それは猫のトレードマーク

60年前のケマモト村に遊びに来た私は、目の前で行われている「それ」に、目を見張るしかなかった。


「てれってれって〜てれっガッツ!」
「…何、それ」
「七海!お前知らないのか?!これは正義の味方ガッツ仮面のポーズなんだぞ!」


おじいちゃん…もといケイゾウくんがポーズを決める。だからどうしたと言いたくなった口を閉じて曖昧に笑えば、ケイゾウくんの隣のフユニャンも苦笑いをしていた。

なるほど、この年齢の男の子は確かにヒーローものに憧れるものである。
けれどそれを自分の祖父がやっているとなると、どうにも複雑な心境になるのは仕方がなかった。なぜなら私は女子である。はっきりいって良さがわからないのだ!


「お前も俺の孫なら一緒にやるんだ!」
「えっ?!私も?!」
「あったり前だろう!ケータは少年ビートとしての修行をここで積んだぞ!」
「少年ビート…?」
「少年ビートは、ガッツ仮面の相棒だ」
「あ、そうなんだ…」


フユニャンのわかりやすい解説に、私はとりあえず頷いた。それを見たケイゾウくんも満足げに頷き…あれ、本当に私もやることになってるの?!ケータだけじゃダメなんですかね?!
秘密基地のなかにある岩に腰かけていた私の手を引っ張って、ケイゾウくんが無理矢理たたせる。「行くぞ!」って、ちょっと!そのポーズの仕方知らないんですけど〜!


「てれってれって〜てれっガッツ!」
「がっ、ガッツ…て、わああ!」


案の定、運動神経が悪くはなければよくもない私が、急なポージングを決められるわけがなく。足を絡ませて盛大に転んでしまった。「七海!」「大丈夫か?!」と、二人が駆け寄ってきて、引き起こされる。ピリッとした痛みに足を見れば、膝に擦り傷ができていた。うう、地味に痛いッス。


「俺、ユキっぺに薬借りてくる!あと頼んだぞ、フユニャン!」
「わかった」
「あ、ケイゾウくん!」


ちょっと待って、の声も聞かず、ケイゾウくんは一目散にかけていってしまった。あまりにも足が早いから、あっという間に見えなくなる。
大げさだなあ。ただの擦り傷なのに。

手持ちぶさたになった手を引っ込めて、無駄に前髪を整える。「大丈夫か?」とフユニャンからの問いに、「うん」と答えた。


「悪かったな。アイツは良くも悪くも真っ直ぐなんだ」
「ううん。まあガッツ仮面のポーズは正直ごめんなんだけどね」
「七海は女の子だもんな」
「あはは、うん。そうそう。もうヒーローとか、そういうごっこ遊びって卒業しちゃったからさ」


女の子、だなんてくすぐったい。
何となく恥ずかしくなって無意味にもう一度前髪を触っていると、「あ、」とフユニャンが私に近づいてきた。すっと伸ばされた手が、私の頬を掠めていった。


「わ、フユニャン?!」
「頬にも土がついてるぞ」
「え、ほんと?」


ふにふにふに。フユニャンの肉球が私の頬を撫でた。「よし、これでいいぞ」とかっこよく笑むフユニャンだけど。ちょっと待って。なにこれ、めちゃくちゃきもちいいんですけど!


「フユニャン、手貸して!」
「あ、おい!」


ふにふにふに。ピンク色したフユニャンの肉球を押してみた。やっぱり、思ったとおりだ。滑らかで柔らかな感触がたまらない!「こ、こら七海!」と、フユニャンが焦った声を出したが、私は触り続けた。だって、気持ちいいんだもん。かわいいし、ふにふにだし!


「たまらんなあ、たまらんなあ」
「ちょ、七海!」
「いいなあ肉球」


何だか変態ちっくでごめん。でもね、フユニャンの肉球が気持ちよすぎるのが悪いと思うの!
フユニャンのこの手から繰り出される「ど根性ストレート肉球」は、ほんとは痛くないんじゃないかと思うくらいなんだから。


「おーい七海!フユニャン!待たせたな!」
「あ、ケイゾウくん!」


ふにふにとフユニャンの肉球を堪能していると、ケイゾウくんが救急箱を持って走ってきた。「け、ケイゾウ!助けてくれ!」おっと、逃げようったってそうはいかないよフユニャンさん!


「あ?なんだ、どうしたんだ?」
「フユニャンのね、肉球が気持ち良くて!」
「フユニャンの肉球?」
「そうなの!ケイゾウくんも触ってみてよ〜」
「おい、七海!」
「いいからいいから〜」


ケイゾウくんにも触らせてあげれば「おおー」という感嘆の声があがった。それくらい気持ちいいフユニャンの肉球。素晴らしい。これは至宝だ!
肉球は、猫によっては固さや色も違うという。今度ジバニャンにも触らせてもらおうかなあ。フユニャンとどっちが気持ちいいかな。ふにふにふにふに。



「お前ら…いつまで触ってんだー!」



その後フユニャンからど根性ストレート肉球をお見舞いされたのは仕方がなかったのかもしれない。私怪我人なのに…。

でも必殺技になると、このやーらかい肉球も、友を守るための固い拳になるんだなあと、身をもって実感したのだった。