武士ズと私

私の部屋には日当たりのいい場所がある。言わずもがなそれは窓際で、そこにはいつも日向ぼっこをするジバニャンがいるのだが、今日その姿はない。代わりにあったのはいつの間に来たのか、己の刀を手入れするまさむね、むらまさ、そしてくさなぎの姿だった。この三人が同じ空間、同じ場所に揃うのは珍しい。何せ気が合わない三人組なのである。しかし今日は黙々と自分の世界に入り込んでいるようだった。

突然の訪問に、文句の一つでも言っても良かったのだが、あまりにも集中していたのでやめた。
邪魔しないようにそうっと後ろからのぞきそんでみる。刀の手入れなんて初めて見るなあ。難しいのかな。「これ、危ないから下がっておれ」…と、まさむねからの注意が入った。


「あ、ごめん。刀の手入れなんて見たことないからつい…」
「構わんが、せめて声をかけてからにせぬか。万が一手元が狂って怪我でもさせてしまったらたまらんからの」


確かにまさむねの言う通りである。もちろん手元が狂うことはないだろうけれど、真面目なまさむねは私のことを心配してくれているのだ。「うん、ごめんねまさむね」といえば、「わかればいいのじゃ」と満足げに頷いた。しかしその様子に黙っていなかったのはむらまさで。


「刀の手入れ中に手元が狂うなんて、お前の腕前がダメダメだって言う証拠だろ」
「何じゃと?!もう一度言うてみろ!」
「お前の腕がダメダメだって言う証拠だろ」
「言うたな!」
「お前が言えって言ったんだろうが!」


あまりにもお約束過ぎて言葉もでない。

「それに、怒るのは図星の証拠だってしってたか?」とむらまさは更に煽る。真面目なまさむねをからかうのが生き甲斐なのかというほど、とにかくよく突っかかっていた。それに安易に乗っかるのがまさむねクオリティである。「…斬り捨ててやるわ!」あああもう、喧嘩はやめてください…!


「ま、まさむね!落ち着いて!むらまさも喧嘩吹っ掛けないの!」
「七海、そんなやつの側にいたら危険だぜぇ?手元が狂う可能性が高いからな!」


ちょ、また余計な火種を投げやがって…!

私のことなどお構いなしに、こっち来いよ、とむらまさが腕を引いた。思わずよろけそうになったが、「むらまさの方が危険に決まっておるわい!」反対の腕をまさむねも引いてきたので、微妙なバランスで保たれることになった。おお、ナイスアシスト。いや、感心している場合ではない。

こうなれば仕方がなかった。「く、くさなぎ〜助けて!」傍観を決めていたもう一人の武士に向かって泣きついてみる。若干面倒くさそうにくさなぎはこちらをみたあと、あからさまにため息をついた。えっそれ、ひどくない?


「ちょ、くさなぎさん!助けてよ!」
「報酬は?」
「えっ?!対価がいるのです?!」
「当然であろう。拙者が助けるのだから」


なぜ当然なのかはさっぱりわからないが、背に腹は代えられない。「ゆ、雪かきピーでどう?」「拙者、スナックは好かぬ。刺身にしろ」って、そんな横暴な!


「わかった!じゃあ今度の休み、一緒にナギサキ行こう!あそこはお魚料理一杯あるから!」
「ほう。それはまことか」


きらり、とくさなぎの目が輝いた。正直なところ、ナギサキに美味しい魚料理屋さんがあるのかは知らないが、海辺なのだから何とかなるだろう。


「うん、ほんとほんと。まことです」
「よし。では交渉成立じゃ」


くさなぎは組んでいた腕をほどくと、これまた大儀そうに立ち上がった。そして音もなく近付くと、私の頭上で言いあいをしているまさむね、むらまさの手に手刀を一閃。


「いっ?!」
「ぬ…っ?!くさなぎ、何をする…!」
「いい加減にその手を離せアホどもめ」


ぎろりと睨み付けられて、まさむねたちはすごすごと手を離した。ようやく解放の時である。我、解放されり。
見下ろせば手首が若干赤くなっていた。痛かったなあ。ふーふーと手首に息をかけていると、今度はくさなぎがその手を掴んできた。


「?くさなぎ?」
「では行くぞ」
「えっ?どこへ?」
「決まっているだろう。ナギサキだ」


そんな話決まってませんけれども!

私が言ったのは「今度(バイトが休みの日に)ナギサキに行こう」であって、今すぐなんて約束はしていないのに。


「何だ、早速約束を違えるつもりか」
「いやいやそうではないけど…!」
「それなら早くしろ。拙者はそんなに気が長くない」


ええ、それはもう存じ上げておりますとも!

ずるずると引き摺られるようにして、私は部屋を後にする。ちらりと見えたまさむねとむらまさは、一度顔を見合わせたあと、悔しそうに顔を歪めたがすぐにため息をついていた。くさなぎには敵わないと思ったのだろう。私もそう思う。

あれ、こんなこと、前にもなかったっけ?


「さて、いかような魚料理があるのか。楽しみだ」
「ははは…そうだね…」


これでナギサキに美味しい魚料理屋がなかったらどうしよう。ハラハラしつつ、私はくさなぎに手を引かれながら道を行く。

私は毎度、彼らに振り回されているなあ。


「早くせぬか。魚が逃げる」
「…はいはい」


刀一つでこんなにも性格や癖が違う武士ズに、何だかんだ甘い私も大概だけれど。
突っ込む気力もなく、私はくさなぎのあとを追う。繋がれた手はそのままで、それが照れくさくなるのはもう少しあとのことだった。