姉ちゃんと秘密の部屋の主と親戚

「七海〜!!!」
「え?!うわあ!!」


バイトから帰って部屋の扉を開けると、突然何かが飛び出してきた!
ガシッと肩を捕まれて前後に揺さぶられる。「七海〜!大やもりと同棲ってどう言うことだよ〜!!」…大ガマだった。


「ちょ、ちょっと大ガマ?!いきなり何?!ってか何でここに?!」
「七海〜!何でだよおおお?!」


この蛙、微塵も聞いてない!

バイトの疲れでイライラしていた私は、思考回路が破綻していたんだと思う。ガッと大ガマの顎を捕らえると、そのまま頬っぺたを潰した。ぶふ?!っと大ガマの唇がまえに突き出たけど気にしない。今の私、容赦しないよ!


「ねえ、何でここにいるの?」
「い、いひゃい!」
「じゃあ騒がない?話聞く?質問に答える?」
「おふ」


さすがに痛かったのか、必死で頭を上下させる大ガマに、私は手を離した。「あ〜ビビったぜ…七海も口より先に手が出たりするんだな」なんて感心してたけど、疲れて帰ってきたのに騒がれたら当然である。まあさすがにやり過ぎたかもしれないが。でも謝らないぞ。大ガマが悪いんだから。


「で、何で大ガマがここにいるの?」
「ああ、それは、」
「七海お帰り」


ところが大ガマの言葉に被せてきたのは、クローゼットの住人、大やもりだった。扉を3分の1ほどあけて、こちらを覗いている。いつものことながら、そこまで開けてるなら出てくればいいのに。まあ大やもりにそれを期待するのは無理な話なので、「ただいま〜」とだけ答えた。それに目を剥いて怒ったのは当然大ガマである。「あ!大やもり!お前こんなとこにいたのかよ?!」普段物音たてない大やもりだから、気づかなかったのね。


「…うるさい。大ガマこそなんでここにいるのさ」
「俺はお前が家なくしたって聞いたから、わざわざ迎えに来たんだよ!オラ、帰んぞ!」
「は?頼んでないし。俺ここに住んでるから。サヨウナラ〜」


なるほど、大ガマは大やもりを連れ戻すべくここに来たらしい。よく見れば、部屋の隅でうんがい三面鏡がうとうとしている。ちょっと可愛いかもしれない。

大やもりは手をヒラリと翻すと、クローゼットの扉を閉めようとした。が、大ガマの手によって阻まれる。何度もガッガッと無理矢理扉を閉めようとする大やもりの顔は無表情で逆に恐ろしい。あの、大ガマの手、挟まってますけど。大やもりってゴーケツ族だっけ?だから精神的にもタフなの?

しかし大ガマも「いてぇぞコノヤロー!」と言うものの、決して手を離そうとしないところを見ると、やはりゴーケツ族なんだなあと思った。いや、感心している場合ではないだろう。


「おいぃぃ!七海の部屋に住むってどういうことだよ?!俺聞いてねえぞ!」
「そのままの意味だし。何、大ガマって日本語わからないの?それなら話すだけ無駄だし早く消えて」
「てめえ!いい加減しやがれ!七海に迷惑かかんだろぉがあああ!」


手に加えて、髪の毛の先の舌のような部分も、クローゼットの扉にかかった。「出てきやがれぇぇ〜!」「い・や・だあああ!!」両者攻防が続く。ああ、もう私出てっていいかな。景太の部屋に行こうかな。ジバニャンいるし。疲れたから癒されたい。


「七海が住んでいいって言ったんだもん!お前には関係ないだろー!さっさと帰れよ!」
「男が『もん』いうな!身内が人様に迷惑かけてんだから連れ戻して当然だろうが!」
「そんなこといって、大ガマ、ほんとは俺が羨ましいんじゃないの?七海との、ど・う・せ・い!」


あ、これは大ガマ怒るんじゃないか?!
景太の部屋にこっそり移動しようとしていたが、一度中止して、大ガマの反応を待つ。「てめぇ、大やもりぃぃ」とオーラを漂わせ、宣ったのは。


「羨ましいに決まってんだろおお!!この引きこもりがああーー!!!」


えええ、まじか。この反応は予想してませんでしたけれど!


「俺だってなあ、七海と同棲してーよ!髪の毛結わってもらったり、朝起こしてもらったり…!」
「あ、それ俺やってもらった」
「何だとーー!!おい、ラッキースケベには遭遇したか?」
「ううん、まだだけど、そのうちありそう」
「羨ましすぎるだろおお!!」


何なの、変態なの。
本当は仲いいんじゃないの、この二人。
急にテンポのいい会話を始めた彼らを見て、口元が引きつった。ああ、疲れたなあ。


「そういえば七海、この前土蜘蛛と遊んだらしいよ」
「はあ?!なんだって?!その話詳しく聞かせろ!」


もう、勝手にしてください。
ため息ひとつ吐き出して、私は景太の部屋に向かうべく、静かに扉を閉めたのだった。