ゆっくり大きくなあれ

「あれ、ケータ?」
「なあにー姉ちゃん」
「ちょっと立ってみて」
「え?」


たまたまリビングで景太の後ろ姿を見て、私はふと思い立った。きょとん、と首をかしげる景太の腕を掴んでそっと引き上げる。ああ、やっぱり。


「ケータ、身長伸びたね」
「え!ほんと!?」
「うん、だって前は、私の肩に届かないくらいの身長だったもん」


私の肩と、景太の頭のラインは、今景太のほうが少し飛び出ている。見上げてきた視線の角度は緩やかになっていて、この子も成長しているんだなあと思った。


「そういえば、体つきも男の子らしくなったよね。昔はぷにぷにしてたのになあ」
「姉ちゃん…それいつの話?」
「え?赤ちゃんの頃?」
「昔すぎるでしょ!」


的確な突っ込みもお手のものだ。

彼はこの一ヶ月で、劇的に成長した。身長も、もちろん精神面でも。それはきっと、妖怪ウォッチを手に入れて、様々な困難を乗り越えてきたからなのだろう。私の目の届かないところでだって、景太は戦っている。昔は私の後をついて回っていたというのに。


「うーん。まさに親の心子知らず…」
「え?何?」
「いんや。何でもない」
「ええー気になるじゃん」


ぶーと景太が口を尖らせる。こういうところはまだまだ子どもだ。その様子に、私は少し安心していた。あまり急に成長されると、ちょっと寂しいものがあるからだ。私の知らないところで、この子は大人になっていく。もちろん私だって、そうなのだけれど。


「いいの。それより、新学期が楽しみだね。身体測定あるでしょ?身長何センチになってるかな?」
「あ、そっか!あ〜早く学校行きたいかも!」


背が伸びたことを指摘されたのが嬉しかったのか、景太は、にこにこと笑う。私はその頭をぽんぽんと撫でた。


「きっとすぐ、背を抜かされちゃうね」
「へへ!そしたら俺が姉ちゃんの頭撫でたげる!」
「ええー?」
「ね!いいでしょ?」
「そうだね、じゃあお願いしようかな」
「うん!任せて!」


なぜそんなにも私の頭を撫でたがるのか謎だけれど、景太のそんな申し出に、思わずほっこり。


「姉ちゃん!これから毎日背比べしよ!」



さて、私の背が彼に抜かされるのはいつになるのやら。
急に大きくなったらビックリしちゃうから、ゆっくり追い越していってね。