフな格好で出てきた。
Tシャツに下は三本ラインの入ったジャージ。
「お邪魔します」
2DKの室内は俺の家とは違って、モノトーンに統一されたおしゃれな部屋だった。
「シャワー、浴びておいで。出て右側の扉で、そこにトイレもあるから」
正臣がタオルを渡して言った。大人しくそれに従ってシャワーを浴びる。

シャワーを浴び終えると、着替えがないことに気付いたが、取りあえず体を拭いて、そのタオルを腰に巻き付けて風呂場を出た。
「まだ髪の毛が濡れているよ」
「ドライヤー、使っていいか分からなくて」
「いいよ。そこ座って」
キッチンの椅子に腰掛けるよう促され座ると、正臣が脱衣所からドライヤーを持ってきた。
近くのコンセントにドライヤーの電気プラグを差し込むと、そのまま俺の髪を乾かしはじめた。
「あ、あの自分でできますよ?」
「いいんだ」
されるがまま、髪を乾かされていると『あ、本当に飼育されてるっぽいな』なんて思いながら笑ってしまった。
「どうかした?」
「いや、あの……犬みたいだなって」
「そう。乾いたね。こっちにおいで」
手を引かれる。椅子から立ち上がると腰に巻いていたタオルが床に落ちた。
それを伝えると「もういらないよ」と言われる。

そのまま寝室に連れて行かれると、正臣も着ていた部屋着を脱ぎ始めた。
普段スーツで気が付かなかったが、無駄のない締まったからだだ。
正臣がベッドに腰掛けるとその膝の間に俺を跪かせた。
「舐めるんだ」
石鹸のにおいに混じって、性器独特のにおいがする。
あれだけ性的な被虐を受けておいて、正臣の性器を見たのは今日が初めてだ。
『大きい……』
やったことも、されたこともない。
ゆるく持ち上がった正臣のそれに手を添えて、舌を突出し先端をぺろりと舐めた。
『あ、意外と平気だ』
あとはそういうビデオで見たように口の中に納めていく。
唇で大きなそれを挟み、頭を動かして扱く。
口の中でどんどん固くなっていくそれが嬉しい。少しでも気持ちがいい証拠だ。
『しょっぱい』
顔を上げて正臣を見つめると、正臣は俺の頭に手を添えた。
「今度から店じゃなくて、ここで会いませんか?」
口の中には正臣の太いものが占領しているので、答えられない。
目だけでなぜを問いかけると正臣は続けた。
「自宅だから、あまり設備は整ってないけど……嫌なら、今まで通りでいいよ」
頭に添えられていた手に力が入ったと思うと、喉の奥まで正臣のそれが押し込まれる。
「ヴグッ! ヴ、ググゥ……!」
何度もゴツゴツと、正臣の先端が喉奥へ当たる度に視界に火花が散る。
「ゴ、グぅ……ゴァ、ヴゥ……」
苦しい。視界が涙で歪む。瞬きをして視界がクリアになったところで、口の中から正臣のそれは大量のよだれとともに引き抜かれた。
「うぇ、ゴホッ……」
俺の口と正臣のそれが唾液で繋がっている。
「返事は?」
「……はい」
喉が焼けるように痛い。ちゃんと声が出ているか分からない。
でもどうにか返事をすると、正臣は俺の頭を撫でた。
「ほら、最後まで……上手に出来たらご褒美だ」
自分の唾液で濡れている正臣のそれをもう一度咥える。
口の中からじゅぶじゅぶと音が鳴る。唇で正臣の性器を扱きながら、口の中では正臣の亀頭部分に舌をピタリと添えて吸い付くように刺激を与える。
「うん、上手ですよ。く……っ!」
口の中で正臣のそれがピクピクと痙攣しながら、どろりとした体液が吐き出される。
頭を正臣に固定されているので口が離せない。そのまま正臣の精液を喉に流し込む。
俺の喉が動いたのを確認した正臣が、そっと頭から手を離すと口の中から硬さが失われたそれを抜き去った。
「今度、ちゃんと揃えておくので……今夜はこれで我慢してください」
俺をベッドに仰向けに寝かせると、そう言いながら乳首を撫でてくる。
俺の乳首は正臣に撫でられただけでぷくりと立ち上がるようになっていた。
正臣がローションを指に垂らす。ひんやりとした感覚とともに、濡れた正臣の指が窄まった俺の中へ入り込む。
「いつもの太いディルドと違って物足りないかもしれないが」
正臣の中指がピンポイントで気持ちのいいところを刺激してくる。
「あ……ああっ」
正臣が指を動かす度に、尻の穴から卑猥な水音が響く。
「ここが、カイの気持ちいところ」
「あっあっ……ああっ!」
「カイのここ。もうりっぱなケツマンコだ。カイ、言って」
「あひ、け、けつまんこ……」
「そこが? どうなんだ?」
「ケツマンコ、きもちいい! 俺の、ケツマンコ! 正臣さんにぐちゅぐちゅされて、気持ちいい……!」
「うん、もっと気持ちよくなろうね」
正臣がそういうと唇を寄せてきた。舌が触れ、絡み合う。
気持ちよさに目眩がする。
ぞくりと腰が震え、どろりと果てた。
ぷちゅ、っと指が引き抜かれ、そのまま抱き寄せられる。
「おやすみ、カイ。また明日」
その言葉に誘われるままに、眠りに落ちた。



「正臣さん、おはようございます」
あの日から、調教は正臣の家で行うことになった。
正臣の仕事が終わってからになるので、店で会うよりも遅い時間から調教は始まる。
次の日が試合の時は自宅へ帰るが、それ以外は今日みたいに泊まらせてもらって直接道場へ行くようになった。
家で会うことにした理由を聞いても正臣は教えてくれないけれど、なんだか幸せなのでそれでいいと思っている。
「ん……おはよ。カイは何時に出るんだ?」
「えっと、今日はお昼、十二時からです」
「そう、同じだな……まだ時間がある。おいで」
現在時刻は午前八時。また、布団の中に引きずり込まれた。
こんな朝は、布団の中でずっとキスをする。
優しくて、柔らかなキスだ。
夜の激しい調教が、嘘のように。
そのまま二度寝して、慌てて起きて家を出る準備をする。
正臣は電車で。俺は自転車で。目的地へ向かうため反対の方向へ進む。

「お疲れ様です!」
「お疲れさん。どうしたカイ、最近ギリギリだぞ」
「す、すみません。ちょっと二度寝しちゃって」
「明日大ホールの試合なんだからな。シャキッとしろよシャキッとォ!」
「すみません。着替えてきます!」
更衣室で着替えていると、加納が入ってきた。
「カイさん、お疲れ様でーす」
「あ、加納お疲れ。明日の試合、メインだよね?」
「そうっす! 何気に大ホールでシングルのメインってはじめてなんで、めっちゃ緊張するっす」
「がんばって」
「あざっす!」
着替えるが、加納はまだ更衣室を出ていかない。
「ん? 加納まだ、行かないの?」
「着替えるの、見てていいっすか?」
「ダメ」
「ええ〜ちょっとだけ!」
「バカ、早く行けよ!」
こうやって加納とも冗談を言って笑いあえるくらいには、普通に接することもできるようになっている。
明日の大きな大会が終われば、また少し長い休みだ。
その間は、ずっと正臣と一緒にいる予定になっている。
こんなに一日一日が楽しいのは久しぶりだ。



大きな大会も超満員札止めで幕を閉じた。
打ち上げでは社長が「そろそろ月末大会の会場をもう少し大きなところに変更しようかと思う」なんて嬉しい話をしていた。
二次会へ向かう仲間と別れ、俺は正臣のマンションへ向かった。
インターホンを鳴らして部屋へ入れてもらう。
「いらっしゃい、カイ」
「お邪魔します」
いつものようにタオルを渡され、汗をかいたからだをシャワーで洗う。
そして裸のまま、正臣のいる寝室へ向かう。
「おいで、カイ」
ベッドに座っている正臣に呼ばれ、素直に従う。
「ケツマンコを俺に向けて、上に乗るんだ」
尻を正臣の顔に向け跨る。硬く反り勃った正臣のそれが目に入ると口の中に唾液が溢れた。
勝手に正臣のそれにしゃぶりついてはいけない。
以前良かれと思って勝手に舐めたらひどい目にあった。
きちんと待てをして、正臣の許可が出てからでないと、舐めてもしゃぶってもいけないのだ。ごくりと喉が鳴る。
「舐めていいよ」
「はい!」
許可が出た。正臣のそれを口へ運ぶ。
喉の奥を使ってじゅるじゅると音を立ててしゃぶる。
硬くなった正臣を自分のケツマンコへ入れた時を想像しながら、咥内で愛する。
「あう……んっ」
つぷ、つぷと小さなものが体内へ入っていく感覚に思わず正臣を口から離してしまった。
「物足りない? 大丈夫。すぐ気に入るよ」
振り返って正臣の方を見ると、俺のケツマンコから黒い玉が連なったものが垂れていた。今入っている分は大きくないが、まだ入っていない分はとても大きい。
「ね?」
ローションを足されながら、ひとつひとつ入れられていく。
「あ、ああっ。あぐっ!」
「たくさん、入ってるよ」
「あ、も……苦し、入んないっ」
「これからが楽しいんじゃないか。この残る大玉四つを入れると、先に入れた小さな玉はどうなるだろうね?」
ぷちゅ、ぷちゅと入っていく玉の大きさが苦しいのに加え、先に入っていた小さな玉がどんどん奥へ押し込まれていく。
「ひ、う……うあ、あ、ああ! やっ!」
「そう、カイの大好きな結腸に届くよ」
正臣の手は玉を入れるのをやめようとしない。
「あひっひあぅ! あ、むり、も無理ィ!」
「頑張って。あと、一個だから」
「あ、ギッ……ぐぅぅう!」
「ほら、全部入った」
きゅうぅっとケツマンコが収縮する。俺と正臣の密着している部分が汗ではない何かでねっとりと濡れていた。気が付かないうちに射精していたらしい。
「あっ、ああ……ごめ、なさ」
「いいよ。もっと気持ちよくなって」
「はひィッ!」
ぽこん、と玉がひとつ引き抜かれた。
「まだあるよ。たくさん入ってるからね」
ぽこん、ぽこんと引き抜かれる度に、永遠に終わらない排泄を続けているような気分になる。なのに、気持ちいい。
「ひ、あ、あぅ……ああっ!」
最後小さな玉が一気に抜かれ、ぐったりと倒れ込む。
からっぽのケツマンコが疼いた。
もっと中に欲しい。もっと太くて熱いものが。
脱力したままでいると、ケツマンコに何かが添えられた。
「次はこれを入れましょうね。大丈夫、あなたの大好きなディルドですよ」
ディルドの亀頭部分が埋められていく。
それじゃない。俺が欲しいのはそれじゃなくて、正臣が欲しい。
「ま、まって。あの、俺をこれで、犯してください。もう俺のケツマンコ、トロトロなんです。これを……正臣さんの、オナホにしてほしいんです」
まだ目の前で硬く勃ち上がっている正臣のそれを握りしめる。
正臣のそれは今まで俺の口にしか入れてもらえない。これが欲しい。
「どうして? カイの大好きなディルドじゃ駄目なの?」
正臣はいつも理由を聞く。
「正臣さんが、欲しいんです……ひんっ!」
先っぽが入っていたディルドが引き抜かれた。
「どうして?」
どうして正臣が欲しいのか。
ああそうか、簡単なことだった。
「俺、正臣さんが、好きです。好きだから……正臣さんが欲しい」
「そう。ありがとう、カイ」
俺の下にいた正臣がそこから移動し、俺の背後に回った。
尻を両手で掴まれて開かれる。
「挿入れるよ」
ずぶずぶと今まで感じたことのない熱いものが入ってきた。
「あ……ああっ! んんぁ!」
気持ちいい。どうしようもなく、気持ちいい。
密着している部分から溶け出しそうなくらいだ。
出て、入って。出て、入って。それを離したくなくて締め付ける。
口からはだらしない喘ぎ声が漏れるが、気にしてられない。
正臣のそれがずるりと出ていくと、正臣は俺のからだを仰向けになるよう促してくる。
言われるまま仰向けになり、足を大きく開く。
また、硬いそれが入ってくる。
「まさ、おみさ……あっああっ、きもち、いい!」
ぷしゅ、と反り返った俺の先端から潮が溢れ腹を濡らす。
「ごめんね、カイ……っ!」
「ぐあ、んんぁあっ!」
一番奥に、正臣のそれが入り込み、中を熱いものが満たしてくる。
どく、どくと溢れるそれは、正臣の精液だろう。
その感覚を最後に、意識が途絶えた。
意識が途絶える寸前に聞こえた「ごめん」と「愛してる」は、都合のいい幻聴だろうか。


母がいた。優しく俺に笑いかけている。
『カイ、かわいい私のカイ。かわいい女の子』
『おかあさん、僕はどうしてスカートなの?』
『あなたは女の子なんだから、スカートをはくのは当たり前でしょう?』
『おかあさん、僕は男の子だよ?』
『いいえ、あなたは女の子よ……』
ああ、そうだ。母は女の子の俺が好きなんだ。だから俺は、女の子でいなくちゃいけないんだ。
『うん、そうだね。お母さん』
笑顔だった母の顔が歪みだし、俺を睨み付ける。
『なんなの? その醜い姿は』
『え……?』
少女のようだった俺の姿は今の太く大きな体になっていた。
『そんな醜いアンタなんか、大嫌いよ』
『お母さん……ごめんなさい、ちゃんと女の子になるから! だから、捨てないで』
俺が大きくなったから、お母さんは俺を愛してくれなくなった。
施設で過ごすあいだ、ずっと俺は愛に飢えていた。
「お母さん……!」

目が覚めると、とてもあったかい。
すぐそばに正臣がいる。
「正臣、さん」
「うなされていたね」
「昔の、夢を見たみたいで」
そう言うと、正臣が俺を抱きしめた。
「カイ、もう飼育ごっこはやめにしよう」
その言葉に、期待した。
「正臣さん、それって」
「ごめんね、カイ」
あの幻聴は、本当だったのだろうか。期待を込めて見つめると、正臣は悲しそうに笑っていた。
「契約解消だ。もう会うのもやめよう」
「なんで? 俺が、正臣さんを好きになったから?」
「そうじゃない。そうじゃないけど……もうここには、来てはいけない。いいね?」
「正臣さん、あなたも俺を捨てるんですか? 俺を、愛してくれないんですか?」
「ごめん、カイ」
全身が一瞬で冷えていく。まるで氷水を頭からかぶったようだ。



一人暮らしのワンルームで一日中、少し前みたいに持て余したからだを自分で弄ったり、スマホで動画を見たり、SNSでエゴサをする。
エゴサをしたのは久しぶりだ。
前は数件しかなかった俺についての投稿は、いまはとても増えていた。
SNSに投稿された、ファンが撮った写真を眺める。
「これ、本当に俺かな」
自信に満ちた顔だった。
こんな顔ができるなんて知らなかった。
正臣と出会って、俺の人生は変わった。
「正臣さん……っ」
俺は財布とスマホをボディーバッグに入れて家を出た。
いてもたってもいられなかった。
この時間ならまだ家にはいないだろう。
そうなれば行先はあそこしかない。

『来てしまった』
一方的な飼育解除も、愛してると言ってくれたのに手放されたことも、全て納得がいかない。
真っ黒な鉄製のドアの前に立ち尽くす。
『もう一度、ちゃんと話をしよう』
もう来るなと言われていた手前、インターホンを鳴らさずにそっと店内へ入った。
なるべく音を立てないように奥へと進むとガチャンと食器が割れる様な音がした。
「映像出せねえって、どういうことだコラ!」
声のする方へ進むと、正臣と明らかに『そっち系』の男がそこにいた。
俺は隠れてその様子を覗う。
「お願いします。彼の動画だけは、このまま消させてください」
「オマエなぁ、こっちも仕事でやってんだぞ? ガキの遊びじゃねぇんだぞコラ。あァ?」
「わかってます。でも、お願いします。彼の、高倉カイの動画だけは、許してくださ……ッ!」
男が正臣の腹を蹴り上げて言葉を遮った。
正臣と男は、俺の話をしている。
「おいコラ財前。ここの仕事、なんの仕事だ? 言えよ」
「登録した、会員の、プレイ中の動画を、裏で売る仕事です」
「おお、その通りだ。じゃあなんでそのSDは俺に渡さねぇんだ? ん?」
「お願いします。この人は、ショービジネスで働いてる人です。あんな動画が流出したら!」
「こんなところにノコノコ来るような変態だろうが! 自己責任だ自己責任。ほら、さっさとそのSDカードよこせ」
男の足が正臣の腹を踏みつける。正臣は泣きそうな顔でSDカードを握りしめていた。その瞬間、からだが動いた。正臣の前に飛び出して、男の足を正臣から退ける。
「ンだコラ、テメェ!」
「暴力はやめてください」
「ああ、噂の変態レスラーじゃねえか」
男は俺の顔をジロジロと見ると鼻で笑った。
「どうやってうちの犬をたらし込んだか知らねえが、お前さんからもコイツにその持ってるSDカード渡すように言ってくんねぇかなあ?」
「別に、俺はそんな動画が出回ろうがどうだっていい。今すぐ、この人への暴力を、やめてください」
「だってよ。オラこの野郎。この変態もそう言ってんだ。さっさと渡せ」
俺は正臣を見つめ頷いた。正臣はほんの一瞬驚いた顔をしたが、すぐに男に向き直ると持っていたSDカードを床に投げつけ踏み潰した。
「はじめから、こうすればよかった」
正臣が足を退けると、SDカードの残骸があった。
「てめぇ……、この損失必ず埋め合わせさせるからな!」
男は盛大に舌打ちをすると、その場に転がっていたゴミ箱を正臣に当たるように蹴り上げる。その数秒後、入り口のドアが大きな音を立てて閉まった。
「……いらっしゃい」
大きなため息をつき、正臣はその場に座り込む。
「どういう事なんですか?」
「このクラブは、会員同士だったりスタッフと会員のそういうプレイを隠しカメラで撮影して、裏で売るってのが、本来の営業スタイルなんだ」
「本当は、その、飼育クラブじゃないってことですか?」
「表向きには、カイの言うとおりの店だ。でも、簡単に言うと、裏ビデオの撮影スタジオみたいな感じだよ。嘘ついて、ごめん」
「愛してるって、言ったのも嘘ですか? だから、俺のこと、最後の日まで抱かなかったんですか?」
「違う! カイのことは、本当に試合で見る芸能人みたいな存在だったし、好きだ。本当だよ。ただ、カイのあんな姿を誰にも見せたくなくて。本番までいかなかったらデータを渡さなくて済むことが多かったから!」
「それで、俺を追い出したんですか?」
正臣が頷いた。
「でも、あいつらがお前がレスラーだってどこから調べたらしくて、データ渡せって言い出したから……」
床に散らばったSDカードの破片が目に入る。
「俺を、守ってくれたんですね」
「まあ、あっちもあんまり事を大きくしたくないだろうし、報復もないと思うから、安心して。カイ……嫌いになった?」
「嫌いになんか、なれないですよ」
泣きそうな顔をした正臣は、別人のようだった。
正臣も、俺と同じように無理をして生きているのかもしれない。
「俺はあなたに、救われたんです。だから別に、そんな動画データなんて渡せばよかったのに」
「嫌だ。カイは俺のものだ。誰にも見せない」
自然に表情が緩むのを感じる。俺は膝をついて正臣を抱きしめた。
「俺を抱いてください。たくさん、俺を抱いて、愛してください。そして、俺を……もっとあなた好みに調教してください」
そっと、正臣がからだを離した。
「もう、ずっと好みの男だよ。カイ」
いつもの数倍優しいキスは、骨まで溶けそうなキスだった。


◆ 了 ◆