初めまして、女の子です!

「あら〜七海じゃないの〜」
「こんにちは、えんらえんら。元気だった?」


その日私は60年前のさくらニュータウン、もとい桜町に来ていた。手には元祖まんじゅうの箱がある。これはもちろんお茶のみ友達の土蜘蛛と食べるためのものだ。甘いものが好きな土蜘蛛とは、時間があればお菓子をもって遊びに行くほど仲良くなっていた。実はあれでいて、結構な話し上手だったりする。私は、そんな土蜘蛛とお菓子を食べながら、他愛ない話をするのが好きなのだ。


「もちろんよ〜。今日は一人なのかしら〜?」
「うん。土蜘蛛に用があって。土蜘蛛、いる?」
「いるわよ〜呼んでくるからちょっと待っててね〜」


ふわふわ浮きながら、えんらえんらがどこかへと向かっていく。その後ろ姿を見送って、なんともなしに見上げれば、ぽっかり浮かぶ雲が一つ。あの雲、なんだかえんらえんらみたい。

この平釜平原はいつみても空が広いと思う。
緩やかに、風が吹き抜ける。さわさわという草の擦れあう音が心地いい。

ああ、今日はピクニック日和だ。


「あっらー!あなたが噂の七海ちゃんね?!」
「あ、おい!女郎蜘蛛…!」
「へ?」


そこへ、突如野太い声が聞こえた。ぱっと振りかえれば、そこには土蜘蛛が二人…え、二人?


「あらあらあらー!かっわいいじゃないー!」
「え?えーと?」
「女郎蜘蛛!貴様、あれほど出てくるなといっただろうが…!」
「いいじゃない!こんなにかわいいんだもの、私にだって挨拶くらいさせなさいよね!」


「だからモテないのよ!」と指を突きつけるピンクの土蜘蛛に対して、「うるさい!貴様には関係ないわ!」と、いつもの土蜘蛛が怒鳴る。何が何だかわからず、「あのー…」と声をかけたところでようやくピンク色の方の土蜘蛛がこちらを見た。バチッと目が合った。

わわわ、しかもこっちに来る?!


「あらあら、ごめんなさい!こんな可愛い子をほったらかしてにして、こんなむさいやつを相手にしちゃってたわ!」
「女郎蜘蛛!貴様!」
「ほーんと、男ってやーねー!私、女郎蜘蛛っていうの。よろしくね、七海ちゃん!」


バチコーンとウィンクが飛んできた。後ろで私の知ってるいつもの土蜘蛛が、地団駄踏む勢いで怒っている。でも女郎蜘蛛さん?は無視だ。


「…はい、あの。七海です。よろしくお願いします」
「うふふ!話は聞いてるわよ〜!何でもあのケータのお姉ちゃんなんでしょ?」
「はい。えと、女郎蜘蛛さん?」
「んもー! 水くさい!私と貴女の仲じゃない、女郎蜘蛛でいいわよ、女郎蜘蛛で!敬語もなーし!」


いや、まだ会ったばかりですけど、どんな仲?

それにしても随分とテンションの高い妖怪である。その高さについていくことができなかった私は、「はあ…」となんとも気の抜けた返事をするしかなかった。
「うふふ。緊張してるの?かっわいー!」いや、緊張ではなくどうしたらいいかわからないだけです。


「私ねぇ、人間の女の子と友達になりたかったのよお!」
「あ、そうなんですね…じゃなかった。そうなんだね」
「人間界って、お化粧道具いっぱいあるじゃな〜い?もう羨ましいのなんのって!」
「うん…あ、の。女郎蜘蛛って、その…」


お化粧道具とか言ってるけど、男、だよね?

声は低いし、ガタイもいい。どっからどうみても、土蜘蛛と同じく男に見える。
しかし真正面から聞く勇気のなかった私は、喉まででかかった声を口の中で殺した。もし、万が一、女郎蜘蛛が男じゃなかったら?
初対面で喧嘩売るほど私は、気が強くないのだ。
けれど、答えは土蜘蛛が代わりにくれた。


「七海。こやつは察しのとおり男だ」
「うふふ。心は女の子だけどね!」
「そ、そっかあ…」


本当に「オカマ」さんだった。妖怪の世界って奥が深い。


「ちゃんとついてるものはついてるわよ〜?見てみる?」
「え?!」


チラッと女郎蜘蛛が袴を持ち上げる。
ちょ、いきなり下ネタ投下ですか?!別に女郎蜘蛛が、本当は女じゃないかなんて疑ってないから!

慌てて目を反らしてぶんぶん手を降ったら、女郎蜘蛛は「照れちゃってー!かーわーいーいー!」。…もうどうにでもなってください。


「すまぬな、七海。こやつは我輩の親戚なのだ」
「そ、そうなんだ…」


だから土蜘蛛とそっくりなんだ。でも性格は大違いだけど。はあ、と思いきりため息をつく様子は相当疲れているようだった。…確かに、女郎蜘蛛と土蜘蛛はテンションの差がありすぎるものね。


「して、今日は…?」


そこではっと気づく。そうだ、私、今日は土蜘蛛とおまんじゅうを食べようと思っていたのだった!
あまりにも女郎蜘蛛のキャラクターが強烈すぎて、当初の目的をすっかり忘れていた。


「あのね、おまんじゅう、食べるかなあと思って持ってきたんだ」


「どうぞ」と手に持っていた箱を渡すと、土蜘蛛はぱっと顔を輝かせた。ほんとに甘いの大好きなんだなあ。「いつもすまぬな」と言いながら、「さっそく茶を用意させよう」と続ける土蜘蛛は明らかにウキウキしている。なんとも微笑ましい。

でも、今日はただ食べるだけじゃもったいない。だってこんなに天気がいいんだもの!


「ねえ、土蜘蛛。今日はピクニックしにいかない?」
「なに、ぴくにっく?」
「うん。どこか景色がいいところでおまんじゅうを食べるの」


どうかな?と聞けば、土蜘蛛は「妙案だな」と首を一度縦に振った。そうと決まれば早速行動に移すのみ!


「あ、女郎蜘蛛も一緒にどう?」
「あら!お邪魔してもいいの?」
「うん。女郎蜘蛛が良ければ。ね、土蜘蛛」
「あ、ああ…」


微妙な顔をして頷く土蜘蛛に、女郎蜘蛛がニヤリと笑って見せる。「悪いわねえ、土蜘蛛。お邪魔しちゃって!」「うるさいわ!」この二人、あまり仲良くないのだろうか。


「さ、行きましょ!私、おすすめの花畑を知っているの。おまんじゅうを食べるならそこがいいわ」
「わあ、ほんと?楽しみ」


すっと自然な流れで手を捕まれ、女郎蜘蛛のあとを追う。何だか変わった妖怪さんだが、嫌な感じはしない。仲良くなれそうだ。


「ではしゅっぱーつ!」
「おー!」
「お、おお…(くそ、女郎蜘蛛め…!)」


その後女郎蜘蛛と仲良くなった私は、土蜘蛛のことはほったらかしで、女子トークに花を咲かせることになる。


この日、体は男、心は女のお友達ができた記念すべき日となったのだった。