君はともだち
※コマさんSネタがあります
「もんげー!!どうしようズラどうしようズラ!」
「…ん?」
桜中央シティのもぐもぐバーガーを訪れたときのことである。いざ注文を!と勇んだところ、見慣れた姿が目に入った。コマさんである。何やっているんだろう、こんなところで…。
「おーいコマさん?」
「はっ!七海〜!助けてほしいズラ!」
呼び掛けたのが私だとわかった瞬間、コマさんは勢いよく私の腕のなかに飛び込んできた。そしてそのままぎゅうううと締め付けてくる。って!痛いー!いつもよりなんか力が強くない?!
「こ、コマさん?!苦しい!苦しいよ!」
「もんげー!!ごめんズラ!オラ今力を制御できなくてぇぇ」
えぐえぐ、と涙するコマさん。何が何だかわからないけど、とにかくコマさんは困っているらしい。お腹すいてたんだけど、放っておけないよね…。
仕方なく、私は予定を一度中断して、コマさんを抱き上げた。「ズラ!?」ここは人の目もあるから、早く場所を移したい。
「七海?!何するズラ?!」
「ちょっと外に行くよー」
「えっえ?外ズラ?」
「うん。このまま大人しくしててね」
抵抗されちゃうと、誤って落としかねない。しっかりコマさんの体に腕を回せば、ようやく少し落ち着いたのか大人しくなった。いつもとは違う視界の高さに興味津々なのか、キョロキョロと目を動かしている。何だかこどもみたいだ。途端に庇護欲がわいて、コマさんの頭を撫でてみた。目を細めて気持ち良さそうだ。お母さんになるってこんな感じなのかな。そんなことを考えながら、私はもぐもぐバーガーの自動ドアを潜ったのだった。
「それで、どうしたの?何かすごく困ってたけど…」
さざなみ公園の海辺まで来ると、私は近くにあったベンチにコマさんを下ろした。途中寄ったカフェで買ったエクレアを渡しながら、何があったのかを聞く。すぐにエクレアを嬉しそうに受け取ったコマさんだったが、私の言葉に耳を垂らしてしまった。
「実はオラ…Sになっちゃったんズラ!」
「S?」
Sって、SMのS?サドのS?コマさんがS?!
コマさんがムチを持って、誰かを踏み潰している姿を想像した。時々蝋燭の蝋を垂らして、悶える相手を嘲笑う。「オラオラ〜!足でもなめてみろズラ!」その姿はまさに修羅…
「こ、こ、コマさん?いつからそんな趣味を持ったの?!」
「?何のことズラ?オラ趣味なんてないズラよ?」
「えっだって、Sって…」
「Sランクのことズラ!」
「Sランク?」
そういえば景太から聞いたことがある。妖怪にも強さのランクがあって、一番下はEランク。D、Cと上がって、一番上がSなのだとか。
「あ、なるほど…そちらのSでしたか…」
「?とにかくオラ、今朝起きたら突然Sになってたズラ…」
「力が漲って怖いズラ〜!もっと穏やかな気持ちでいたいズラ!」とコマさんは再び涙するが、私は「コマさんが『S』じゃなくて良かった…」ということで頭が一杯だった。「そっち」を想像した私の思考回路のほうがよっぽど怖いわ。
「七海、七海?聞いてるズラ?」
「あ、うん…聞いてるよ。うまく力がコントロールできないんだね」
「そうなんズラ…このままじゃ、オラ暴れそうで怖いズラ…どうしたらいいズラ…」
確かに、今日のコマさんの妖気は、いつもより強く感じられた。ソワソワしているところからみても、コマさんがSランクの力を手に入れたのは本当のことなのだろう。
かといって、私がコマさんと戦って、余ってるパワーを発散してあげることはできない。
「うーん…」
「辛いズラ…このままだと七海にまで手を出しそうズラ…」
本当に、苦しいんだ。私は力が溢れてコントロールできないという状況になったことがないから、その辛さは計り知れない。けれど、今のコマさんを見ていると、泣いてしまうほど辛いのだということがわかった。それなら、やはりその力を発散してもらうしかない。
「コマさん、ケータを連れてくるよ」
「ケータズラ?」
「うん。ケータならジバニャンや他の妖怪たちとも友達だから、戦って発散させてくれると思うよ」
「どうかな?」と聞けば、「もんげー!!ありがとうズラ!お願いするズラ!」と頭を下げた。そのてっぺんを撫でて、私は立ち上がる。もちろん、景太たちを呼びに行くためだ。
「それじゃ、ちょっと待っててね。呼んでくるから」
「わかったズラ!あ、七海!」
「ん?なあに?」
ごそごそとコマさんが肩にかけていたポシェットを探る。「あったズラー!」と言って、手を差し出してきた。
「コマさん?」
「これ、七海にあげるズラ!」
コマさんの手のひらにあったのは、ピンク色の包みに入った飴玉だった。イチゴ味。私が好きなやつだ。
「さっき話を聞いてくれたお礼ズラ!本当にありがとうズラ!オラ、優しい七海が大好きズラ!」
にこにこするコマさんの手のひらから、私はそっと飴玉を貰い受ける。それはなんだかとても輝いて見えて、私は胸元に持っていくと、きゅっと握った。
「ありがとうコマさん。それじゃ、呼んでくるね!」
「よろズラ〜!」
そして私は走り出す。一刻も早く、景太たちのもとにたどり着けるように。
もらった飴玉を握りしめて、これはもったいなくて、食べられないなと思ったのだった。
その後、景太とジバニャンたちによって、コマさんは無事に力の発散ができたらしい。でも強くなりすぎたから、しばらくは毎日戦って慣れさせるのだとか。
何はともあれ一件落着。良かったね、コマさん。