昼下がり、ナマエは中華街の屋上にいた。
手すりに頬杖をついて仕事について物思いにふける。

午前の仕事はそこそこ片付いた。このままなら納期までに無事終わるだろう。
月末までに別の仕事が舞い込んでくるだろうから、もう一つの方は前倒しで終わらせて……と考えたところで思考は別のところに飛んでいった。

このまま職場と家の往復で人生が終わるのではないか。

その思考はこの屋上に来たきっかけと同じものだった。
お昼を食べようと中華街を歩いていたとき、街の喧騒を聞いていると、なんだか仕事が面倒だなあという思いが巡った。顔を上げると、毎晩そこにいる恋人の顔を見た気がしたのだ。
実際は気がしただけでお昼に会えることは稀であるし、その顔を思い出すと無性に羨ましくもなり、恋しくもなった。
中華まんをひとつ買い、屋上に登って男の真似をして街を見下ろしてみるが、心のもやもやは晴れなかった。


「それで会いに来てくれたってわけ」

そうそう、と隣で相槌を打つ。
時は変わり日も暮れた深夜、ナマエは再び屋上を訪れていた。

ジェイミーは「街の治安維持も楽じゃないぜ」と笑いながら言ったが、その言い方は優しかった。

「別に自由そうで羨ましかったわけじゃ……ううん、羨ましかったかな」
「そりゃどうも」

自嘲気味に笑ったナマエは少し自分が恥ずかしかった。ややジェイミーに八つ当たりの気持ちもあったからだ。
それを知ってか知らずか、ジェイミーはなおも嬉しそうに微笑んでナマエの肩を叩く。

「毎日同じことの繰り返しでも、手を抜かねえお前は立派立派。だけどよ」

ジェイミーはナマエに身体ごと向き直り、真っ直ぐ見つめてきた。
ナマエも、何を言われるのかと居直る。

「お前に必要なのは自由じゃなくて、息抜きだろ」

ほら、と目配せされ、つられて街を見下ろすと、昼とは違ってオレンジ色に輝く中華街が見えた。

看板の蛍光緑、楽しそうに一人で中華まんを頬張る人、肩で風を切るように歩くギャング、夜でも功夫を研ぎ澄ます老人、風に揺れる赤いパラソル……。

「綺麗」
「だろ?」

屋上から見下ろす中華街は、確かに煌びやかでありながら安心感もあった。ナマエにとってサイバー感の強いメトロシティよりも、この雰囲気が好ましかった。
何より今、ジェイミーが隣にいてくれることが嬉しい。

「毎晩見れるぜ」
「毎晩?」
「お前が望めば」

今度はナマエがジェイミーを見つめる番だった。ジェイミーは微笑みながら街を見下ろすばかりだったが、その優しさは十分伝わった。

ナマエは笑うと、ジェイミーに肩を寄せる。

「私の恋人は優しいな〜」
「当然」

2つの影は肩を楽しそうに揺らした。

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