キラリ、星の夜
キラキラ、キラキラ。
街中のイルミネーションがたくさんの色を輝かせている。空を見上げれば、今にも雪が降り出しそう。
今日はクリスマス・イブ。世界中が心待にしていた一日だ。
今日のバイトは早めのシフトで出したから、急いで帰れば夕飯までに間に合うだろう。剥き出しの足とは裏腹に、モコモコのマフラーをぐるぐると巻く。女子高生って、結構季節感ちぐはぐだと思う。
店長から特別割引で買った、クリスマス限定のクリームパンをしっかりもって、コートのポケットに手をつっこんだ。
雪が降る前に早く帰らなきゃ。
私は帰路への道を急いだ。
「ただいまあ」
「姉ちゃん!おかえりーー!」
玄関を開けてすぐ、飛び付いてきたのは景太だった。まだ靴を履いたままだというのに、景太は相変わらずだ。「おかえりなさいでうぃす」「七海ちゃんおかえりニャーン」彼の友達も後ろからやってくる。私は彼らの頭を一撫でして、ようやく家へとあがった。
「姉ちゃん!今日は早かったね!」
「うん、早めのシフトで出してきたんだ」
「そうだったんだ!俺、さっきお母さんに頼まれてケーキ買ってきたよ!」
「ほんと?楽しみだなあ」
私を見上げる景太の笑顔は、いつもよりキラキラしてる。やっぱりクリスマスだから、なのだろう。「オレっちもケーキ!ケーキ!」ジバニャンも楽しそうだ。でもなぜかウィスパーはビクビクしてるけど…(後で聞いたら、クリスマスは聖なるものが多いから気を抜くと昇天されそうになるかららしい)。
「そういえば、今日クリスマス限定のクリームパン買ってきたよ」
「え!ほんと?!」
「七海ちゃん!オレっちたちの分は?!」
「もちろんあるよ。明日の朝ごはんにでも食べてね」
「ぃやったー!」
「楽しみですねぇ、クリームパン!」
「しかもクリスマス限定!絶対美味しいに決まってるニャン!」
まだ食べてもいないというのに、目の前の3人組は想像でヨダレを垂らしていた。こんなに喜んでもらえるなんて、買ってきたかいがあったなあ。
台所から、美味しい匂いが漂ってきた。私のお腹が空腹を訴えたとき、ちょうどお母さんからの声がかかる。景太が早く早くと腕を引っ張って、ジバニャンが足下をすりすり。ウィスパーはふよふよ浮いてついてくる。
今年はいつもより人数の多いクリスマスパーティに、自然と私の口元が緩んでいた。
家族で夕飯とケーキを食べ終え、私は部屋で携帯をいじりながら寛いでいた。仲良しのみっちゃんから、冬休み中に遊びに行くお誘いが来ていたからだ。冬休みは短いし年末にも被るから、夏休みほどぎちぎちにシフトを入れていない。どこかしら遊びに行ける日があるだろう。
おもむろに鞄から手帳を取り出して、シフトを確認する。そこへ、「姉ちゃん?」と声がかかった。
「ケータ。どうしたの?」
「うん、あのね…」
いそいそと手を後ろに隠し、部屋へと入ってくる。ウィスパーとジバニャンも一緒だ。緊張しているのか、3人組はキョロキョロと視線をさ迷わせていた。
「姉ちゃん!」
「うん?なあに?」
「こ、これ!俺たちからのクリスマスプレゼント!」
後ろに隠していた手の上にあったのは、可愛くラッピングされた小さな箱だった。一瞬何が起きたかわからず、ぽかんとしてしまった。景太たちからの、クリスマスプレゼント。思えば彼らから何かをもらったのは初めてだ。
「私に?」
「うん!皆で選んだんだ!」
「早速開けてみてニャン!」
「気に入っていただけるといいのでうぃすが…」
そっと景太からプレゼントボックスを受け取って、ゆっくりリボンをほどいていく。ふたを開けるとそこにあったのは。
「手袋?」
「うん、姉ちゃんマフラーはするのに、いつも手はポケットに入れてるから…バイトは夜遅いし、少しでも暖かくなればいいなあと思って…」
「柄はオレっちが選んだニャン!」
「この日のためにケータくんはお小遣いを一生懸命貯めていたんですよ」
ベージュのニットに、大きめの赤いリボン。控えめなようで、可愛らしいデザインは、とても私好みだ。
高かっただろうに…私のためにと思ってくれたのが、とても嬉しい。
「ありがと、ケータ、ジバニャン、ウィスパー!明日から早速使うね!」
「姉ちゃん、気に入ってくれた?」
「うん、もちろん!かわいいよ!」
「良かった!ね、ウィスパー、ジバニャン!」
「安心しました」
「オレっちセンスが良かったニャン!」
柄を選んでくれたと言うジバニャンが胸を張る。その姿が可愛らしかったので、思わず頭を撫でた。それからもちろん、ウィスパーと景太にも。うっすら頬を染めて嬉しそうに笑う。何てかわいい子達なんだろう!
これは私からも、渡さなくちゃ。
「実はね、私もケータたちにプレゼント用意してるんだよ」
「え!ほんと?!」
「ほんとかニャン?!」
「私にもですか?!」
「うん、ほんとは明日渡そうと思ってたんだけどね」
机の引き出しを開けて、隠しておいたプレゼントを取り出す。
ウィスパーには毛糸の帽子、ジバニャンには腹巻き。プレゼントを受け取った妖怪たちは「私、プレゼントもらったの初めてです…!」「やったニャーン!七海ちゃんすきすき!」と嬉しそうにくるくる回る。
そして景太には。
「あ…手袋?」
「うん、私もケータと同じこと考えてた。やっぱり姉弟だね」
紺色のニットに、星のマーク。一目見て、これだと思ったのが、この手袋だった。景太も、外を出るときはいつも手をポケットに入れて歩いている。転ぶと危ないし、朝の登校時間もこれで辛くなくなるはずだ。
それにしても、まさか、景太とプレゼントが被るとは思ってもみなかったなあ。
「姉ちゃん…ありがとう!大事に使うね!」
「どういたしまして」
ぎゅうと景太が抱きついてきた。ぐりぐり頭を押し付けながら、「姉ちゃん好き!」と言ってくれる。本当にかわいい弟だ。
ふとジバニャンとウィスパーの視線を感じたので、私は彼らもまとめて抱き込んだ。ぎゅうぎゅう抱きしめれば、とても暖かい。
「あ!姉ちゃん窓見て!窓!」
「うん?あ!」
「雪だニャン!」
「ホワイトクリスマスってやつですねぇ」
指を指された窓の外は、ちらちらと白い雪が降りてくる。「積もるかな?」「オレっち雪は苦手ニャン…」「ジバニャンは猫ですもんねぇ」そんな風に、私の腕のなかで楽しそうに声をあげる3人組を、私はとても愛しく思ったのだった。